災害時多言語通訳ボランティア研修
2024.04.11
日本は世界の国と比べても、災害の種類が多く頻度も高い国です。しかし、在住外国人は、災害時に行うべき防災の訓練を受けていない方も多く、また母語が日本語ではないため、災害時の情報収集にも困難を抱えています。
そこで、2月10日、JICA関西にて「多言語通訳ボランティア研修」を実施しました((公財)兵庫県国際交流協会(HIA)、(公財)神戸国際コミュニティセンター(KICC)、JICA関西の共催)。災害時でも、在住外国人が安心して暮らすことのできる体制整備の一助となることを目的として、日本人と在住外国人が共に参加しました。
同研修に参加したJICA関西インターン生が、研修の様子や研修からの学び等をお届けします。
研修は第1部・第2部に分かれ、第1部では日本人参加者である、HIA、KICCの通訳・翻訳ボランティア登録者が災害時外国人支援について、また、在住外国人の参加者である、様々な国から来日したJICAの「長期研修員(※)」が、日本で起こり得る災害と、平時・発災時の行動をそれぞれ学びました。第2部で実際に災害時の避難所で行う通訳のロールプレイも実施されました。
(※)長期研修員:JICAの研修員受け入れ事業のうち、受入期間が1年以上の研修員を指します。長期研修員として開発途上国から来日した研修員は、大学院に入学し、修士/博士課程を通して、母国の開発に寄与するための総合的かつ高度な技術や知識の習得を目指します。
第1部「在住外国人参加パート」では、山本国際協力推進員が、JICA長期研修員へ災害が起きた際の情報取得方法等についての講演を行いました。
講演では、ハザードマップの説明や入手の方法、災害が起きた際の情報取得の方法、地震が実際に起きた際にまずどのような行動をするべきなのか、詳細に説明されました。また、日本では多くの場合、災害時に避難所滞在を希望する際に必要情報を記入した避難所登録用紙を、避難所運営者に提出する必要がありますが、資料は全て日本語で記載されており、在住外国人の皆さんはサポートなしでの記入が難しいため、避難所登録用紙を実際に記入するワークショップも講演に組み込まれ、参加者の理解・発災時の心の安心に繋がったように思います。
<講演の様子>
また、第1部「日本人参加パート」では、箕面市国際交流協会の岩城あすか氏が「コミュニティ通訳と役割について」という題目のもと、通訳・翻訳ボランティアの参加者に対して講演を行いました。講師からは、「在住外国人」の定義に始まり、外国籍住民をめぐる問題、コミュニティ通訳・災害時通訳に係る課題等について説明がなされました。
コミュニティ通訳は、異なる言語間の橋渡しとして、高い語学力を持ち、外国人が教育や行政、医療などの公的なサービスにアクセスできるようサポートするための役割を担っているそうです。特に、コミュニティ通訳のひとつである災害時の通訳では、災害時に通訳をできる人も限られている中で、地震や余震についての基礎知識のなさや聞きなれない日本語の災害用語などにより、外国人は特に混乱や不安を感じやすいため、外国語への通訳と併せて外国人の日本語レベルに合わせた「やさしい日本語」など、様々な手法を用いながら情報を伝え、相手に安心感を与えることが重要とのことです。通訳される側である在住外国人は言葉を理解することが難しいというだけでなく、日本における社会的マイノリティという立場でもあります。通訳をする側とされる側では、立場の差があることから、通訳をする側はその点でも配慮が必要であることが強調され、大きな学びとなりました。
第2部:災害時通訳ロールプレイの実施
大規模災害が発生した際には、通訳・翻訳ボランティアが各被災地の避難所に向かい、外国人被災者に困ったことがないか、聞き取りをする場合があります。
研修後半の第2部では、実際に災害が起こった際の動きを確認するため、災害時を想定し、日本人参加者が外国人参加者に困りごと等を確認する聞き取り訓練(ロールプレイ)が行われました。訓練会場には実際に避難所のテントやトイレが設置され、臨場感のある雰囲気で実施されました。ロールプレイは、まずは、挨拶、お互いの簡単な自己紹介から始まり、「何か困ったことはありますか?」といった避難時を想定した質問もなされました。
<聞き取りの様子>
日本人参加者は、第1部で学んだポイントである「やさしい日本語」や英語、中国語、韓国語でコミュニケーションを取り、災害が起こった際にお互いを思いやる気持ちを持ったやり取りがなされました。
訓練終了後の参加者全員での交流会では、参加した長期研修員から、「とても良かった。避難所でパスポートやIDカードのことが書けることはとても良い。災害時に関する新しいことを知ることができ、日本人のボランティアの人が色々なアドバイスをくれたので嬉しかった。」等の感想がありました。
<集合写真>
【インターンの感想】
私は今回、初めて災害時の通訳のワークショップに参加しました。特に印象に残っていることは、災害時のロールプレイです。ロールプレイの最中に、日本人側、外国人側の参加者が、お互いのことを思いやりながら、外国語通訳と併せて、外国人の日本語レベルに合わせた理「やさしい日本語」を使うなど、様々な手段を用いて外国人参加者の安心につながるようにコミュニケーションを取っていたことが、一番印象に残っています。また、最後の交流会では、初めて会ったとは思えないほど、国籍を超えて参加者の皆さんが笑顔でコミュニケーションを取っていたことも印象に残っています。参加した日本人側からは、「言語の技術ではなく、通訳を介在することで外国人との間に絆や信頼関係を構築することができ、通訳は技術の問題ではなく、心の姿勢であると学びになった。」との感想がありました。
通訳と聞くと、どうしても言語能力や技術の点が気になります。その点も重要ですが、今回のワークショップで、特に災害時に通訳をする上での相手への配慮や理解しようとする姿勢から生まれる信頼関係も重要であることを学びました。
少しの言葉と心遣いで海外から来た人の心は安心することができ、それはのちにお互いの絆や信頼に変わります。
その絆や信頼関係は、生まれや育ち、環境の違いを超えてつながることができると信じています。
(市民参加協力課 インターン 木山七海)
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