日本で学んだことを母国へ ~JICA研修員の帰国後の活動に密着~
2025.05.16
JICA東京で実施している課題別研修について、帰国後の研修員の皆さんがどのような活動をしているのか、現地へ赴いてモニタリングを行いました!「日本での学びが現地でどのように活かされているのか?」気になる結果を今回まとめてご紹介いたします。
JICA東京が実施する課題別研修「カイゼンを通じた保健医療サービスの質向上」では、日本で学んだ“カイゼン”の考え方を用いて、母国の保健医療サービスの質を改善することを目指しています。今回、東アフリカに位置するウガンダ共和国を訪問し、研修を終えて帰国した研修員たちのその後の活動をモニタリングしました。今回の訪問の目的は、研修で得た知識や経験がどのように現場で活かされているかを確認し、今後の研修内容をより現場のニーズに沿ったものにしていくことです。
私たちはウガンダ西部の都市フォートポータルにある地域中核病院を訪問し、Ms. MASIKA Gertude看護師と、2024年度研修員のMs. KICONCO Gloria医師(共に2023年度研修員)にインタビューを行いました。お二人は、「日本の病院を見学し、職員が高いモチベーションで働ける職場環境が整っていることに大変驚きました。日本とまったく同じ環境を作るのは難しくても、自国でも取り入れられるカイゼンに向けた取り組みはあると実感しました」と語ります。また、研修を通して他国の医療従事者と課題を共有するなかで、「他国でも同じような課題を抱えていることを知り、自国の保健医療サービスの質を向上させるための取り組みにも応用できると感じ、視野が広がりました」と振り返っていました。
帰国後は、病院内でのカイゼン活動の推進に加え、周辺地域の医療スタッフに向けたオンライン講義などを行うなど、日本で学んだことを広く伝える取り組みを進めています。
帰国研修員(Gloriaさん/Gertudeさん)と調査団員
病院内を案内して回るお二人
ウガンダ・タンザニアの水道事業改善を支援
「水道管理行政及び水道事業経営」は、水道事業実施機関の幹部を対象に日本の水道行政の経験や取り組みを学んでもらう研修で、2013年から実施されています。今回、研修員が日本で作成した帰国後の活動計画の進捗を確認するためにウガンダとタンザニアを訪問しました。
ウガンダ:無収水削減と安全な水供給への取り組み
国家水衛生公社(NWSC)に所属するATUHWERA Lovelineさん(2023年度研修員)は、漏水や盗水により水道料金徴収に繋がらない無収水の対策として、漏水対応チームや盗水対策チームの設置、ラジオを活用した違法水使用への啓発活動や地元警察と連携した違法水利用者の取り締まりを実施しました。
また、浄水場の清掃強化や水源保護のためフェンスの設置、水質改良のための配管洗浄や適切な薬品利用のためのスタッフ研修なども行い、水質向上のための活動に取り組みました。
これらの活動により、無収水率は15%から13%に改善、また、これまで水質への不安から料金徴収が難しかった地域でも、良質な水の安定供給により適正料金の徴収が可能になりつつあります。
同じくNWSC職員のMs. Eng. Sharon Karungiさん(2024年度研修員)は、研修終了後間もないことや研修後の配置部署の都合もあり、今のところあまり具体的な活動を展開出来ていないものの、研修で得た知見を他部門に積極的に共有し、組織内での無収水対策や水安全計画の立案に貢献するための働きかけを行っていました。
活動に取り組むLovelineさん
Sharonさんとの面談
タンザニア(ザンジバル島):メーター設置や配管整備による運営改善
ザンジバル水公社(ZAWA)のMohamed Asma Ahmedさん(2011年度研修員)は、研修で作成した無収水対策の活動計画をもとに、212個の水道メーターを設置、また、組織の効率化向上に向けた年間計画の策定推進などに取り組みました。現在は商業サービス部門の責任者として、組織運営の中核を担っているAsmaさんですが「今日、責任あるポジションを任されているのは日本での研修に参加したお陰です」と感謝の言葉を述べられていました。
また、HASSAN Hassan Khamisさん(2023年度研修員)は、日本で作成した活動計画に沿って老朽化した配管設備の改善、迅速な漏水箇所検知のための携帯アプリの導入などに取り組んでいました。
二人ともJICA技術協力プロジェクトのカウンターパートとしても活動しており、研修参加がプロジェクト専門家との良好な連携に繋がっていることも確認できました。
Hassanさんにアドバイスをする研修コースリーダー
給水施設の前でプロジェクト関係者と記念撮影
JICAが実施する研修事業は、単なる「知識の移転」にとどまりません。現地の課題に即した実践的なアプローチを重視し、研修員一人ひとりが「現場で実践できる力」を育むことを目指しています。
ウガンダの医療従事者たちは、日本で学んだカイゼンの考え方を持ち帰り、職場の中で、そして地域に対して働きかけを続けています。タンザニア・ザンジバル島では、水道事業においてメーター設置や配管の改善、デジタル技術の導入など、具体的な改革が進んでいます。
共通して見えてきたのは、日本の研修で学んだ「知識から実践への変容」です。帰国後も自ら考え、仲間と協働し、地域を巻き込んで変化を起こしていく。そうした姿勢は、JICAの課題別研修が単なる知識の提供にとどまらず、海外の課題解決を後押しする実践の場となっていることを物語っています。
報告者:JICA東京
経済基盤開発・環境課 近藤 直
人間開発・計画調整課 本郷 健人
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