『JICA課題別研修「障害者権利条約の実践のための障害者リーダー能力強化」を実施して(後編)』
2023.12.26
それぞれの研修員は何を学び何を考えたのでしょう?一人ひとり紹介しながら今後の活動について熱い思いを語ってもらいました。彼らの小さな一歩が、誰にとっても暮らしやすい社会の実現へと繋がることでしょう。
● JICAで実施している本研修では、様々な障害の研修員が来日し、異なる立場から議論を重ねました。ルワンダから参加したジャックさんは、1994年にツチ族に対するジェノサイドに巻き込まれ9歳で失明しました。視力を失った後、盲学校に入り、その後、旧ルワンダ国立大学でジャーナリズムとコミュニケーションの学士号を取得。2007年からはルワンダの障害者運動に従事しており、2021年からは全国障害者評議会の執行委員会で、グッドガバナンスとインクルーシブを担当しています。
また、ルワンダ盲人連合の副会長も務めています。ジャックさんは日々の生活の中で、障害があることで社会から取り残されている多くの障害者に出会うそうですが、これは障害者問題に対する一般的な認識不足が原因だと語ってくれました。また、障害者・児の人権の欠如、自信の欠如、自尊心の欠如は、障害者が自立することへの妨げに繋がるとも話してくれました。物静かではありますが、彼には障害がある人たちへの権利の保障に取り組む強い意志を感じます。帰国後は、障害者権利条約がルワンダ国内でどのように実践されているか知るため、独自のモニタリング組織をつくりたいと語ってくれました。
水陸両用車椅子チェアボートを試乗するジャックさん
● スリランカの研修員、プラサナさんも視覚に障害があります。彼は現在、スリランカの障害者団体(Disability Organizations Joint Front)の副会長を務めています。また、スリランカ中央州の教育局で、特別支援教育の教師をしています。さらに、スリランカの全国障害者協議会(National Council of Persons with Disability in Sri Lanka)では、協議会メンバーとして積極的に活動しているそうです。明るく楽しくがモットーのプラサナさんは研修を盛り上げてくれました。帰国後は教員養成カリキュラムに、インクルーシブ教育システムに関する理論的・実践的ガイドラインが盛り込まれることを目指し、活動をするそうです。
点字タイプライターを使いこなすプラサナさん
● 南アフリカから来日したタミーさんは2007年に銃撃によって負傷し、下半身麻痺の車椅子ユーザーとなりました。10年ほど小売業に従事していましたが、障害のある人たちが抱える様々な問題について考えるようになり、「Wheels of Change 2017」というNGO団体を自ら立ち上げ、障害者の能力開発やトレーニングを行っています。また、南アフリカ共和国のUniting Disability in Sustainabilityの議長、及び障害者セクターの書記も担っています。研修中も権利条約の仕組みや自立生活センターの役割、運営について、積極的に質問をしていました。帰国後は障害がある人たちがより社会に参加できるよう、自立生活センター(障害当事者団体で設立され、社会で暮らしやすくするための相談業務や啓発活動、権利擁護、介助者派遣などを行っている団体)の推進に寄与すると語ってくれました。
障害者が暮らしやすい社会にしたいと願うタミーさん。
日本での学びを自国で活かしてくれることでしょう。
● 最後にご紹介するのは、今回本コースでは唯一の女性研修員、ウズベキスタンのナフォさんです。軽い脳性麻痺で左半身に障害があります。ウズベキスタン障害者協会で専門職として勤務しているナフォさんは、小学校の英語の教師でもあります。甘いものが大好きで、物静かではありますが、日本語クラスや浴衣を体験するなど好奇心旺盛な一面を持ち合わせています。帰国後は、ウズベキスタンでのインクルーシブ教育の実現、そのための施設の整備、障害がある人たちが子ども時代から当たり前のように社会に溶けこみ、自然な形で社会に参加できるよう、まずは幼少期の環境整備に尽力したいと語ってくれました。
沖縄研修旅行を満喫するナフォさん
この3週間、研修員たちは日本の最前線で活躍するたくさんの障害者リーダーに出会い、多くを学びました。異なる障害団体が協力し合うことの大切さ、政府や行政、一般市民を巻き込むことの重要性、障害がある人にとって暮らしやすい世の中はどんな人にとっても暮らしやすい世の中であることなど、多くの気づきを得ました。日本もまだまだ沢山の問題を抱えており、障害がある人たちにとって暮らしやすいとは言えません。多くの障害当事者が日々奮闘し、リーダーたちは誰もが暮らしやすい世の中の実現に向けて歩み続けています。JICAはこのような開発途上国と日本の障害者リーダーとの対話を通じ、どこにいても誰にとっても住みやすい安定した世界の実現に貢献していきます。
和気あいあいとした温かい雰囲気の中で行われた修了式。4名の研修員にとって充実した研修プログラムとなったようです
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