高齢化社会の課題と未来
2026.06.24
日本と同様に、タイでも急速に高齢化が進んでいます。こうした課題に向き合う中で、日タイ双方が学び合う取り組みが進められています。
この一環として、2025年10月タイから8名の行政官が来日しました。高齢者福祉行政に携わる国もしくは地方自治体の職員が、超高齢社会の日本における高齢者福祉のあり方や自治体の取り組みについて理解を深める目的の研修に参加するためです。約2週間福井県に滞在し、介護保険制度や地域包括ケアシステムについて理解を深め、市町村でのフレイルサポーターなどの取り組みを視察するなどしました。
研修終了から約3か月後の3月、この研修を委託した福井大学医学部の先生方とJICA北陸のスタッフがフォローアップ調査団としてタイを訪れました。日本の後を追うように急速に高齢化が進むタイの現状を視察し、研修を通して得た知見を踏まえ研修参加者が課題解決のため考えた活動案はどのように推し進められているのか、さらに何かサポートできることがないのかなどを見極める事が目的の調査でした。
今回は、調査団に参加した福井大学医学部看護学科の長谷川美香教授、同じく医学部の山村修教授、同じく医学部看護学科の夏梅るい子助教に加え、取材のため同行した福井新聞の嶋本祥之記者の4人に再度集まっていただき、暑いバンコクでの1週間を振り返り、タイそして日本の高齢社会について考えました。
JICAタイ事務所での最後の報告を終えて。左から北陸センター高橋職員、タイ事務所オーさん、夏梅助教、山村教授、駒橋次長、長谷川教授、嶋本記者、JICA福井デスク木水
(進行/木水):皆さん、お久しぶりです。帰国してからずいぶん時間が経ったような感覚ですが、タイを訪問したのは3月。まだ冬物のコートが必要で、タイとの気温差が30度くらいでしたね。
今回皆さんは初めてタイを訪れるという方もいれば、初めてじゃないけれど、10年、20年以上ぶりという方もいらっしゃいました。タイの印象はいかがでしたか?
(長谷川):タイの一部しか見てはいないと思いますが、まずはバンコクが都会であることに驚きましたね。
(嶋本):そうですね、バンコクは東京や大阪と変わらないような街ですが、車で一時間くらい走っただけでサトウキビ畑が広がり、“田舎”の風景に変わります。福井よりも田舎という印象で、バンコクと地方の格差を感じました。
(夏梅):日本は中間層が多いですが、タイにはその中間層がなく、貧困層が多い印象で少し意外に感じました。貧富の差が日本より激しいのかなと感じました。
(山村):10mくらいの間隔で屋台があり、毎日お祭りか?と思うような風景でした。ただ、あんなに都会なのに、足元を見ると道の舗装がガタガタ。就学率の低さや人口として把握できない人が一定数いるという話を聞く一方で、ITリテラシーは日本より進んでいるなど、ギャップに驚く毎日でした。
ビルが建ち並ぶバンコク
(進行/木水):タイの高齢者福祉行政や高齢者介護については、日本での研修中に研修員といろいろと情報交換をしましたが、今回タイを訪れて、百聞は一見に如かずと感じたことや印象に残ったことはどんな事ですか。
(山村):オーソーモー(地域保健ボランティア)について、タイを訪問する前にもっと調べておけばよかったと思いました。タイでは1980年代にWHOの支援で始まり定着した歴史ある活動があるのに、本邦研修で、研修員の皆さんが高浜町での取り組みに注目したという話を聞いた時、私はそれが研修員の皮肉に思えてしまいました。高浜町の苦労を知っていたからです。
オーソーモーは、保健、医療、福祉分野の低額有償ボランティアと言えると思いますが、日本でも介護保険や医療保険といった形式に捉われないインフォーマルサービスの充実に取り組む事例があります。フレイルサポーター、認知症サポーターと呼ばれる市民ボランティア活動が行われていて、まさにオーソーモーと同じことをやっていると思います。
ボランティアを育成はしたけれど、それをどう持続させるかというのが今の課題となっています。
高浜町では地域医療を支えるソーシャルキャピタルとして、町民の方々に研修を受けてもらいボランティアとして育成を続けてきました。ただ、ボランティアは何人来てくれるかわからない、いつまでやってもらえるかわからない、活動はしてほしいけれど責任は持たせられないなど、持続面に多くの課題がありました。
(長谷川):本邦研修で、研修員からは課題として人材不足という話を聞いていましたが、フォローアップ調査での聞き取りでは、どこに行ってもたくさんのボランティアがいる、十分な人数がいるという答えが返ってきて、どういうことだろうと思いました。現地での調査でも仏教の教えから徳を積むことに熱心な国民性であることを教えてもらいましたので、このようなボランティアは身近で登録者数は多いのだろうと思いますが、一方で必要な時に確実に活動できる人はやはり限られているのだろうと推測します。
フォローアップ調査で訪れた研修参加者の所属先で
研修員の一人が、フレイルサポーターの活動を視察した際、住民同士が支え合う様子に感動し、涙を流したことがありました。フレイルサポーターとオーソーモーは同じようなものだと思っていたので、なぜ涙するほど感銘を受けるのか少し疑問に思いましたが、研修員はボランティアにどのくらいの手当てを受け取っているのか、どのように養成しているのかと熱心に質問をしていたので、ボランティアに登録している人は多いけれど、その人達をどう育てるかがタイの課題なのではないかと考えました。
(山村):フレイルサポーターや認知症サポーターを養成し、次のステップとして、自分たちで地域をよくするために動いてほしいが、その壁を乗り越えるのに苦労しているのが今の日本です。サポーターたちが自主的に動いてインフォーマルサービスを回していくことが理想の形だと思うが、うまくいっていないのと同じように、オーソーモーという先進的な取り組みをしているタイでもまさに同じところが課題になっていると今回のフォローアップ調査で感じました。
フレイルサポーターの活動を視察する研修員
研修参加者との意見交換の様子
(進行/木水):研修員が日本の現状を見聞きしながら自分の国のことを考えたように、私たちも今回の訪問でタイの現状を知り、日本のことを改めて考える機会になりました。研修や調査団が終了ですべてが終わりというわけではないと思っていますが、いかがですか。
(長谷川):今回の調査でもタイの省庁では女性が活躍していると感じる場面が多くありました。タイではジェンダーというよりは、年代・年齢差による年功序列という意識がハードルになっているのではないかと思いました。福井で行った研修は若い世代を対象とした青年研修というものでした。研修を通して様々な刺激を受けて帰ったと思うので、彼女たちのやる気が消えないよう定期的に情報交換する等して刺激をしあうなど継続的なサポートの必要性を感じました。
(夏梅):研修参加者同士は、同じ研修に参加して初めて接点を持った人もいたようなので、学んだことを生かしたいと思った時に上席の理解を得る必要があるが、一人ではそれが難しくても仲間がいることで力になるということもあると思うので、これからも横のつながりを大切にしていってほしいと思いますし、そういったつながりを支えるサポートが必要だと思いました。
研修参加者と再会を喜んで
世界の高齢化は先進国・途上国を問わず進行中と言われています。
日本は2007年に高齢化率21%を超え、超高齢社会に突入しており、タイはその後を追うように急速に高齢化が進んでいます。フォローアップは、タイと日本それぞれの強みなどについて学び合い、共通の課題についても考える機会になりました。
また、高齢者福祉や介護の在り方を通して日本の備えの高さについて考えた、一つ一つの国ではなくアジアという地域を意識したなど、現地での調査や人の交流を通じて考えたことも話してくださいました。
加えて、帰国後、職場の外国人スタッフと翻訳アプリを活用して積極的に話してみるようになったという話や、スマートフォンの設定を英語のままにしたり、英語のアプリを入れたりして、英語の勉強を始めたという話もありました。調査に参加いただいた一人一人にとっての一歩を後押しすることにもなったようです。
◎関連リンク
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