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子どもが主役の学びを世界へ

2026.10.27

(文責:JICA北陸 高橋 香水)


「先生が教える一方向性の授業」から、「子どもたちが主体的に学ぶ双方向性の授業」へ。

福井で学んだ授業づくりが、バングラデシュの教室を変え始めている

2025年9月、バングラデシュの教育行政関係者や学校教員(以下、研修員)の計6名がJICA青年研修「初/中等教育」コースで福井県を訪れ、福井大学や福井県内の学校で、日本の授業研究や教師教育について学びました。

それから1年後。
福井大学総合教職開発本部国際教職開発部の小森正勝准教授、沼尻卓也特命講師、William Tjipto特命助教とJICA北陸は、研修員のその後の取り組みをフォローアップするためバングラデシュを訪問しました。現地では、研修で学んだ内容がどのように活かされていたでしょうか。学校現場で確認するとともに、今後の取り組みのさらなる発展に向けて、課題や成果について意見交換を行いました。

現地で見えてきたのは、福井での学びを出発点として、授業改善に取り組み、その輪を周囲へ広げようとする教育関係者の姿でした。

教育の質向上が求められるバングラデシュ

南アジアに位置するバングラデシュは、急速な人口増加を続ける一方で、教育分野ではさまざまな課題を抱えています。例えば、増加する生徒数に対して教員数が十分ではなく、1クラス当たりの生徒数が50人を超える学校も少なくありません。
また、多くの学校では午前・午後の二部制が採用され、生徒はいずれかの時間帯に通学しています。子どもたちが学校に通えるようになった一方で、「学校で何を学び、どのような力を身に付けるか」という教育の質の向上が重要な課題となっています。

こうした背景のもと、バングラデシュ政府は近年、“Learning with Happiness(楽しく学ぶ)”を掲げ、知識の習得だけでなく、子どもたちの主体性や創造性を育む教育への転換を進めています。
この教育改革を実現するためには、子どもたちが主体的に学ぶ授業づくりと、それを支える教員の継続的な学びが欠かせません。
その手法の一つとして注目されたのが、教員同士が授業を参観して学び合い、子どもの学びに着目しながら授業改善を重ねていく、福井県で長年培われてきた「授業研究」の取り組みでした。

人口密度世界一のダッカ市街。夜も車やバイクで大渋滞。

帰国研修員が在籍するバングラデシュの中等学校。午前部の授業が終了し、一斉に生徒が帰宅する様子。

福井の教育文化を学ぶため日本へ

昨年の青年研修では、福井大学を中核に、教育委員会や学校現場が一体となって授業研究に取り組む福井県の教育文化について学びました。研修員は、福井大学附属義務教育学校や坂井市立丸岡南中学校、あわら市立芦原小学校などを訪問し、実際の授業を参観しました。
さらに、授業後の振り返りにも参加し、生徒の学びの様子をもとに教員同士が活発に議論する姿に触れながら、授業改善のプロセスについて理解を深めました。
振り返りでは、「教員がうまく教えられたか」を評価するのではなく、「生徒はどのように考えたか」 「どこで理解が深まったか」 「どのような支援が有効だったか」といった「見取り」手法を通じて、授業を振り返ります。

こうした文化に触れた研修員からは、「授業を教員個人のものではなく、他の教員や生徒を含めて、学校全体で改善していく考え方が新鮮だった」との声も聞かれました。
また、研修員の皆さんは、日本の学校の特色である、生徒主体の清掃活動や部活動、給食などの学校文化にも触れました。
授業以外の活動においても、生徒が役割や責任を担いながら学校生活を送る姿は印象的だったようで、学校が主体性や自律性、協働性を育む教育の場として機能している点に高い関心が寄せられました。

青年研修で福井県内の公立小学校の授業風景を視察する様子

青年研修の閉講式

研修後の変化を確かめるため現地へ

今回のバングラデシュ訪問の目的は、研修成果のフォローアップです。
帰国研修員が福井での学びを業務でどのように活かしているのかを確認するため、彼らの所属先である省庁や学校を訪問しました。現地では、帰国研修員本人だけでなく、同僚や上司、生徒たちとも意見交換を行い、研修後の取り組みや、研修員やその周囲に生じた変化について話を聞きました。
特に印象的だったのは、研修員一人ひとりが、研修で学んだ内容をそれぞれの立場や業務の中で実践しようとしていたことです。福井で見聞きした取り組みをそのまま導入するのではなく、バングラデシュの教育制度や学校環境、地域の実情に合わせて工夫しながら活用していました。
また、多くの研修員が、研修で得た知見を自分だけのものにとどめず、セミナーの開催などを通じて、同僚や上司に積極的に共有していました。福井での学びが、それぞれの職場で少しずつ広がり始めている様子がうかがえました。これは、研修事業において非常に重要な成果です。

一人の帰国研修員が知識や経験を得るだけでは、その効果は限定的かもしれません。しかし、彼らが所属先でリーダーシップを発揮し、周囲の教員や関係者へ学びを広げていくことで、より多くの子どもたちの学習環境の改善につながります。今回の訪問では、そのような研修成果の「波及効果」が着実に生まれていることを実感しました。

帰国研修員とその同僚、上司らと授業研究について理解を深める会議を実施

福井での学びを、それぞれの立場で実践

Case1:  学校現場から授業改革を進める教員
中等学校教員である帰国研修員は、福井で学んだ授業研究の考え方を帰国後も継続的に実践しています。
その変化は授業づくりだけにとどまりません。これまで以上に生徒との対話を重視するようになり、生徒たちも自らの経験や考えを授業内外で積極的に発言するようになったといいます。
また、校内では授業研究に関するワークショップを開催し、福井で学んだ内容を同僚教員へ共有しています。
一部の教員はすでに授業研究の試行を始めており、今後は学校全体へと取り組みを広げていきたいと意欲を語っていました。さらに、日本の学校文化から学んだ「生徒の主体性を育む」という考え方を生かし、生徒主体の清掃活動も一部で導入されています。学校生活の中で生徒が責任や役割を担う経験を通じて、自律性や協働性を育むことを目指しています。
二部制により授業時間が限られているという現地の課題に対しては、SNSアプリ「WhatsApp」を活用して、生徒から授業の感想や意見を集めるなど、バングラデシュの実情に合わせた工夫を取り入れながら、生徒との対話を深めています。

Case2: 教育政策への反映を目指す行政官
教育行政に携わる帰国研修員は、学校現場だけでなく、制度や政策の面から教育改善を進めようとしています。
帰国研修員は、日本の教育実践をそのまま導入するのではなく、バングラデシュの教育制度や学校現場の状況に合わせて活用することが重要だと考えています。特に関心を寄せているのが、福井で学んだ「見取り」の考え方です。これは、子どもたちの学習や成長の過程を丁寧に観察し、その変化を捉えながら教育活動の改善につなげていくアプローチです。現在は、子どもの成長過程を記録し振り返る仕組みづくりや、教員自身が授業実践を振り返るための「リフレクティブ・ジャーナル(内省日誌)」の活用について検討を進めています。担当する教育プロジェクトや調査事業の中で、こうした考え方をどのように取り入れられるかを模索しています。

子どもたちが積極的に発言する教室

帰国研修員が勤務する中等学校では、帰国研修員自身が模擬授業を実践する様子を視察しました。
授業のテーマは「BMI(体格指数)」です。生徒たちは自身の身長や体重のデータを基にBMIを算出し、その結果を踏まえて健康的な生活習慣についてグループで話し合いました。そして、自分たちの考えや気づきをクラス全体で発表し、互いの意見に耳を傾けながら学びを深めていました。

授業では、教員が一方的に知識を伝えるのではなく、生徒同士の対話や協働を重視した学習活動が取り入れられていました。特に印象的だったのは、生徒たちが積極的に手を挙げ、自らの考えを発表していたことです。自分自身の生活や健康を題材としていたこともあり、生徒たちは主体的に授業に参加し、仲間と意見を交わしながら理解を深めていました。

福井大学の沼尻特命講師は、授業中に特定の生徒一人の学びに着目して観察する福井式の「見取り」を実践しました。最初は慣れない外国人訪問者の存在を気にしていた生徒も、発表活動やグループワークが始まると学習に集中し、笑顔を見せながら活動に参加する様子が見られました。こうした観察を通じて、生徒主体の活動が学習への関心や参加意欲を高めていることがうかがえました。

バングラデシュの学校には、学級規模や学校設備、教材事情など、日本とは異なるさまざまな制約があります。しかし、そのような環境の中でも、生徒が自ら考え、対話しながら学ぶ授業への転換が少しずつ進められており、「子どもを学びの中心に置く」という理念が確かな実践へとつながり始めていることを感じることができました。

帰国研修員の模擬授業(左から順に、授業アシスタント、代表生徒、帰国研修員)

振り返りにおける福井大学・沼尻特命講師からの見取り結果の共有(左から順に、沼尻特命講師、帰国研修員2名、帰国研修員の上司)

福井の経験が国際協力の資源になる

今回のフォローアップを通じて改めて感じられたのは、地域に根差した教育実践が国際協力の大きな力になるということです。
福井県では長年にわたり、教員同士が互いの授業を観察し、語り合いながら授業改善を進めてきました。
こうした取り組みは、福井県内では日常の風景かもしれません。しかし海外から見ると、教師の専門性を高める優れた仕組みとして高く評価されています。
国際協力というと、特別な技術や大規模な支援をイメージする方もいるかもしれません。しかし実際には、地域で培われた経験や知恵が、遠く離れた国の学校や教室で活かされることも少なくありません。福井の教育現場で育まれてきた学び合いの文化も、その一つです。

帰国研修員とその上司、福井大学教員との記念写真

学びの連鎖をこれからも

研修を受けた教員が授業を変える。
その教員が同僚へ経験を伝える。
学校全体に実践が広がる。
研修を受けた行政官が仕組みを作る。
そして、子どもたちの学びがより豊かなものになる。

今回のフォローアップでは、その第一歩が確かに始まっていることを確認することができました。
JICA北陸は今後も福井大学と連携しながら、福井で培われた教育の知見を世界へつなぎ、子どもたちのより良い学びの実現に向けた協力を続けていきます。

帰国研修員も生徒も笑顔の教室

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