jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

2023年度 第1回国際協力入門セミナー 「支え合いで深めたー兵庫とトルコのつながりー」

2023.10.05

JICA関西センターでは、9月14日(木)に兵庫県国際交流協会(HIA)、大学コンソーシアムひょうご神戸等と共に2023年度第1回「国際協力入門セミナー『支え合いで深めた~兵庫とトルコのつながり~』」を開催し、約200名の方にご参加いただきました。
セミナーでは、今年2月に起きたトルコ・シリア地震時の国際緊急援助隊に参加した当センターの河野職員による現地活動の紹介や、NPO法人海外災害援助市民センター(CODE)の吉椿事務局長による現地での複数回の緊急支援活動の紹介を通して、地震発生時の緊迫した状況や現況、現地の人々の思いなどが映像と共に伝えられました。また、HIAの横川専務理事より1999年のトルコ地震から現在まで続く兵庫県とトルコの相互協力について、土日基金のエミン副理事長より「ひょうごトルコ友愛基金」について、それぞれ詳しく伝えられ、震災復興、防災協力で紡いだ兵庫とトルコの信頼の歴史と目指すべき未来が共有されました。

【プログラム内容】

JICA関西 木村所長

セミナー冒頭、共催者を代表して当センターの木村出所長が開会の挨拶を行い、セミナーを通じ、「時間・空間・人・世界」の4つを「つなぐ」ことの重要性を考えてみましょうと、参加者に呼びかけました。

「時間をつなぐ」: 100年前の関東大震災をはじめ、世界各地で発生してきた大災害を時間軸の中で振り返り、発災時、復旧・復興過程で得られた教訓・知見を未来に向けて伝えることは、人類にとって重要であり、本セミナーが過去や現在の取り組みを紹介しながら未来に向けて一緒に考えていくことを意識したプログラム構成となっていることに触れました。
「空間をつなぐ」: 兵庫とトルコは震災後の協力の過程で、防災・減災の知見の共有も含めて、空間を超えて関係を深めたことに触れ、象徴的な出来事として兵庫県の「人と防災未来センター」をモデルとして設立されたブルサ防災館を挙げました。
「人をつなぐ」: 兵庫とトルコの時間・空間を超えた関係は人と人によって繋がっていること。当日の登壇者のつながりのみならず、本年3月に派遣された緊急援助隊専門家チームに、復興計画に精通した兵庫県職員の方が参加されたこと、7月にトルコから5名の市長を含む被災地のリーダーが来日され、阪神・淡路大震災からの復興を通じた知見・経験にもとづく意見交換を当地関係者と行ったこと、などに触れました。
「世界をつなぐ」: 国連防災世界会議を通じ、阪神・淡路大震災や東日本大震災の教訓が世界に伝えられ、行動指針が世界中で共有されていることに触れました。阪神・淡路大震災から30年となる2025年に向けて、その知見・教訓を国際的に発信し、世代を超えて伝えていくことが、HAT神戸(神戸市の東部新都心として震災後に開発された地区の愛称)に付託された使命であり、HAT神戸から発信される本日のセミナーがその実践になることを願う、と伝えられました。

①2023 年トルコ・シリア地震発生時の国際緊急援助隊の活躍
講師:河野 由紀子氏(JICA関西 開発大学院連携課 職員)

JICA関西 河野氏

河野氏からは2023年2月に発生したトルコ・シリア地震の際に国際緊急援助隊の救助チームとして派遣された時の経験を紹介しました。救助チームは74名で、2チームに分かれ第1陣は発災日の夕方には羽田空港から出国しました。
河野氏は、救助チームのロジスティックスを担当する業務調整員として、地震が発生した41時間後にはトルコの被災地で救援活動を開始していました。被災地では救助チームが活動する為に必要な衣食住の準備から通訳者との調整、広報などの業務を担当し、外国チームとの調整はJICAが主導で行いました。撤収時には、大量の荷物をどうするか、今後派遣される医療チームへの引き継ぎをどのように行うのかといったことも整理する必要があり、最後まで緊張感のある任務であったことをお話しました。
最後に、トルコの人々を助ける為に被災地に入ったものの、トルコの人々の助けなしには十分な活動はできず、特に精神面で支えられたという河野氏からは、厳しい寒さや過酷な環境の中で、人を救うという志をともにして一緒に活動し、まさに、「信頼で世界をつなぐ」をビジョンに掲げるJICA職員の仕事ができたと考えているとの感想を聞くことができました。
河野氏から紹介された倒壊した建物がある現場の写真や動画を通して、参加者の方々は被害がどれだけ甚大であったかを目の当たりにしました。また活動拠点であるキャンプの写真や動画もあり、支援活動の舞台裏も垣間見ました。

➁2023年トルコ・シリア地震発生時の現地への援助―緊急支援及び復興支援―
講師:吉椿 雅道氏(海外災害援助市民センター 事務局長)

海外災害援助市民センター 吉椿氏

吉椿氏は2023年トルコ・シリア地震発生から3度トルコ(被災地)へ入って支援を行っており、その経験をお話いただきました。
 海外災害援助市民センター(CODE)は、阪神・淡路大震災のときに世界の約70か国から支援を受けたことに対し、そのお返しをしようと被災市民が立ち上げたNPO法人です。28年間で36の国と地域で67回の救援活動を行っており、その経験を活かして今回のトルコ地震では発災当初から現在まで被災者の支援を行っています。
トルコでは過去の地震を踏まえて耐震基準を定めていますが、この基準を採用せずに建てられたために倒壊した建物が多くありました。吉椿氏は、現地の若者との対話から、若者たちが「耐震基準を守らないことを容認した政府を選んだのは自分たちの責任」と捉え、政治への意識を高めていることを感じました。6月にも現地に赴き、その際には、「何もすることがない」、「女性は働くチャンスがない」といった被災者の声も聞いたそうです。CODEでは、現地渡航時には毎回100人くらいヒアリングを行い、被災者一人ひとりの声から、どういった支援が必要なのか考えることを徹底しています。
吉椿氏からは、今回の震災だけではない日本とトルコのつながりについてもお話しいただきました。東日本大震災のとき、トルコが派遣してくれた救助チームが最も長く滞在して活動を行ってくれたこと、1985年のイラン・イラク戦争のとき、イランにいた日本人215名を救助してくれたのはトルコであること、日本とトルコの支え合いは1890年に和歌山県沖でトルコ(当時はオスマン帝国)のエルトゥールル号が遭難し、日本人がトルコの人々を助けた時から続いていることのお話もされ、参加者の方々は、トルコと日本の支え合いの長い歴史についても知ることができました。

➂1999年トルコ地震発生時の兵庫県民からの支援
 講師:横川 太氏(公益財団法人兵庫県国際交流協会 専務理事)

兵庫県国際交流協会 横川氏

兵庫県国際交流協会(HIA)は、1990年に兵庫県の全額出資により設立された団体です。同協会で専務理事を務められている横川氏に、兵庫県がどのような支援を行ってきたのか、ご紹介いただきました。
 1999年の8月と11月に発生した2度のトルコ地震をきっかけに、兵庫県が世界の災害に対して支援を率先して行うようになりました。地方自治体である兵庫県が、阪神・淡路大震災から4年しか経過しておらず課題が山積みという状態の中で、遠く離れた他国を率先して支援をした理由は、阪神・淡路大震災時に世界各国・各地域から支援を受けたためです。当時、まさに「全世界」から受けた温かい心に対する感謝の気持ちと悲しみから得た経験や教訓を共有し、連帯して自然災害に臨むために、兵庫県は様々な支援を行っています。
1999年のトルコ地震発生後、兵庫県は2万戸の仮設住宅を提供するなどの支援を行いました。また、すぐに兵庫県内で義援金が呼びかけられ、いまだ4年前の阪神・淡路大震災からの復興の過程にある中で、約2億3千万円の義援金が集まりました。兵庫県として、この義援金が兵庫県民の気持ちとして有効に使われる方法を重視した結果、震災孤児・遺児への育英事業を行うために、土日基金が設立する「ひょうごトルコ友愛基金」に2億円が寄付され、残りの約3千万円は、この育英事業に携わる兵庫県側の支援経費に充てることになりました。また、交流事業として震災遺児の兵庫県訪問、兵庫県からトルコへ高校生を派遣するといった交流も行われています。その後、「ひょうごトルコ友愛基金」のフェーズⅡとして、「ひょうご・トルコ地震防災対策プロジェクト」を2013年に開始しています。
横川氏からは、「支援の基本は苦しみに共感し、心を寄せること。兵庫県は被災を通して得た経験や知見を世界に還元し、義援金が被災者の役に立つように確実にフォローできる支援を心掛けている」ともお話ししていただきました。

④トルコと兵庫のつながり
 講師:エミン・オズダマル氏(土日基金 副理事長)

土日基金 エミン氏

エミン氏からは兵庫県からの寄付で設立された「ひょうごトルコ友愛基金」の使途について、ご紹介いただきました。
 友愛基金は、1999年から2023年8月までに兵庫県との間で3度の協定を締結しています。この友愛基金を使ったプロジェクトでは、学生への奨学金、学生や教員に対する防災分野の研修、知的障害者への研修などを実施しています。学生や教員を集めた研修では、「人と防災未来センター」をモデルにした「ブルサ防災館」で地震や台風を体験する防災教育プログラムを実施しました。知的障害者の防災教育のプログラムでは、講師を務めた方の大半が、以前、JICA関西で研修を受けた方でした。日本の学生達との文化交流や防災教育も行いました。この交流には兵庫県からの協力があり、今年も兵庫県の4つの高校と交流が行われる予定です。また日本での取り組みを手本に防災意識を高める為に、防災教育のアイディアを募り共有し合う「ぼうさい甲子園」がトルコの多くの方の参加を得て実施され、日本の新聞でも紹介されました。
エミン氏からは、「これらのプロジェクトは寄付がなければできず、兵庫県の方々に心から感謝しています。防災の意識を高めるために色々な方と協力しながらプロジェクトを実施しており、災害に強い街を作るために日本や兵庫県からの経験を取り入れたいと思っています」と語られました。

本セミナーでは、兵庫とトルコとの深い関わり合いと支え合いの歴史、トルコでの震災直後の救助の様子、兵庫県からトルコへの義援金がどうのように使われ役に立っているのか、などを講師の方々から伝えていただきました。未来に向けて、トルコと兵庫県とが更に関係を深め、助け合いの輪が世界で広まる事を願っています。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ