日本だからこそ提供できるUHC達成へ向けた看護管理研修

2023.12.12

12 月 12 日は「国際ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デー」です。
UHC とは、すべての個人や地域社会が、経済的な困難を抱えることなく、必要な保健サービスを受けられることです。JICA 東京では、研修を通じて UHC の実現に取り組んでいます。

コロナ禍において国の隅々まで医療サービスを届けた看護人材

新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっていた時期、各国において大都市だけでなく、地方の隅々にまで医療サービスを届ける重要な役割を担っていたのが看護人材です。各国のUHC達成のためには、保険医療制度を整えることに加え、看護人材・看護指導者への投資・育成が重要です。

アジア・大洋州を対象とした課題別研修「UHC達成に向けた看護管理能力向上」では、今年度、初めて日本へ研修員を迎えます。この研修は、SDGs(Sustainable Development Goals)ゴール3-8(UHCの達成)に貢献することを目的に、コロナ禍が続いていた2023年1月に遠隔研修として開講しました。研修開始に至るまで、熱い思いをもって各関係機関と調整をしてきた人がいます。上田直子職員にその思いを聞きました。

バングラデシュの現場で見た看護の現状

―病棟に看護師がいない。患者のベッドサイドに看護師がいないー
―入院患者のケアは付添の大家族や看護師以外のスタッフが担っているー

2016年6月、バングラデシュの看護教育プロジェクトに赴任した私が最初に目にした病院内の光景は衝撃でした。バングラデシュでは、大規模な看護師人数増の政策が進められていたものの、看護教育が追い付かず、看護がそれを必要とする人々に届いていない、という課題に応じて開始されたプロジェクトでした。事前調査やプロジェクト準備のための報告書でその状況を承知してはいたものの、日本の医療施設での手厚い看護ケアが無意識にしみついていた私はその光景にあらためて唖然としたものでした。

看護師が患者をケアしない、看護をしないその理由は様々構造的かつ、社会的にも根の深いもので、その改善にむけて考えるべき事項は多岐にわたりました。個々の看護技術の指導はもちろん重要ですが、看護を、そして看護師をManageする(管理する、運営する、機能するようにする)術を、そして看護師を育てることをどうやって伝え、仕組みをつくっていくお手伝いができるのか?私はプロジェクトのリーダーとして悩みつつ、このプロジェクトの誕生に大いにお力をいただいた南裕子先生、片田範子先生からのご指導を得ながら、そして現地では優秀な看護専門家たちとの協働でプロジェクトを進めました。

プロジェクトは、1)行政の看護管理能力向上、2)看護大学での看護教育の改善、3)大学病院での臨地実習制度構築の3領域で進められ、2)と3)については各々の領域でのプロフェッショナルな看護専門家の貢献で徐々に手ごたえを得ていきましたが、その2領域の基盤ともなる1)では、ダッカ・テロの影響もありさしたる進展を見ないまま任期を終えることとなりました。

その後、チーム全体の奮闘と、支援くださる皆さまのお力をいただき、プロジェクトは一旦2021年春に終了。現在は第2フェーズに発展し、1)行政の看護管理能力向上については第1フェーズで焦点を絞っていった看護師のキャリアパス形成、看護大学の認定制度などに取り組むに至っています。これら要素はベッドサイドからは遠いようですが、看護師が生き生きと学び働く体制をつくる、という患者ケア充実にむけた重要な基盤整備の一翼です。

現場の問題意識から看護管理研修を提案し、実施へ!

2018年6月、バングラデシュから戻った私はJICA東京に着任しました。
そこで知ったのは、現場で持った問題意識「患者中心の看護ケアのための看護管理能力改善を進める」を実現する課題別研修がちょうど終了してしまっていた、ということでした。JICA東京だけではなく、いずれの国内機関でも看護領域の課題別研修は1件もありませんでした。保健医療人材の能力開発はJICA支援の核であり、臨床検査技師、疫学、母子保健関係者や保健行政従事者の能力構築は複数コースで進められていたものの、看護師支援がひとつもない、という事態でした。

バングラデシュで見た冒頭の光景は常に頭にあり、そしてその改善に自分が非力であったことへの後悔も常に心中にあったなか、コースの復活か新規開設か、いずれにせよ「看護管理のコース形成は必須」との思いを強くし、満を持して新規開設の提案に至りました。

提案内容は、終了した過去のコースで評価の高かった内容を活かし、看護管理の理論と実践を進めつつ、更にその後のコロナ禍も受け災害看護もスコープに入れた野心的なアイデアでした。同様の問題意識を持つJICA関西も関西圏内の南先生、片田先生を中心とする看護管理コース新設を提案したため、両者で調整し、JICA東京管内で看護管理の理論習得と実践、そして関西視察部分で南先生の薫陶を得る、そして過去のコースではなかった視点としてUHCの視点での看護管理という新たな核を据えたのでした。

提案内容の吟味と、内外の関係組織との調整を経た新規案件採択を経て、まさに新コース誕生!のその年度を目前に私は人事異動によりJICA東京を離れました。その後、JICA東京チームと、委託先の国立国際医療協力センター様のご尽力で研修が実現。コロナ禍のため初年度は遠隔研修実施を余儀なくされましたが、2023年度は念願である、初の来日研修が2024年1月9日に開講予定です!

すべての時代と環境の、すべての人々にとって不可欠な看護の力を最大限発揮する看護リーダーを輩出するコースへ、と育っていってくれることを願ってやみません。

バングラデシュ「看護サービス人材育成プロジェクト」のカウンターパートと。
この時の問題意識が新規研修提案へ繋がった。


◆関連リンク◆
看護サービス人材育成プロジェクト | ODA見える化サイト (jica.go.jp)

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