島田監事監査意見についての対応

平成18年7月

「平成16年度 国際協力機構島田監事監査結果意見」に関する対応について(報告)

第1 「現場主義」関連

提案1:職員等の派遣前研修に関して

提案2:現場実務に直結した研修の充実について

職員の赴任前研修や専門家の派遣前研修において、専門家経験のある専門員による援助現場の実例を題材とした事例研究の発表及びその発表に基づくディスカッション等の実施を始めています。
今後とも、上記のようなタイプの研修を充実強化していく予定です。また、事務所経験者である職員にも、事業管理の観点から、現場において業務、事業についてのグッドプラクティス、バッドプラクティスなどの体験を赴任前研修において発表をしてもらう予定です。さらに、職員の赴任前研修及び専門家の派遣前研修において、PDMの実践的な活用の方法についての講義を実施します。
また、長期的には、PCM研修において、直近の実例をビデオにて紹介しつつ、PDMを作成する研修の導入(そのためには教材開発が不可欠)を検討します。

提案3:在外主導のための在外体制の強化について

「質的な意味での体制強化」に関しては、ナショナル・スタッフのさらなる質の向上を図るべく、特に平成17年度は事務所毎の研修のみならず、近隣事務所へ出張ベースで行う研修、地域支援事務所等を主な拠点とした「域内研修」の実施を行っています。また、高級クラークの課題対応能力を高めるための本邦集団研修を国総研と共催で平成18年1月に実施したほか、ベトナムより幹部候補の現地職員を1年間長期研修として日本へ招聘しています。

今後、以下の構成により質の強化を図って行きます。

提案4:先進国事務所の見直しについて

先進国事務所を含む事務所を「スクラップ・アンド・ビルド」することに関しては、現場強化促進のための在外体制の強化と効率化、事業の選択と集中に沿った在外拠点の再編及び、限られた人的リソースの効果的な再配分を目的として、56(先進国事務所も含む)を在外事務所数のベースとして在外体制(在外事務所・駐在員)の整理を進めています。
先進国事務所の見直しに際しては、必要不可欠な機能の有無を判断し、同機能遂行に必要な体制のスリム化も含め検討すべきであると考えています。その期待される機能(例として、以下記載)を踏まえつつ、56事務所の「スクラップ・アンド・ビルド」の中で検討していきます。

提案5:専門家リソースの海外への拡大について

研修員受入事業は現地で日本人専門家から技術指導を受けている中でも将来性のある人物が、日本にてその専門性を更に向上できるようプログラムされており、研修員が帰国した後も引き続き当該国の開発のための中心的な人材として成長していくことが期待されています。これらの帰国研修員が中心となって実行される事業には「帰国研修員フォローアップ」事業として、年間66件、約2億1千万円(平成16年度実績)が投入されています。
また、意見書で指摘されているとおり、現在は専門家派遣事業や研修員受入事業、フォローアップ事業など従来単体で検討されてきた個別事業は、今では柔軟に組み合わせて一つのプロジェクトとして実施できるようになっています。
また、イラク、パレスチナに対する支援において第三国研修の重要性はきわめて高く、近隣のヨルダン、エジプト等で活発に実施されています。また独立後間もない東チモールに対する支援の中で第三国専門家と第三国研修を組み合せた事業も実施されています。
「日系ブラジル人等第三国専門家のデータベース化、活用システム」に関しては、まずそのニーズの確認が必要であると考えます。

提案6:受入研修の在外におけるアウトカムの発現について

アクション・プランの在外事務所への送付と、その中でも国内機関・在外事務所が優良と判断する案件についてのフォローアップによる側面支援を積極的に推進しています。
カントリー・レポートについては、研修効果の向上のため、アクション・プランに直結したジョブ・レポートに転換することを検討中です。
また、インパクト発現情報等については、研修事業にかかるナレッジ・システムのあり方を検討します。

提案7:効率性に優れた援助案件実例(フォローアップ予算の有効活用)について

フォローアップ協力は過去に行われた案件の効果を維持・発展させるためのスキームです。その意味では必要最小限の投入で効率的、効果的な実施を確保するためにも技術協力や無償資金協力の付帯業務という本協力の予算趣旨を踏まえながら、フォローアップ協力の特徴である迅速かつ柔軟な実施を行う必要があると考えて、その実現に取組んでいます。
同協力の現場が存在する在外事務所や国内機関関係者のスキームや調達・契約手続き等、本事業に対する理解を促進する必要があり、マニュアル整備や制度改革をより一層進めていきます。

第2 専門家・コンサルタント関連

提案1:コンサルタントとの契約に関して

「コンサルタント等契約における現地再委託契約手続きガイドライン」を作成し、現地再委託契約手続きを、事後チェックの強化と事前手続きの合理化・効率化等の両面から見直しを行いました。見直しのポイントは次のとおりです。

提案2:過去の教訓の組織的活用について

過去の事業における教訓については、引き続き、ナレッジ・サイトや事業評価を通じて積極的に活用するよう努めていきます。
評価結果の活用促進のためには、制度面の整備、意識の改善に合わせ、評価の質の向上が不可欠であり、利用しやすい教訓の抽出が重要であると考えます。今後、教訓及びその活用事例等を教訓事例集として取りまとめた上で、引き続き、評価監理業務や研修等を通じて周知・改善を図って行きます。
また、会計検査院の指摘事項については、毎年11月頃に決算検査報告が国会に提出された後、指摘内容の骨子を本部内、国内、在外事務所に通知しています。同指摘事項のうち、JICA全体による組織的な改善及び、専門家やコンサルタントなどへの周知が必要な教訓についても、引き続き、関係部署の緊密な連携の下、研修や外部関係者等へのセミナー開催を通じて周知を図っていきます。

提案3:基礎資料の整備について

意見書に記載されているとおり、「人材データベース」の整備を進めており、平成17年4月から在外事務所も含め案件担当部がナレッジ・サイトからデータベースにアクセスが可能となっています。
また、国際協力活動に対し積極的な姿勢を示す登録人材については、海外での業務経験や自己アピールをする欄が充実し、通常の履歴書以上に人物が浮き彫りになるよう工夫されています。その結果、「人材データベース」は、課題部、地域部、在外事務所等で人選時の参考として活用されています。

提案4:公募公示に関して

「現場強化の推進」〈緒方プラン〉により、現地事務所に大幅に権限委譲を行い、職員等の在外事務所へのシフト、ナショナル・スタッフの充実強化、ロジ業務の一層のアウトソーシングを引き続き進めていきます。

提案5:選定基準の内容について

専門家やコンサルタントの人選は意見書で提言されているとおり実施されています。即ち、評価する際の視点は、与えられたTORを現地でいかに実行していける能力を有しているかということであり、候補者の過去の類似業務の業績は重要な評価ポイントとなっています。
また、候補者が過去にJICA業務を経験していれば、その当時の評価結果は非常に重要な情報として選考時の評価に加味されています。
さらに、専門家の業績をより多面的に評価できるよう、平成17年10月に専門家評価制度を改善しました。これにより評価結果が専門家の再活用に際し、より重要で信頼性のある情報として使用できるようになっています。

提案6:契約書について

契約事務に関する「責任の明確化」が指摘されていますが、専門家の契約書TORに関しては所管のチーム長決裁となっており、同時に責任も明確になっています。他方、意見書で指摘されているところの、契約書の署名者と事業実施上の責任者については、区別して考える必要があると思われます。
コンサルタント等契約においては、会計規程に基づき、契約署名者である契約担当役が監督職員を定め、契約書の中でその職務を明記することで事業実施上の責任・権限を明らかにしています。
また、十分具体性を持った記述による仕様書という点については、JICAが発注する調査業務は相手国政府との協働を前提に開発途上国内で実施するという性格上、当初想定できない外的要因等を受けて臨機応変に対応しなければならない場合が多々あります。そのため、事前に調査範囲を制限して個々具体的な特定業務を契約書に明記することは極めて困難なことである上、逆にそのことが成果達成の妨げになる可能性があることに留意する必要があります。
また、「コンサルタント等業務実績評価」は、主として業務プロセスに主眼を置いて評価していますが、これに併せて、別途に成果品検査を行って成果の質の確保に努めています。

提案7:専門家養成研修等の活用およびアウトカムの評価について

まず、専門家養成に関しては、平成17年度の養成研修において、平成16年度にあった15コースを活用率の観点から見直しを行い10コースに改編しています。さらに、平成18年度に向けては、全10コースをゼロベースで見直しています。
次に、青年海外協力隊員については、技術力に不十分な点が見られる場合、派遣前に補足的な研修を行う「技術補完研修」を行っています。また、青年海外協力隊の合格者増への取り組みとしては、要請内容の精緻化、資格要件の緩和、健康条件の緩和などの対応を図ってきており、平成17年度は平成16年度に比べて合格率が約7%増加しています。さらに、平成17年度から短期派遣制度を創設し、長期派遣の協力隊員での協力内容の補完を行うことや、協力プログラムに対する総合的な協力を行うことを始めています。この結果、要請と応募のミスマッチが減少し始めていると認識しております。
専門家養成に関しては、これまでの「中長期的な人材育成」から「現場で即戦力となりうる人材育成」へと大きく舵をきったところであり、その観点から、従来型の「養成研修」を廃止し、「能力強化研修(仮称)」を創設し、よりソフト型の複雑な案件への対応が可能な能力付加型の短期集中研修の実施を予定しています。この新たな能力強化研修では、例えば、JICAの環境社会配慮ガイドラインへの理解を促進するという観点から、対象者をコンサルタントに限定することもあり得るため、その際には受講料を自己負担とすることも検討する予定です。
次に、ボランティア事業については、平成18年度にさらなる応募方法の工夫によって、国民参加事業として国民の自発的なボランティア参加を促進していく考えです。また、アフリカ各国からのニーズの多いエイズ対策については、応募者に対し養成セミナーを実施する計画です。

第3 その他事業関連

提案1:“援助卒業”に当たっての配慮に関して

援助卒業を念頭におきつつ、交流基金やJETROとの協議をはじめとして、民間・大学等の連携により二国間協力の継続性が確保されるよう努めています。
今後は、日本政府の外交政策に沿って、卒業予定国での援助効果の持続・発展に資する活動を行っていきます。

提案2:青年海外協力隊員のアフリカ地域への派遣の拡大について

平成17年のバンドン会議における小泉総理のアフリカに対するODA3ヶ年倍増計画を踏まえ、現在アフリカへの青年海外協力隊派遣者数の増加に取り組んでいるところです。また、ボランティア事業を国別事業実施計画に位置付け、プログラム化を推進するため、現在、派遣計画の見直しを行っています。そこでは、実施中に限らず今後実施予定の他のスキーム(技術協力、開発調査、無償資金協力)と連携する可能性を検討しています。
EU加盟、DACリストの改編に伴い、東欧派遣国は協力隊派遣を取りやめることとし、ポーランド、ハンガリーについては平成16年度秋募集をもって最後としました。また、ブルガリア、ルーマニアについても卒業させることとし、平成17年度をもって募集を最後としました。
平成18年度には、協力隊派遣全体におけるアフリカのシェアを30%超にするよう計画しています。また、ボランティア事業が最も貧困層に近いところで活動する事業であることから、アフリカにおける重点分野も人間の安全保障に直結する『基礎教育』、『基礎保健』、『HIV/AIDS』、『安全な水』、『村落開発/貧困対策』を重視した要請開拓を行います。
引き続き今後も、JICAにおけるボランティア事業の有効性を高めるため、可能な限り他スキームとの連携を進めていきます。同時に、JICA協力の成果をより貧困層に届かせ人間の安全保障に結びつけるよう努力していきます。

提案3:住民主人公型の援助案件について

ご指摘のニジェール国「みんなの学校プロジェクト」は、無償資金協力によるソフトコンポーネントをベースにして、住民参加型の技術協力に発展したものであり、アフリカ諸国での無償案件と技協案件との連携という意味でモデル案件と考えております。これを踏まえ以下のとおり回答します。

  • (1)住民参加型事業の教訓の組織的共有
    特定テーマ評価「住民参加」では、ニジェール国「みんなの学校プロジェクト」を含む「住民参加型事業」を横断的に評価しており、評価結果については、平成18年度前半を目処に報告書として公開するとともに、評価セミナーの開催等を通じて関係者に広く共有する予定です。
  • (2)費用対効果、ニーズとプライオリティの考慮
    途上国のニーズに基づいた重点開発課題に対して、援助スキームを有機的に組み合わせて、プログラムとしての戦略性強化に取り組んでおります。
    外務省はコスト縮減のため、「コミュニティ開発支援無償」を打ち出しており、ニジェールにおいても、現地仕様による設計、施工段階での現地業者の積極的な活用により、今後は学校建設においてコスト縮減を図っていく予定であり、よりバランスのとれた援助に近づけるよう努力がなされているところです。
  • (3)無償資金協力のコスト削減
     平成15年度より、以下の方策によりコスト削減に取り組んでいます。
    1. 地域特性、ニーズに応じた適正仕様の採用、グレード等の設定
    2. 現地標準仕様(設計)の積極的な導入
    3. ローカル企業の一層の活用
  • 現地調達、第三国調達の積極的な検討
  • 日本側実施部分と先方負担部分の見直し

さらに、上記の方策を確実に実行すべく、積算審査の質向上に注力しています(コンサルタント等に対する事前積算ブリーフィングの実施、十分な審査期間の確保など)。

提案4:無償資金協力事業の評価について

無償資金協力事業の評価については、独立行政法人化の際に、JICAは「基本設計調査」の改善のため事後評価を実施する、と整理しました。この方針に基づき、平成15年度に試行的に2案件を、平成16年度には6案件を対象として、「基本設計調査の事後評価」を行っています。
なお、この評価はあくまで基本設計調査にフィード・バックすることを前提としたものであり、本体事業を評価する際の評価項目・手法とは若干異なっています。このため初年度である平成15年度に2案件の評価を試行的に行い、手法を開発しています。
基本設計調査の事後評価については、その結果をJICAのホームページに公表する予定です。
また、外務省は平成17年度に、無償事業のプロジェクトレベル事後評価を試行的に実施しています(52案件対象)。「将来的には全ての無償資金協力案件について実施することを目標」としているため、今後この本体評価とJICAの役割につき、必要に応じ検討して行きたいと思います。

以上