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ラオス初!インクルーシブ教育教員養成コース

2024.11.19

「障害のある子どももクラスに受け入れたい」現職教員の熱い想い。

ドンカムサー教員養成校の付属学校で現職教員がインクルーシブ教育について学びました

 特定非営利活動法人アジアの障害者活動を支援する会(以下、ADDP)は、現在、ラオスにてJICA草の根技術協力事業「知的・発達障害を持つ子供の社会自立を目指したインクルーシブ教育・就労支援の実践」プロジェクトを実施中です。このプロジェクトでは、教員養成校をカウンターパートとし、モデル校の一般教員が教育から就労への移行支援を含むインクルーシブ教育を実践できるようになることを目標の1つに掲げています。
※インクルーシブ教育とは、知的・発達障害、聴覚障害、視覚障害等の障害の有無や、個々の特性に関わらず、全ての子どもが同じ環境で学び合い、共生社会の実現を目指す教育のことです。

 10月21日から25日までの5日間、ドンカムサー教員養成校(以下、TTC)付属校の教員向けにインクルーシブ教育教員養成ワークショップを実施しました。TTC付属小学校でも障害のある子どもの入学を受け入れるようになったことを背景に、ドンカムサーTTCから付属校の教員にもインクルーシブ教育についてもっと学んで欲しいという要望があり、TTC付属幼稚園・小学校・中学校の教員計20名を対象にこのワークショップが開催されることになりました。
この研修では、TTCの指導教官が、知的・発達障害、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由といった各障害の教育ニーズと指導法について講義をした他、IEP(個別教育支援計画)の策定についても指導しました。

インクルーシブ教育教員養成ワークショップに参加したドンカムサー教員養成校付属校の教員と子どもたち

トレーニングの総まとめ「模擬授業」の実施

 5日間のトレーニングの総まとめとして、インクルーシブ教育を実践しているパーサイ小学校で、今回の研修に参加した付属校の教員が模擬授業を実施しました。
 パーサイ小学校は、学年や障害の有無に関わらず多様な子どもを受け入れ、一緒に学べる公立の学校です。今回の模擬授業では、知的障害や発達障害を持つ児童や視覚障害のある児童も参加し、教員たちが学んだ指導法を実践しました。教員たちは、授業についていけない子どものために、その子の理解度に合った問題や教材を用意し、学びを諦めさせない工夫を行っていました。また、全員が楽しみながら協力できるよう、チームで取り組むアクティビティを実施したり、グループ発表を活用したりすることで、みんなが一緒に達成感を味わえるようにしていました。
 この模擬授業を通じて、教員たちは、障害の有無に関わらず全ての子どもが自信を持って参加できる教育の在り方について実践的に学ぶことができました。
 この5日間の研修について、ADDPのプロジェクトコーディネータ―の新井貴久さんは、次のように話してくれました。
「教員たちが自ら模擬授業の計画・準備をし、全員が楽しめる学びの場を提供する姿を見て、とても頼もしく感じました。インクルーシブ教育はただ受け入れるだけでなく、子ども一人ひとりの可能性を引き出すために、どのような工夫が必要かを常に考え続けることが大切です。この研修を通して、先生たちがその第一歩を踏み出せたと確信しています。」
 パーサイ小学校での模擬授業は、教員たちがインクルーシブ教育の実践力を深める貴重な機会となり、これから付属校でのさらなるインクルーシブ教育の推進が期待されます。

パーサイ小学校での模擬授業の様子。グループワークでみんな笑顔!

障害の有無に関わらず、みんなでユニバーサルスポーツを楽しみました!

 今回の5日間のトレーニングのうち、3日目にはユニバーサルスポーツを学びました。視覚障害や発達障害など各障害の知識を身に付けることはもちろん大切ですが、障害のあるなしに関わらず、スポーツを通じて一緒に活動をして、その時間を楽しく過ごすこともとても大切なことです。このユニバーサルスポーツの研修には、発達障害の疑いがある児童、聴覚障害のある高校生、視覚障害のある教員も一緒に参加し、どのような障害を持っていても一緒にスポーツを楽しむことができることを、身をもって学びました。
 この日は、フライングディスク、ボッチャ、卓球バレーの3種類のスポーツを実践しました。このうちボッチャと卓球バレーは、ユニバーサルスポーツとして広く知られています。卓球バレーは日本発のユニバーサルスポーツで、ボッチャはパラリンピックの競技にもなっています。どのスポーツも、障害のあるなしに関わらず誰もが一緒に楽しむことができるように工夫されており、ラオスの学校教育でも取り入れられることが期待されています。

 参加した付属学校の教員は、障害があっても工夫をしたり、あるいはサポートをすることで、皆が一緒に楽しむことができることを知ることができました。特に「サポートすること」について、どこまでのサポートをするべきかということを、付属学校の教員が一人一人考えながらサポートをしていました。例えば、卓球バレーでは、球の中に小さな玉が入っていることから音が鳴ります。視覚障害者は、その音を頼りにサポートなしに楽しむことができる場合もあれば、手をサポートしてもらいながら「球が来たよ」などの声掛けと共にラケットを振る必要がある場合もあります。本人に任せてみたり、手をサポートしてあげたりと、色々な可能性を探りながらサポートをしていました。

フライングディスク:小さな子どもと先生がチームになって、点数を競いました。

ボッチャ:みんな真剣な眼差し!どこにボールを投げるか、チーム一丸となって実施する頭脳プレーです。

卓球バレー:球の中に玉が入っているので、音を頼りに視覚障害者の方も一緒に楽しむができました。

※フライングディスクについて
競技について | 特定非営利活動法人 日本障害者フライングディスク連盟
※ボッチャとは
ボッチャとは | 一般社団法人日本ボッチャ協会
※卓球バレーとは
卓球バレーとは - 日本卓球バレー連盟公式ホームページ

インクルーシブ教育教員養成コースの指導教官の誕生と、これからの課題

 参加者からは、「これまで障害を持つ児童がクラスにいるものの、障害について学ぶ機会がなかったのでとても良い機会になった」「パラスポーツは、障害のあるなしに関わらず一緒に楽しむことができることが分かったので、実践していきたい」「障害のある児童も学校として受け入れる必要があると考えるようになった」などの意見が発表されました。
 他方で、次のような声も聞かれました。「小学校1年生の担任で、50人以上の児童を受け持っており、その中に4人障害を持った児童がいる。障害のない児童でもまだまだ落ち着いて座って授業を聞くのが難しい中で、発達障害を持つ児童を複数受け入れるのは本当に大変である。インクルーシブ教育は大切だと思うので、何とかクラスを2つに分けるか、補助教員を付けて欲しい。」 ラオスでは、予算が限られる中、教員数が不足している現状があります。なかなかこの問題を解決していくのは難しいですが、ADDPはドンカムサー教員養成校と相談しながら、教員養成校の学生が補助教員になることができる可能性などを探っています。
 この研修を通して、ドンカムサー教員養成校付属幼稚園・小学校・中学校の教員がインクルーシブ教育を学びました。この付属校はラオス語では「サーティット」学校と言い、「サーティット」とは「見本を示す」という意味があります。今回、付属校の先生がインクルーシブ教育を学び、付属校で実践されることで、他の学校の見本となり、他の学校にもインクルーシブ教育が広がっていくことが期待されます。

聾の生徒と手話で会話するドンカムサー教員養成校の指導教官のカムパン先生

以上

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