カンボジアの小学校でも「芸術を通じた教育」を受けられるように! ~日本の教育制度や教育現場を参考にカンボジアの将来像を思い描く~
2024.06.28
現在、カンボジアの小学校では、週に1時間の芸術科目の授業が割り当てられています。しかしながら、芸術科は元々社会科の一部であり、2016年に独立したばかりという背景からも、指導方法が分からないといった理由で、芸術の授業が行われていない小学校も存在します。そこで、JICAは特定非営利活動法人 JHP・学校をつくる会とともに、「カンボジアのすべての子どもたちが芸術を通じた教育を受けられるようになる」ことを目指して、草の根技術協力事業を実施しています。本記事では、事業の概要や2024年5月末に実施した本邦研修についてご紹介します。
2024年2月に開始した草の根技術協力事業「カンボジア国 初等科芸術科教育普及体制構築事業」では、特定非営利活動法人 JHP・学校をつくる会とともに、カンボジアにおける初等科芸術教科普及の基礎の構築目指して活動しています。具体的には芸術教育を指導できる教員を育成するために教員養成校等でトレーナーを配置したり、芸術教科のシラバスや教科書等を作成する予定です。
カンボジアでは、過去の内戦等の影響によって学校で芸術を勉強した経験がない行政官や教員が多く、芸術教育を普及しようとしても教育制度やカリキュラム、授業の実施方法がなかなかイメージできない状況にあります。そこで、カンボジアの教育制度に関わる行政官や教員養成校の先生等を対象として、2024年5月21日から27日にかけて本邦研修を実施しました。
本研修では、カンボジアにおける芸術教育の具体的な将来像を思い描くために、日本の初等科芸術科目の教育制度や教員養成の仕組についての理解を深めつつ、教員を目指す大学生が勉強する様子を視察したり、小学校における芸術科目の授業を見学しました。
日本の教育制度についての講義の様子
日本の教員養成を学ぶために大学を視察する研修員
段ボールを用いた図画工作の授業を体験する様子
◆関連ファイル…案件概要表
多くの研修員は、今回の本邦研修に参加して、楽器の演奏方法といった技能の習得も目指す「芸術のための教育」ではなく、小学生同士のコミュニケーション能力の向上といった「芸術を通した教育」の重要性について気づくことができたと述べていました。
研修員は筑波大学附属小学校を訪問し、図工と音楽の授業を見学しました。図工の時間では、カード遊びを通じた美術作品の鑑賞が行われており、生徒がカードに描かれた芸術作品を鑑賞しつつ、他の生徒に対して作品の特徴や感想を一生懸命言語化していました。この様子を見た研修員は、小学生が美術作品に関する知識だけでなく、コミュニケーション・表現力も学べるように工夫されているのを感じていました。
図工の授業を見学する様子
また、音楽の授業では、クラス全員が輪になって、一人一小節ずつボディーパーカッションで各々のリズムを刻み、みんなで音楽を創る様子などを観察しました。研修生からは、「カンボジアでは楽器がないので音楽の授業ができないと考えていたが、楽器がなくても身近にあるものを活用して授業が実施できると分かった」と感銘を受けていました。
音楽の授業で小学生と交流する研修員の様子
授業後、研修員は担当の先生方と意見交換を行い、授業の概要や生徒とのコミュニケーションのポイントについて質問したほか、教員がどのように生徒を評価するのか、芸術が苦手な生徒に対してどのようなアプローチをとるべきか積極的な議論が行われました。
授業後に音楽・図工の担当教員と意見交換する研修員
研修員は、日本の教員養成の仕組や教育現場の状況から様々な学びを得ることができました。また、最終日の報告会では、研修員は、芸術科教育にかかる国家予算や教員が不足するカンボジアでもどういった授業であれば実施できるかなど、前向きに議論していました。
研修で学んだ内容や感想を発表する研修員
今後も、カンボジア政府関係者である研修員が中心となり、今回の本邦研修で学んだことを参考にして初等科芸術教科のシラバスや教科書を作成したり、芸術科目の普及の基礎体制を構築していきます。まずは本事業の対象州、そして将来的にはカンボジア全土において、小学生が芸術を通じた教育を受けられることを期待しています。
最後に、この本邦研修では、実施団体であるJHP・学校をつくる会をはじめ、東京学芸大学や聖心女子大学、筑波大学付属小学校の教員、その他多くの関係者のご協力を得て実現することができました。どうもありがとうございました。
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