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【富山県】意識改革と工夫で多様な人材が活躍できる職場づくりを!~「共創の未来とやま」第2回セミナー報告~

2024.11.01

第2回セミナーは、「共創の未来とやま」の協働メンバーであり、自身の会社でも外国籍の人材を雇用している(株)村尾地研・村尾英彦さんのファシリテーションにて開催しました。企業において国籍を問わず、様々な人たちが活躍できる未来像やそのために必要となりうることとは。村尾さんによるリポートです。

2024年10月18日に「誰もが個人として尊重される地域社会の実現」を掲げる「共創の未来とやま」主催の第2回セミナーを開催した。8月23日に開催された第1回目セミナーでは「外国人住民がもっと地域に溶け込み、地域で活躍してもらうためには?」というテーマのもと、福井県の先進的な取り組みの講演や、射水市で多文化共生のために活躍する方々による議論が行われている。今回のセミナーでは「外国人材との共生による企業活動の可能性と未来」というテーマで(株)農園たや の田谷徹さんと、前田薬品工業(株)の前田大介さんによる講演をお聞きした後に、パネルディスカッションを行った。

田谷徹さんの講演要約

株式会社農園たや 田谷徹さん

(株)農園たやの田谷徹さんは福井県で農業を行われており、職場ではインドネシアからの特定技能/技能実習生の方々が働いている。田谷さんは、JICAの「草の根技術協力プロジェクト」で特定技能/技能実習生のインドネシア人の帰国後就農・起業支援を行う人材環流促進と、農園たやで特定技能/技能実習生が働くことをリンクさせている。「草の根技術協力プロジェクト」の内容は、特定技能/技能実習生の採用時から将来どのような仕事をしたいのか計画立案をしてもらい、その計画実現のための調査や勉強(例えば、金融関連の基礎知識や、アイデアのブラッシュアップなど)をスタートさせる。来日後は日々の農園での仕事に加えて、個々の計画実現のための勉強など(日本の事例・現場調査、ビジネスストラクチャー分析、ペイオフマトリックス分析、SWOT分析など)を継続し、最終的にはビジネスプランを完成させてプレゼンテーションを行った後に帰国する。これらは手法に関する内容が講座化されているものもあり、学び続けるための仕組みが整っている。また、田谷さんをはじめとする農園たやのスタッフの方々に加えて、インドネシアの農業省インストラクターも加わったオンライン授業も展開されており、特定技能/技能実習生は日々の仕事での収入を得ながら多方面からのサポートを受けて自身の計画(夢)の実現に向けての勉強などを継続的に行うことができる。加えて、関連する資料や起業支援情報を集約(使用言語:インドネシア語)したり、これまでの農園たやでの実習生との仕事・生活における成功、失敗を含めた経験談(サマサマ手帳)も公開したりされている。農園たやでは上記のようなマニュアル化、デジタル化、情報の共有化が進められており、これによって特定技能/技能実習生のためだけではなく、共に働く他社や日本人にとっても環境が整備された状態が提供されている。
農園で働きながら作成したビジネスプランは、特定技能/技能実習生がインドネシアに帰国した後に実行に移されており、フォローアップ調査においても彼らの活躍が報告されている。

前田大介さんの講演要約

前田薬品工業株式会社 前田大介さん

前田薬品工業(株)の前田大介さんは、富山県で主に外用剤を製造する製薬会社に加えて、飲食・食品事業、農業・農業加工品事業、SPA事業、旅行・宿泊事業などを展開されている。製薬事業をはじめとして各事業の世の中における立ち位置や課題、今後の事業展望(数値目標を含む中期的成長戦略)が示されている。また、グループのミッションとして「①:世の中の人々の心身と地域の健やかさを創造する、②:伝統を重んじイノベーションを創造する、③:世界で戦い抜ける人財を創造する」という事柄が掲げられている。また、現在の会社の状態に合わせて複数回にわたってアップデートされた人事制度、給与の決定方法、賞与等の分配方法などはもちろんのこと、詳細な社内規定等が整備・公開されており、従業員に周知されている。このように、分析に基づいた具体的な企業展開計画や今後の方向性を示す資料が細部に至るまで作りこまれた上で開示されているため、前田薬品工業およびその関連会社で働く人は国籍を問わず、組織の中で何を求められるのか、何をすべきかが明確となり、自身の希望や現状に合わせた仕事の仕方を選択できるようになっている。
直近の重点方針のうち海外に関連するものとしては、1億円超の海外マーケットの拡充(ベトナムでのアトピー関連の新薬販売、スピリッツ(ジン)の世界販売、精油配合スキンケア・ライフスタイル商品の開発・販売、東南アジアを中心とした、日焼け止め商品の開発・販売)が示されている。この重点目標達成をはじめ今後の前田薬品工業グループの展開においては「会社の成長戦略に多様な外国人社員のルーツや知識や世界観を活かす」ことや「日本人社員と外国人社員が互いに学び合える環境と事業を創る」ことは必然かつ当然なこととして社内で受け止められており、現在は正社員の外国人比率目標を10%としており、現時点ではグループ内でスリランカ、インド、コンゴ、バングラディッシュ、コロンビア国籍の社員が働いている。

パネル・ディスカッション要約

ファシリテーターの村尾英彦さん

パネル・ディスカッションは、共創の未来とやま実行委員の村尾英彦(村尾地研)をファシリテーターとして、講演者の田谷徹さんと前田大介さんをパネラーとして行った。冒頭に「外国人材関連の課題は存在するが、企業がそれらを解決しながら、外国人材との共生を進め、社会的、経済的な発展を望むことができる新たな社会を構築することに、多大に寄与できる可能性がある」ことを共有した上で、下記の3つのテーマを議題とした。

1. 第2回セミナーの趣旨と多文化共生について
2. 外国人材とのコミュニケーションについて
3. 企業における多文化共生の可能性について

テーマ1については、外国人材から見て日本は選ばれる国とは言い難くなっており、特に地方は選ばれ難く人材が定着しにくいことが話題となった。また、外国人材が活躍するには能力を発揮できる環境づくりが必要であることや、頑張ろうという意欲が削られる原因(例えば、言語、文化・価値観の違い、人との繋がりが希薄になることなど)を企業側が取り除いていくことが重要であることが話された。また、技能実習生や特定技能の採用が認められていない業種が多々あることや、来日した人材(主に実習生)が日本で継続して働きながら生活していくことへの制度が確立されていないことも問題であるとの共通認識を持つことができた。

テーマ2については、これまでの日本では多くの人々の間に同じような価値観が共有できているという前提があり、具体的に詳細を伝えなくても阿吽の呼吸のような感じで意思伝達をする(今回、司会を担当して頂いたJICA富山デスクの金岡紀子さんは、日本人の「言わなくてもわかる」ことや「空気を読む」といった感覚を一種のテレパシーと表現)ことができていたが(ただし、それらの意思伝達にどこまでの確実性があったかは不明)、外国人材との間では同じような認識や手法では上手く伝わらない。今後は企業での業務などにおけるマニュアル化・デジタル化を進めて情報の共有化のための整備を進める必要性が話された。また、これらの整備は外国人材だけのためのものではなく、企業で働く人全員のためのものとなることが話された。また、農園たやと前田薬品工業では、様々な情報が社内で整備、公開されているため、それらを見れば正確な情報が入手できるという社内インフラが整えられていることが、両社がコミュニケーションで苦労しない状況を作り出している一因であると考えられる。

テーマ3については、いまだに日本が先進国であるという思い込みはすでに過去のものであることを実感するべきであり、驕りのような感覚を捨てて、現状を正しく認識する必要性があることや、外国人材に日本語や日本の文化を学ぶことを課すだけではなく、日本人も同様に共に働く外国人の母国語を学ぶことや、文化を知ることの重要性が話題となった。前田さんが日本人のパスポート取得率は約17%でありG7諸国の中ではずば抜けて低いことを例に挙げ、日本人が海外に目を向けおらず、海外の現状を正しく認識できていないことの現れであり、日本は未だに鎖国中とも言えるのではないかという議論が行われた。さらに、企業における多文化共生を進めるにはリーダーがその姿勢を社内に示し伝えることが重要であることも話題となった。

【まとめと感想】

講演とパネルディスカッションを通して田谷さんと前田さんの企業経営の理念に基づく考えを聞くことができた。お二人は非常に先進的な取り組みを進められており、手法のみではなく何故そのような手法を取っているのかという理由なども説明していただいたため、多くの企業にとって学びを得る貴重な機会になったと考える。また、これらの内容は企業のみならず、市民団体や行政の方々にとっても参考になったと思われる。

左:田谷徹さん 右:前田大介さん

企業内における多文化共生を進め、外国人材の活躍の場を作るためには、社内での意識改革をはじめとした様々な工夫を行う必要がある。これらの改革や工夫は経営理念や実現したい計画等に基づいたものであるべきで、それらを各企業が積み重ねていくことで、企業の成長や発展に繋げられる可能性が高いと考える。このことは、日本が国として多文化共生に取り組むことが、新たな日本の文化を創り出すことや、国としての成長、発展に繋がる可能性を秘めていることと類似する。日本における新たな多文化共生の文化を創り出すためには、国・地方自治体が企業同様に、理念や方針を明確にした上で実現に向けての施策を立案し実行することが求められる。計画立案やその実行においては、企業、市民団体、法人、一般市民が共通認識を持って互いに協力することが不可欠であり、そのためには様々なレベルと分野で官庁・法人・企業・教育機関が連携し合える機能的なしくみづくりが必要であること、つまり「共創の未来とやま」での取組の意義を再確認することができた。
今回の講演内容のような話を聞く機会は現在では決して多くないため、今後も様々な形態でのイベント等を開催することは外国人材活躍の機運の醸成に役立つと思われる。
パネルディスカッションでは上記の3つのテーマ以外にも、キャリアプラン、帯同家族などの話題についての議論を行う予定であったが、時間の関係上できなかったのが残念であり、時間配分等に留意すべきであったことが反省点として挙げられる。

株式会社村尾地研 村尾英彦

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