パプアニューギニアにおける海上運輸整備(Sylvester ROKUMANさん - 第3回)~JICA長期研修員へのインタビュー~

【写真】Sylvester ROKUMANさんJICA長期研修員(大学院留学生)・名古屋工業大学大学院工学研究科 所属(研修コース名:SDGsグローバルリーダーコース2019)・パプアニューギニア国 出身
Sylvester ROKUMANさん

今回はJICA研修員として、名古屋工業大学大学院工学研究科に留学しているSylvester ROKUMAN(シル)さんに4回シリーズでお話を伺います。 (聞き手:JICA中部 研修業務課)

JICA奨学金を獲得し、名古屋工業大学(名工大)で学ばれているシルさんですが、目標の一つは、特に母国パプアニューギニア(PNG)での都市や地方での交通計画・開発における専門性を磨くことだとおっしゃっていました。現在、鋭意研究中かと思いますが、その後、経過はいかがでしょうか?

チームを連れて、PNGの首都ポート
モレスビーの郊外、ケアパラビレッジ
にある桟橋に関する湾岸調査訓練へ

パプアニューギニア(PNG)は、特有の課題がある開発途上国ではないかと思います。言わずもがなの問題としては、ソフト面(システム)・ハード面(インフラ)を含む新たなインフラ整備、そして、その維持にかかる資金調達の問題があります。ただ、この問題は、政治的汚職や政策の裏にひそむ隠れた思惑などによって、さらに複雑です。

その意味で、日本のカウンターパートのメンバー達と働き、都市交通の計画・開発分野で鍛えられてきたこと、そして、名古屋工業大学(名工大)で、さらにその分野の専門知識を広げられたことは、母国に大きく貢献できると感じています。

ここ名古屋では、日本をはじめとする先進国が、交通インフラ整備をどう計画し、実行しているのかを学んでいます。特に、資金戦略や分析方法、輸送計画、そして、意思決定のための論理的思考などを学んでいて、非常に興味深く、有益であると感じました。

名工大での学習プロセスは、双方向の対話型ですし、オンライン会議を通じて、フランス、インド、ドイツなどからの講義もあり、これは思いがけない特典でした。このオンライン講義では、普段の授業とは別に、多くの興味深いテーマや新しい研究についての議論がなされました。

PNGでは物事が政治主導です。交通インフラ整備に関しても、政治家の意向で決定が塗り替えられることも当たり前で、国内のデータ分析結果や活用可能な政策も無視されています。

私がPNG政府に勤めていた時も、政治家が、どこに道路が建設されるべきかや、どのプロジェクトが一番に着手されるべきかなどを指示していました。しかし、日本では、交通インフラ整備に関する政策は、必要なデータの蓄積・統計分析を用いて、厳密に進められており、様々な変数や可能性がきちんと考慮されています。

横浜港での視察

大学院の研究では、母国の南海岸沿いの農村地域を調べています。この地域では、海岸線に続く道でもある、畑やコミュニティーに(山からの)洪水が流れ込み、水没する現象が観測されています。そのため、研究では、どのような気候・海洋・環境条件が、このような現象を生み出しているのかを理解し、また、その現象によって、隣接する海岸がどう反応するのかを特定しようとしています。

海底地形測定の分析では、磯波帯(いそなみたい※)全域における、異常で不均一な海底を解明することができます。実は、この海底状況こそが、不均一な潮や潮の流れ、波の動き、海岸沿いの堆積物につながっている可能性があるのです。

この異常な組み合わせにより、航行上の危険が引き起こされている可能性があり、また、この海岸地域で頻繁に発生する、いくつかの致命的な事故も説明できると考えています。このように、研究では、海岸過程と気候過程に関しての理解を深めています。

この海岸や海、気候に関する知識や理解こそが(構造解析や構造安定性、都市交通計画などに関する講義や会議での詳細な議論・実践を含む)、ひいては、自身の業務の理解度をますます高めています。業務で、港湾や沿岸・海洋構造物の設計や施行をする際には、見通しを持って、実行可能な解決策を含んだ評価や提案をすることができると感じています。

このように、私の研究範囲は非常に広く、洪水解析、気候科学、海洋学、海岸地形学、海岸過程、河川解析(河川作用)、測地学、データ解析とシミュレーションの分野をカバーしています。

母国では、政府の港湾技術者として働いていますので、研究では自身の理解が広がることで、特に港湾や沿岸輸送分野の、今もなお多く残る問題にも取り組みやすくなると感じています。今後、PNG政府が港湾開発に必要な政策や計画を策定する際には、大変貢献できると感じています。

日本は1997年以来、地域の安定と繁栄に貢献するとともに、日本と太平洋島嶼国のパートナーシップを強化することを目的として、PNGを含めた太平洋・島サミット(PALM)を開催してきています。(第9回太平洋・島サミット(PALM9)は、今年7月、テレビ会議方式にて開催済み。) シルさんは、母国では運輸・インフラ省にお勤めですが、日本はどのようにPNGのインフラ整備をより良く支援することができるでしょうか?

島の東側にあるミルン湾州の州都アロタウ郊外にて、日本人専門家を含むプロジェクトメンバーらと(シルさんは一番左)

この点については、PNGの海上輸送分野(港湾および輸送)での経験からお話させていただきますね。特に、2014年から2018年にかけて私が深く関わったJICA事業「運輸省港湾政策及び行政能力強化プロジェクト」から学んだ、運輸・インフラ省が取り組まねばならない課題について、まず触れさせていただきます。

課題のいくつかは、専門知識がないことに起因する問題もあれば、そもそも、港湾開発やその運営、管理体制や資金調達などの役割を、どの行政機関もしくは企業組織が担当するのかが不明確である点などもありましたが、一番重要なものは、政策枠組み自体でした。

上述のJICA事業「運輸省港湾政策及び行政能力強化プロジェクト」は完了しており、現在JICAのPNG事務所とともに次の事業の検討をしていますが、現在も、この政策枠組みがあまりうまく機能していないことから、国内のいくつかの湾岸プロジェクトは停滞してしまっているようです。実際、この政策/法的枠組みや役割分担の課題は、日本政府を含む関係援助機関にとっても、非効率な仕事をもたらしてしまっています。

実際のところ、今回の政策枠組みには、(逆に)日本政府とPNG政府が共にプロジェクトに効果的に取り組むことができる抜け穴が、もしかして、あるのかもしれませんが、とはいえ、JICA事業における経験からの示唆としては、港湾・海運管理の枠組みに留意しなければいけないと考えています。

そのため、個人的な意見にはなりますが、日本のPNGへのインフラ整備支援の改善点としては、まずは、運営に関わる関係者間での明確な役割分担であると考えています。それにより、日本の今後の支援も円滑に進められていくのではないかと思っています。
(最終回の次回へ続く)

※磯波帯(いそなみたい): 波が海岸近くの浅い水域に進入すると、波が砕け(砕波/さいは)、複雑な様相を呈しながら、汀線(ていせん。海面と陸地との境界線のこと。)の近くで、寄せ波となって終わる。 この砕波(さいは)から汀線(ていせん)までの間を磯波帯(いそなみたい)と呼ぶ。


※最終回となる次回は、シルさんが印象に残っている日本での思い出について伺います。お楽しみに!