子どもたちのアイデアで、サイクロン常襲地の地域防災活動を活性化!
2021.10.13
~イベント「ぼうさい甲子園」を活用した地域防災事業(草の根技術協力事業)完了報告~
バングラデシュ南西部のバゲルハット県は、ベンガル湾に面し川が入り組む低地のため、浸水や高潮などサイクロンに伴う災害に特に脆弱な地域です。このバゲルハット県の中南部2郡8ユニオン(※「ユニオン」は郡の下の行政単位)を対象とし、3年9か月実施した防災プロジェクト「サイクロンに強い地域・人つくりプロジェクト-サイクロン常襲地で、地域全体で防災、減災力を高めます-」が、2021年6月で終了を迎えました。この記事では成果の一部をご紹介します。
事業終盤の2020年5月、観測史上最大級のサイクロン「アンファン」がバングラデシュ西部を直撃し、事業地域内でも畑の作物・養殖池のエビなどの逸失、家屋損壊等、経済的に甚大な被害が出ました。しかし、人的被害はほとんどありませんでした。
それはどうしてでしょう?
バングラデシュでは、国が過去の被害を教訓に防災に真剣に取り組んできた成果が見えてきていますが、本事業地ではさらに一歩進み、各レベルの地方行政がサイクロン襲来の数日前から対策会議を開催し、COVID-19感染拡大防止策も検討して迅速に住民にシェルター避難を呼びかけたのです。また、各家庭においても早めの避難に加え、備蓄食料の活用等、他地域の模範となるような行動がいくつも見られました。
地域住民に向けて防災意識啓発活動を実施している様子
防災をテーマにした劇を披露する学生たち(DRR Olympic)
2018年1月本邦研修(兵庫、徳島)、「ぼうさい甲子園」を視察。
このような地域防災力向上の一つの鍵となったのは、事業で年に1度開催を支援した学生対象の防災アイデアコンテスト、「DRR Olympic」。
このDRR Olympic企画は、本事業開始直後の2018年1月、事業地のバングラデシュ人行政関係者たちが日本の学生対象の防災コンテスト「ぼうさい甲子園」を視察し、感銘を受けたところから始まりました。本邦研修参加メンバーは、「ぼうさい甲子園」入賞常連校である徳島市立津田中学校も訪問し、学生発の防災の取り組みが地域に広がっている様子を確認。先生、生徒、地域ボランティアの方々との質疑応答では、「どうすれば生徒の自主性を引き出せるのか、そのために教師はどのように接するべきか」等、予定を1時間超過してしまうほど熱心に話を聞きました。
バングラデシュに帰ってからも、「ぼうさい甲子園」をバングラデシュ版DRR Olympicにアレンジして地元の子どもたちや地域の方々が親しめるイベントにするため関係者間で協議を続け、ラリー、アートコンペ、展示会、防災訓練、ディスカッション、パフォーマンスなど多彩な活動が並行する、総合的なフェスティバル形式に整えました。初年度にあたる2019年3月は郡レベル、2020年度は規模を拡大して県レベルで開催。どちらも約500名の参加を得て盛況となり子どもたちの防災への理解もぐっと深まりました。
子どもたちのアイデアを通じ、各家庭の防災意識を向上させることは当初から狙いの一つでしたが、他の予期せぬ大きな成果も得られました。それは、これまで連携が難しかった各行政レベルの防災行政同士が、イベントにおける協働をきっかけに繋がりを深化させたことです。これまで各レベルの防災行政間のコミュニケーション不足が地域防災力を低下させていた面がありましたが、このイベントを機に協力体制を築くことができました。
新型コロナウイルスは、「防災」に関しても地域の人々に大きな影響を及ぼし、感染拡大の初めは、シェルターには多くの人が集まるために感染を恐れて避難しない人もいました。そこで、プロジェクト関係者と地域の防災行政が連携して、コロナ禍中のサイクロン襲来時にも安心して避難できるように、サイクロンシェルターへの手洗い場の設置や衛生資材の備蓄、住民への正しい感染予防方法の啓発等を追加的に行いました。これらの活動は、ロックダウン下でも特別に活動継続を当局から依頼されるほど信頼され、地域の感染予防と防災力の維持に貢献しました。
最近ではコロナ禍で開催が困難となっている「DDR Olympic」も、状況が落ち着いたのちには、子どもたちのアイデアがたくさん詰まったフェスティバルとして、また同地域の高い地域防災力のシンボルイベントとして、発展が期待されます。
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