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JICA人間開発部 みんなで取り組む未来の学校給食・食育―プラネタリーヘルスの視点から―

今必要な、プラネタリーヘルスという考え方

農家、学校、工場、病院、それらにかかわる人々、山、木々、川、海、公害等を俯瞰したイラスト

プラネタリーヘルスとは、地球の健康と人間の健康が相互に関係しているという考え方です。

フードシステムは生産に始まり、加工や輸送、調理過程など長い長い道のりを経て、人々の食を通じた楽しみや感謝の気持ちへと繋がり、日々の食事の積み重ねが人々の栄養・健康状態へと影響します。昨今は、気候変動による洪水・干ばつなどの被害で食料危機が起こる一方で、食品流通が制限されるような地域では、加工食品や高カロリー食の摂取による過栄養やそれに伴う合併症リスクが増加しています。
さらに、地球のCO2排出のおよそ3割にフードシステムが起因していると言われており、気候変動と食・栄養の問題は密接に関係していることが指摘されています。
プラネタリーヘルス(地球の健康と人間の健康が相互に関係しているという考え方)の観点で学校給食・食育の取組みを見ることで、子供たちの栄養課題にどのように取り組んでいけるのかを検討することを目的として、JICA-Netマルチメディア教材「プラネタリーヘルスから考える日本の学校給食・食育」を作成しました。

静岡県袋井市の「日本一みらいにつながる給食」

教材では、日本における長い学校給食の歴史を振り返りながら、静岡県袋井市における学校給食・食育の取り組みを例に、食物の生産から残渣の活用まで環境へ配慮した循環型システムの一連の流れを大変分かりやすく解説しています。循環型学校給食は、まさに未来の学校給食のかたちかもしれません。そういった意味で、まさに袋井市が提供する学校給食は「日本一みらいにつながる給食」とも言えるでしょう。
本教材の一番の見どころは、小学校の教育現場で実際どのように給食が提供され、子どもたちの食習慣の形成を促すための食育が実践されているか、映像を交えながら多くの人々が真心をもって学校給食・食育に関わっている様子が分かる点です。
東京大学大学院医学系研究科の橋爪真弘教授、長崎大学大学院プラネタリーヘルス学環の春日文子教授にも解説いただき、学術的な視点からもプラネタリーヘルスを検討する上で学校給食・食育が果たす役割を、初めて「プラネタリーヘルス」という言葉を知る方々へも大変分かりやすく説明しています。

小学校で生徒たちが給食を配膳している

子どもたちが給食の準備や配膳をすることは、食育において重要です。

よりよい給食制度づくりのコツを伝える教材

地元の農家の男性がビニールハウスでインタビューを受けている

袋井市の学校給食では、地元の農家から野菜を買う「地産地消」を推進しています。

日本の学校給食については昨今いろいろな動画がアップされており、世界的にも注目されています。それらは子どもたちの配膳や片付け、給食センターの様子などが多いのですが、本教材では、自治体として給食制度をどのようなビジョンで進めているのかを市の担当者の声とともに解説しています。
給食を「子どもたちの味覚を育てる」ために大事に考えていること、そのための減塩の取り組み、データとして確認すること、残食を減らす取り組み、農家をどのように巻き込むか、給食センターに隠された災害時対応など、袋井市教育委員会おいしい給食課の石塚浩司係長のコメントには、たくさんの「よりよい給食制度づくりのコツ」のヒントが隠されており、これから給食・食育を進めていこうとするさまざまな国の方々に、新しい視点をお伝えできるのではないかと考えました。
撮影時には、トータルの動画の長さも考慮して本教材に収まりきらなかった内容(栄養教諭による食育の様子や農家からの経験談など)も収録することができました。

研修やイベント等で活用

本教材は、JICA来日研修の研修員、JICA専門家やカウンターパートのほか、これから学校給食・食育を導入・改善する予定のすべての関係者に見ていただきたいと考えています。また、日本国内の給食・食育関係者、民間企業や教育機関に所属する関係者等も想定しています。
今後は、給食・食育などの栄養に関連した各種JICA研修(人間開発部・経済開発部)や、能力強化研修「ライフコース・アプローチによる栄養課題解決に向けた人材育成」の教材として活用予定です。
また、様々な学会、イベントなどでも活用する想定で、既に2024年国際子ども栄養フォーラムで上映したほか、2025年3月のNutrition 4 Growth Paris 2025(成長のためのパリ栄養サミット2025)でも使用する予定です。さらに、袋井市の取り組みとして新聞社からも取材依頼が来ている状況です。

栄養課題解決のアプローチの一つとしての学校給食・食育

「栄養の改善」は、JICAグローバルアジェンダの一つになっています。今年度、クラスター戦略「ライフコースを通じた栄養改善」を作成し、その協力の柱のひとつとして給食・食育が位置づけられています。日本では、100年を超える学校給食の歴史を踏まえ、食育の一 環でもある学校給食を「生きた教材」として位置づけられる様々な取り組みを推進しています。日本の学校給食・食育は、まさに食を通じて地球のこと、社会のこと、地域のこと、そして人のからだのことを考える、人づくりの取り組みです。
この背景をもとに、マルチセクター・マルチステークホルダーで取り組む重要性を踏まえ、今後の栄養協力のヒントとなるであろう日本の学校給食・食育の取り組みやJICAの協力を例に、栄養課題解決を目指す関係者の方々とアプローチの方法を検討するきっかけとしても、本教材を活用いただければ幸いです。

インドネシアの女性と日本人スタッフが牛乳を器に入れている

教材では、JICAの学校給食・食育での国際協力の事例も紹介しています。

※気候変動をはじめとする複合危機と栄養課題の複雑化について、以下にまとめています。ぜひ、併せてご参照ください。

JICA緒方研究所レポート「今日の人間の安全保障」第2号―複合危機下の政治社会と人間の安全保障
[論稿]複雑化する栄養問題へのマルチセクター/マルチステークホルダー・アプローチの実践による対応
(JICA緒方貞子平和開発研究所 客員研究員 野村真利香/主席研究員 牧本小枝)
https://www.jica.go.jp/jica_ri/publication/booksandreports/1534785_21881.html"

氏家 美帆
JICA 人間開発部

このページで紹介している教材

プラネタリーヘルスから考える日本の学校給食・食育

近年、地球温暖化による酷暑で野菜の価格が高騰するなど、私たちの食事が気候変動と密接につながっていることを実感するようになりました。また、温室効果ガスのおおよそ30%がフードシステムに起因すると言われています。このように、気候変動という変化において、『地球の健康』と『人間の健康』が相互に関係していることを理解し、それを実践で解決しようという考え方を『プラネタリーヘルス』といいます。 学校給食・食育は『プラネタリーヘルス』の具体的な実践と言えます。自治体、栄養専門職、調理者、学校、農家、子どもたちなどが地域一体となって協力することで、地域に根付いたおいしい給食が実現し、結果的に気候変動対策としての『適応策』だけでなく『緩和策』にもなりうるのです。 この教材では静岡県・袋井市の事例と専門家の解説を通して、日本の学校給食・食育について、特に気候変動の観点から、その特徴とポイントを約22分に凝縮してお伝えします。これから学校給食を導入・改善する国々のみなさんに、ぜひ見ていただきたいと思います。
作成:JICA人間開発部保健第二グループ
監修:野村真利香 JICA国際協力専門員
出演:橋爪真弘 東京大学大学院医学研究科教授
春日文子 長崎大学大学院プラネタリーヘルス学環教授
石塚浩司 静岡県袋井市教育委員会おいしい給食課係長