フィリピン農業関係者の主体性を大切にした草の根技術協力―NPO法人はち ~JICAインターン生がインタビュー~
2025.01.31
NPO法人はちは、2022年8月からJICA草の根技術協力事業(草の根協力支援型)によりフィリピン国アブラ州ぺニアルビア市周辺集落での農産物の生産コスト削減プロジェクトに取り組んでいます。今回は団体代表理事の田中秀則さんにJICAインターン生がインタビューさせていただきました。
はちさんは、今回の事業が初めての国際協力ということで、国際協力に取り組もうと思ったきっかけや、はちさんが大切にされている現地の方との関わり方、これから国際協力に挑戦しようとしている方々へのメッセージを語っていただきました。
2012年 尼崎市で団体の前身となる「トランジションタウン尼崎」が発足。
2017年 NPO法人はち設立。
「自然・環境保護団体」として、持続可能な社会や暮らし方を創る提案、実践を行う。
―はちさんにとって、今回が初めての国際協力だと伺いました。
国際協力を始めようと思ったきっかけは何ですか?
団体が行う地域活性化イベントで知り合った方の配偶者がフィリピンの大学で農業経済を教えている方で、私たちが今取り組んでいる事業の協力相手(カウンターパート)に対して農業のアドバイスをしていました。その方から「フィリピンで農業を教えてほしい」との依頼を受けたことがきっかけです。実はそのとき、海外経験・国際協力の経験がないだけではなく、パスポートすら持っていませんでした。国際協力の経験がある知人に任せようと思って相談したところ、一度経験だと思って自身で取り組んでみるようアドバイスを受け、JICAを紹介してもらいました。
―これまで日本で取り組んできた経験が、国際協力の分野においてどのように活きていると思われますか?
トランジション・タウン1)の考え方では、コミュニティ形成を行ううえで、「相手がどう思うか」を考えることが重要です。「こういう風にしてみたらどうか?」「困ったことはないですか?」と提案してしまいがちですが、実際には提案よりも、「相手からの行動を待つ」ことが大事です。そうした姿勢が国際協力の分野でも活きていると思います。
―現地で事業を実施する際、フィリピンの農家、農業技術者の方々と接するうえで大切にされていたことはありますか?
一つ目に「当事者の話を聞くこと」、 二つ目に「自分が最初にやって見せて相手の行動を待つこと」、この二つを大切にしていました。人間は誰かの行為が美しいと判断したときにその真似をするもので、そうした行動が出るまで待つことを心がけていました。「それはダメ」「こうした方がいい」と押し付けてしまうと対立につながってしまうからです。
種まきを教える様子
―はちさんは、活動において、地域住民の主体性を重視されている印象を受けます。今回のプロジェクトのように、実際に現地の方にその地域の問題に興味を持ってもらい、積極的に現状の改善に参加しようという気持ちを持ってもらうには何が重要だと思いますか?
フィリピンでは、雨季に耕した柔らかい土が乾季に固まってしまいます。その事実を踏まえた適切なアプローチが必要で、正しく耕せば正しい圃場ができるということを実践してみせました。このように良い見本を見せて正しい知識を伝えることが大切です。そのうえでフィリピンの農業従事者の方々が自分たちの土地の特性を知り、そこで何をしたいか、一人一人が目指したい目標を聞き、アドバイスを送ることを心がけていました。
―自分のアイデアを押し付けるのではなく一人一人に何がしたいのかを聞くということですね。
はい。地域住民は、村をきれいにしたい、お金を儲けたいなど、様々な考えをもっています。そうした一人一人の相談に乗り、寄り添いつつも、まずはその前に達成しなくてはならない「みんなで共通して取り組めるゴール」に向かって動くことで、仲間として協働することができます。ちなみにこのやり方は、JICAの『NGO等向け国際協力事業研修』を受講した際に学びました。
農業指導者と従事者のグループワーク
―これから国際協力に挑戦しようと考えている人や団体へのメッセージをお願いします。
今、日本にはたくさんの外国籍の人がいて、彼らと触れ合う機会があります。「協力」というと日本が相手国に対して支援しなければいけないイメージがありますが、実際には違います。日本が上位で彼らに何かを伝授するという形ではなく、彼らの文化と日本の文化をお互いに理解して大切にしながら、国際協力という名前にとらわれずに、同じ目線で友達のようになっていければと思います。困っていて何とかしてほしいという訴えに寄り添い、分かち合いながらできることをやっていくことが、これからの国際協力には必要なのではないでしょうか。
田中さんと農業従事者研修修了生
お話を伺う中で、現地の方の意思や自主性を大切にする姿勢、また指導ではなく対等な立場で、相手の主体的な行動を待つ姿勢が印象的でした。はちさんのように、国際協力を「実施場所(国内・海外)にこだわらず、困っている仲間と協力して目標に向かうこと」であると捉え、「まずは挑戦してみよう!」という団体さんが増えていくといいなと思いました。
(JICA関西市民参加協力課インターン 近藤由芽)
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1)トランジション・タウン運動:2005年イギリスで始まった運動。市民が自らの地域をより暮らしやすく、災害にも強く、誰もが参加できる場所に変えていく、草の根の活動。
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