日本の文化財保全と観光地域づくりの知恵を国際社会へ
2026.03.19
研修コース名:文化遺産および地域社会と共生する持続可能な観光開発研修
日程:2025年9月24日~10月29日
主催:JICA 協力:学校法人立命館
コースリーダー:立命館大学経営管理研究科 石崎祥之教授
ラオス、インド、キリバス、サモア、グアテマラ、エジプト、チュニジア、エチオピア、タンザニア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナから12名の行政官が参加し、「文化遺産および地域社会と共生する持続可能な観光開発」研修が行われました。
本研修は、日本が長年培ってきた文化財保全、景観保全、地域主体の観光まちづくりのノウハウを共有し、研修に参加したみなさんの出身国における観光政策の推進および地域活性化へ貢献することを目的として2011年度より実施されています。研修の様子を一部ご紹介します。
京都市では、石崎祥之教授・山崎正史名誉教授による講義を通じ、風致地区制度、高さ規制・景観ガイドライン、地域住民との合意形成など、日本が確立してきた「景観と観光の両立」の政策を学びました。
これらは、無秩序な観光開発により景観や伝統が破壊されるという問題を抱える参加国にとって、実践的なモデルとなり、多くの質問が寄せられました。
ユネスコ世界遺産に登録されている龍安寺の視察では、石庭の維持管理方法から、文化財保全における「古色」技法、消火設備の配置設計など、目に見えにくい細部の工夫まで学ぶことができました。災害が多い日本だからこそ発展してきた技術は、多くの文化遺産が自然災害のリスクにさらされている国々にとって大きな示唆となりました。
重要文化財となっている京都・杉本家住宅では、日本の伝統的な町家が展示物ではなく、今も生活の場として使われ続けていることを学びました。この「暮らしの中で文化を守る」という姿勢は、参加者に強い印象を与えました。多くの途上国では、伝統的な家屋や建築が観光地としての価値を持っていても、住民がその魅力に気づいておらず、観光資源として活用できていないという課題があります。そのため、日本のように地域住民が自ら、地域にある文化遺産を誇りとして守り、活かしていく取り組みは、参加者にとって大きな学びとなりました。
京都・清水地域の視察では、住民が参加する防災ワークショップや、木造密集地での地震・火災対策、文化遺産保全と防災計画を一体で進める仕組みなど、日本独自の「地域と行政が協力する防災」を学びました。
多くの国で文化遺産の防災が十分に進んでいない中、災害の多い日本で積み重ねられてきた取り組みは、参加者にとって新しい視点となりました。
和歌山・熊野古道では、DMO (観光地域づくり法人)、自治体、住民、事業者が連携し、巡礼体験や地域産業を活かした観光づくりを進めている日本のモデルを学びました。熊野での学びをインド代表アヌープ氏のレポートから引用します。
「森の音だけが響く静けさ
手つかずの自然の美しさ
現代の影響をほとんど受けていない素朴な道
まるで時を遡るような感覚でした。
途中に並ぶ無人販売の小さな地元の品々は、地域の人々が訪問者をそっと迎えてくれている温かさを感じさせました。また、地元の子どもたちがこの道を守る活動をしていると聞き、文化を次世代につなぐ力強い取り組みに感動しました。
道中では、日本の学生から海外の観光客まで、さまざまな歩行者とすれ違いました。大規模な開発がなくても、人々の心に深く響く場所をつくれることを実感しました。
『自然を守り、地域とともに歩むことが、世界に誇る観光地をつくるのだ」と気づかされ、私自身の国の美しい場所への希望とヒントを強く感じました。」
滋賀県の近江八幡市では、住民が主体となって八幡堀の保存・再生に取り組んできた事例を通じて、地域が主役となる観光開発の重要性を学びました。これらの日本の取り組みは、参加した皆さんが自分たちの国の観光の持続性を高める上で参考となる実例となりました。
京都伝統産業館では、千年以上続く工芸技術や後継者育成の課題を学び、
文化と産業を両立させる日本の取り組みを理解しました。
文化を守りながら経済価値を生み出すモデルは、文化産業振興に課題を抱える国々にとって大きな参考となりました。
研修最終日には、参加者が帰国してから実践するアクションプランを発表。「職人技能の向上による持続可能な観光開発」「祖先の知恵と考古天文学を活用した文化観光」「オーバーツーリズム対策戦略」など、日本で学んだことを織り込んで、各国が抱える課題解決のための取り組みを発表し、熱い議論が交わされました。
私たちがそれぞれの国を代表する参加者に選ばれたという知らせを受け取ったときの、あの胸の高鳴りを今でも覚えています。
多くの参加者にとって、日本への渡航は初めてであり、まさに夢の実現でした。
期待と好奇心、喜び、そして少しの緊張を胸に、日本に到着しました。
そして日本は、その期待を決して裏切りませんでした。
美しい自然、素晴らしい文化、深い伝統、豊かな歴史と遺産、そして何よりも心のこもったおもてなし。
しかし、私たちの心を最も強く打ったのは「人」でした。
日本の人々の優しさ、規律、謙虚さは、私たちの心に深く刻まれています。
本当に、日本の最大の財産は「人」だと感じました。
親愛なる参加者の皆さん、
おめでとうございます。私たちはやり遂げました。
この数週間、私たちは講義や現地視察だけでなく、お互いから多くを学びました。
アイデアを分かち合い、笑い合い、忘れられない思い出を共にしました。
世界各地から集まった見知らぬ者同士でしたが、今では友情と目的で結ばれた一つの家族です。
それぞれの国へ帰国するにあたり、この研修で学んだ知識や価値観、そして「和」の精神を、ぜひ自分たちの地域へ持ち帰りましょう。
そして、より良く、より持続可能な世界の実現に向けて、情熱と希望を持って歩み続けていきましょう。
研修員は、日本で得た知見や交流を通して得た経験を、それぞれの国での政策立案や地域開発に活かしていきます。本研修を通じて、日本の経験と価値観を世界へ伝え、途上国の持続可能な観光開発と文化遺産の未来に貢献する、その橋渡し役としてご協力くださった全ての皆様に、心より感謝申し上げます。