神戸市の水道技術と経験を各国の復興と発展に ー中東、アフリカ、ウクライナ等の水道技術者達が来神ー

2023.08.01

各国で深刻化する水問題ー都市住民の健康と生活を支える上水道ー           
世界では約11億人が安全な水にアクセスできないと言われており、飲み水を原因とする感染症により、乳幼児を中心に年間50万人以上が死亡し、低体重・栄養失調の50%は水・衛生の問題に関連していると言われています。一方、1950年に世界人口の30%であった都市人口は、2050年には68%に達すると見込まれており、都市部へいかに安全な水を供給するかが多くの国で大きな課題となっています。
JICA関西は、これらの課題に取り組む開発途上国の技術者を育成するため、国際研修コース「都市上水道維持管理」を、神戸市水道局および神戸市水道サービス公社のご協力のもと、2015年より例年実施してきました。
2023年度は、コロナ禍後4年ぶりに来日研修として7月4日から29日まで、6か国(イラク、ウクライナ、カンボジア、ルワンダ、南スーダン、タジキスタン)の7名を招き、神戸市内を中心に、浄水・水質管理技術に焦点を当てたコースを実施しました。

紛争・災害からの復興に大きなヒントとなる神戸市の経験を学ぶー本山浄水場見学ー   
7月26日(水)午前には、神戸市で初めて膜ろ過による浄水処理を採用した本山浄水場を訪問し、具体的な水質維持管理技術のほか、水源、地勢条件や需要等を考慮した浄水方式採用の背景、維持管理の重要性に関する説明等を受けました。
研修員からは「生物浄化ユニットのメンテナンスは具体的にどうしているのか?」「維持管理コスト面から見た浄化方法のメリット・デメリットは何か?」「膜モジュール洗浄後の排水の処理はどうしているのか?」など多くの質問が出、神戸市側の技術者の皆さんから、時に実物を示しながら、懇切丁寧に回答して頂きました。
また「浄水場の配置と神戸市全体の水供給ネットワークとの関連について知りたい」という質問に対しては、災害や事故時、最低限確保しなければならない飲料水や消火用水等の確保を念頭においた強靭なネットワーク・デザイン「ラダー・システム」※について、リアリティある説明があり、他国による侵攻や内戦などで破損または劣化した水道システムへの対応を迫られている参加各国には、貴重な情報となりました。


神戸市水道局による概要説明

膜モジュールの模型に見入る研修員たち

生物接触ろ過機(前処理設備)

水質異常の有無を高精度で監視できる「バイオアッセイ」

神戸で学んだ知見を各国の問題改善に活用するための「アクション・プラン」作成     
一般的な視察団とJICA研修との間に一線を画すのは、研修員それぞれが、自国の喫緊の課題を洗い出し、それに対する具体的な行動計画を、日本で学んだ知見を活用して組み立てる「アクション・プラン」を研修の最後に成果として提出することです。
特に本コースでは、神戸市講師チームと研修員が、膝を突き合わせて議論する「サポートチーム」体制でアクション・プランを策定していくプロセスが特色となっています。
「観ただけのことはすぐ忘れるが、自ら考え発見したことは自分自身の知見となる。」と言われているように、研修員は講師との議論を通して、見聞きした情報をより掘り下げて考察することができます。この「サポートチーム」による意見交換の場は、技術や知識の定着に貢献し、研修員の能力を向上させ、ひいては現地でその技術等が活用される可能性を高めることで、開発途上国の水問題の改善につながっていると思われます。

サポートチームでの議論の様子(写真:7月12日、場所:浄水統括事務所)

サポートチームでの議論の様子(写真:7月12日、場所:浄水統括事務所)

注:送配水管をはしご状に組合わせて管路網を整備すること。1995 年(平成 7 年)の阪神・淡路大震災は、大都市直下での巨大地震による広範な被害をもたらしたが、この被災経験から、地震動をレベル 1・レベル 2 に分けて地震に強い水道施設を実現するための施設整備や、断水時でも最低限確保しなければならない飲料水や消火用水等が提示され(この神戸市の対応策が)以降の耐震化の指針となっている。(T2-50、2017年3月「日本の水道事業の経験」JICA/水道技術経営パートナーズ株式会社/株式会社日水コン)


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