遊牧民の多いモンゴルでは年金財政はどうやって推計するの?

2023.11.15

伝統的に遊牧民文化が根付いているモンゴルでの年金財政の将来の見通しを推計するために日本で学んだこととは? モンゴルの社会保険庁等のスタッフを対象に4年間に亘って実施されたモンゴル国別研修「社会保険分野における財政検証実務能力強化」が2023年11月に終了しました。彼らの目に、日本やJICA研修はどう映っているのでしょうか。研修員へのインタビューを通じて聞いた、生の声をお届けします!

Q1. 日本の第一印象についてお聞かせください。

日本に来るのは今回が初めてです。東京はとても綺麗な都市だと思いました。日本人は誰に対しても敬意を払い、細やかな気配りをする民族であることを、日本に入国する際に空港の入国審査官の対応から分かりました。フレンドリーで礼儀正しく、勤勉な日本人が多い印象を受けました。
日本は交通網も発達しているので大変便利で、東京から電車で箱根まで日帰りで行けました。豊かな自然と富士山を望む絶景、さらに海賊船クルーズ等の乗り物も楽しみ、大変充実した1日を過ごせました。箱根は海外からの観光客だけではなく国内からの観光客も多く訪れてきていて、国内観光客も日本の観光産業を支える一役を担っていることが実感しました。

箱根にて

Q2.研修への期待をお聞かせください。

日本では長年にわたって行われてきた年金財政に関する将来見通し、つまり財政検証について、見通しの作成過程から結果、結論までどのように行われているのかを学び、その知見を活用してモンゴルの年金財政の見通しを精緻に推計したいと考えています。将来的には適切な年金数理に基づき長期的な年金財政の健全性を定期的に検証できることを目標としています。

研修員と厚生労働省の南條先生(左から3人目)、社人研の佐藤先生(右から3人目)(於:JICA東京)

Q3. モンゴルにおける「公的年金の財政検証」の現状はどうなっているのでしょうか?

モンゴルは今まで公的年金の財政検証を行ったことがありません。社会保険基金の収支予算書作成業務の一環として翌年以後3年間における被保険者数、年金受給者数及び収入・支出の推計を行い、短期的な「財政収支の見通し」を行っているだけです。
労働社会保障省と社会保険庁には、モンゴルの公的年金制度の将来財政収支の推計を行える専門家はほとんどいません。この分野における人材育成において、今回の「社会保険分野における財政検証実務能力強化」研修は大きく貢献できると確信しています。将来推計に用いるデータに関して言えば、2006 年以前の被保険者関連のデータや資料は電子化されておらず、紙形式で保管されています。紙形式のデータは年金基金のデータベースに入っていないため、被保険者の勤続年数等のデータが不完全で、推計に使いづらいという問題等があります。

Q4. 「公的年金の財政検証」に関する講義や実習を通じて学んだことをご紹介ください。

講義では、社会保障分野におけるアクチュアリー業務(特に公的年金の数理、財政見通し作成)に関しての国際的な実務基準を学びました。さらに、日本の公的年金財政運営において、それらの基準と照らしてどのような工夫がなされているのかということも理解しました。
演習を通して、数理レポートに盛り込むべき内容、将来推計の手法、データと設定した前提など、数理レポートの作成に関する具体的な方法を学ぶことができました。今後、モンゴルの公的年金の数理レポート作成に活かしていきたいと思います。

研修での実習風景(於:国立社会保障・人口問題研究所)

Q5. 帰国後の課題を教えてください 。

2023年7月7日に国会にて可決された新しい社会保険パッケージ法は2024年1月1日から施行されます。法律の施行に伴い今回の将来推計の手法、設定した前提も変えていかなければなりません。これらを大きく変更した場合、帰国後、再推計を行うことも予想されます。
年金財政の将来推計を行うためには年金制度に関する正確な情報やデータ、熟練した人材が必要です。研修では、制度に関する情報やデータの整理・活用、そして推計手法について多くを学べました。しかし、今後、データをより正確なものにするためには、人口増加や被保険者数、年金受給者数などに関する大量のデータ(ビッグデータ)の分析を行い、活用していく必要があり、エクセル等のソフトウェアも含め、その能力は今後も強化していく必要があると考えています。

Q6. 4年間の研修の成果について

モンゴルの社会保険庁等の組織は日本の経験から学ぶべきことが多くあります。2016年以降、この分野における人材育成にJICAの研修は大きく貢献し、様々な成果をあげてきました。今後は年金財政の将来推計の分野だけではなく、IT、会計、法律等の分野でも協力していきたいと考えています。今までの研修同様の成果が得られる協力案件を実施できると確信しています。

研修を終えて。日本で学んだ成果をモンゴルで活かしていきます。(於:JICA東京)

≪モンゴル国別研修「社会保険分野における財政検証実務能力強化」研修員一同≫

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