独立行政法人国際協力機構有償資金協力勘定における債権の状況

独立行政法人国際協力機構は、「銀行法」および「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」(以下「金融再生法」という。)の適用を受けませんが、有償資金協力勘定について、資産内容に関するディスクロージャーの一層の充実及び信用リスクの内部管理への活用を目的として、資産自己査定を実施しています。

当機構有償資金協力勘定の特徴として、途上国政府等向けの公的債権と位置付けられる与信が多いことがあげられます。この公的債権については、債務国の経済状況等により返済が一時的に困難となった場合において、持続的な債務返済を可能とするために、債権国間の国際的合意(パリクラブ合意)に基づき債務繰延べを行うことがあります(注1)。この一時的な流動性支援のなかで、債務国はIMF(国際通貨基金)との間で合意した経済改革プログラムを実施し、持続可能な債務返済能力を確保していくことになります。

パリクラブ合意により繰延べられた債権の回収の蓋然性に関しては、この国際的な枠組みによる債権保全メカニズムという民間金融機関にはない公的債権の特性があるものの、民間金融機関との比較を容易にする観点から、当機構が行う債務者区分で要注意先(要管理先)となった債務国向けの繰延べ公的債権については、原則、その形式に照らし、開示対象として要管理債権(貸出条件緩和債権)に分類しています。

(注1)国際収支状況の悪化等により、公的対外債務(債権者が国、貿易保険、輸出信用機関等の公的機関である債務)の返済が一時的に困難となった債務国に対しては、債権者会議(パリクラブ)等の場において債務繰延べ(リスケジュール)が国際的に合意され、債務国政府に対する一時的な流動性支援(国際協調の枠組みのもとでの国際収支支援)が実施されます。この一時的な流動性支援のなかで、債務国はIMF(国際通貨基金)との間で合意された経済改革プログラムを実施し、債務返済が継続されていくこととなります。当機構有償資金協力勘定の外国政府等に対する債権のうち、2022年9月末時点で、パリクラブにおいて合意済かつ債務繰延契約締結済の対象元本残高は556,240百万円となっています。この金額には、2020年4月に20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明で発表された債務支払猶予イニシアティブ(および2020年10月に合意した延長・2021年4月に合意した再延長措置)に基づくパリクラブでの支払猶予が合意された後、同合意に基づいて当機構と債務国が支払猶予契約を締結した債権が含まれています。

銀行法及び金融再生法に基づく債権及び保全状況(注2)

下表は、資産自己査定を踏まえ、銀行法及び金融再生法による開示基準(銀行法施行規則第19条の2第1項第5号ロ及び金融再生法施行規則第4条)に基づき分類を行ったものです。

(1)破産更生債権及びこれらに準ずる債権

破産手続開始、更生手続開始、再生手続開始の申立て等の事由により経営破綻に陥っている債務者に対する債権及びこれらに準ずる債権であり、資産自己査定に基づく債務者区分における実質破綻先に対する債権及び破綻先に対する債権です。

(2)危険債権

債務者が経営破綻の状態には至っていないが、財政状態及び経営成績が悪化し、契約に従った債権の元本の回収及び利息の受取りができない可能性の高い債権で「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」に該当しない債権であり、資産自己査定に基づく債務者区分における破綻懸念先に対する債権です。

(3)三月以上延滞債権

元本又は利息の支払が約定支払日の翌日から三月以上遅延している貸出金で「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」並びに「危険債権」に該当しない債権です。

(4)貸出条件緩和債権

債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金で「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」「危険債権」並びに「三月以上延滞債権」に該当しない債権です。

(5)正常債権

債務者の財政状態及び経営成績に特に問題がないものとして、「破産更生債権及びこれらに準ずる債権」「危険債権」「三月以上延滞債権」並びに「貸出条件緩和債権」以外のものに区分される債権であり、資産自己査定に基づく債務者区分における正常先に対する債権及び要注意先に対する債権のうち要管理債権「三月以上延滞債権」及び「貸出条件緩和債権」に該当する債権以外の債権です。

債権※

単位:百万円

2022年9月末 2022年3月末 増減
破産更生債権及びこれらに準ずる債権 - - -
危険債権 87,063 87,063 0
要管理債権 820,653 609,857 210,796
三月以上延滞債権 116,351 45 116,306
貸出条件緩和債権 704,302 609,812 94,490
小計1) 907,716 696,920 210,796
正常債権2) 13,815,891 13,476,552 339,339
合計3)=1)+2) 14,723,607 14,173,472 550,135
1)/3)(%) 6.17 4.92 1.25

保全額及び保全率※※

単位:百万円

2022年9月末 2022年3月末 増減
破産更生債権及びこれらに準ずる債権(A) - - -
うち担保・保証(B) - - -
うち貸倒引当金(C) - - -
保全率(B)+(C)/(A) - - -
危険債権(A) 87,063 87,063 0
うち担保・保証(B) - - -
うち貸倒引当金(C) 87,063 87,063 0
保全率(B)+(C)/(A)(%) 100.00 100.00 0
要管理債権(A) 820,653 609,857 210,796
うち担保・保証(B) - - -
うち貸倒引当金(C) 75,630 59,546 16,083
保全率(B)+(C)/(A)(%) 9.22 9.76 ▲0.54

※資産自己査定に基づき、破綻先及び実質破綻先に対する債権額から担保の評価額及び保証による回収が可能と認められる額を控除した残額については、取立不能見込額として債権額から直接減額しており、上表の債権及び貸倒引当金の額には含まれておりません。
※※保全額は、各債権額に対する貸倒引当金と担保・保証等の額の合計であり、保全率は貸出金等の額に対する保全額のカバー率です。

(注2)各債権に含まれる繰延べ対象元本残高は、上表に掲げた危険債権額87,063百万円のうち23,135百万円、要管理債権額820,653百万円のうち448,181百万円、正常債権額13,815,891百万円のうち84,925百万円、となっています。