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ウガンダにおける難民とホストコミュニティ対象の「難民支援プロジェクト」。草の根事業だからできる難民支援とは…?

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs

2025.05.12

首都カンパラから車で約6時間、乾季は日中40度近くまであがる乾燥地域に位置するウガンダ北部アジュマニ県。ここでは南スーダンからの難民と、難民を受け入れるホストコミュニティの両方を対象とした栄養改善・生計向上プロジェクトが行われています。

アフリカ最大の難民受け入れ国がかかえる問題

難民居住区の様子。ホストコミュニティと見分けがつきません。難民は住居をたてる土地と家庭菜園用の土地が与えられ、住宅周辺の土や木々をあつめ自分たちで家を建てます。

世界には「難民」と呼ばれる人々がどれほどいるかご存じですか?UNHCR統計データによると2024年5月時点で約1億2000万人。これは世界人口の約80人に1人にあたる数字です。

増え続ける難民がいる一方で、難民を受け入れている国々もあります。「寛容な難民受け入れ政策」を掲げる、東アフリカのウガンダもそのひとつです。隣国の南スーダンから160万人を受け入れており、その数はアフリカ最大。ウガンダ政府が掲げる「寛容政策」では、割り振られた土地での定住許可、就労・教育・医療はウガンダ人同様のサービスを受けられる等かなり充実しています。イメージしがちな「難民居住区」とは全く違う環境で驚きです。

その反面、難民の増加や定住長期化により、受け入れ側であるウガンダの負担は大きくなる一方です。難民自身もWFPからの資金援助が減額されるなど、危機的な状況に直面しています。ウガンダの難民受け入れ地域では、食料不足により子どもや若年妊婦の栄養状態の悪化、働き口が減ったことによる収入源の不足など、生活環境・生計・栄養・ジェンダーすべてが絡み合った問題が生じているのです。

オリジナル補助教材で意識と行動に変化を!

そこで特定非営利活動法人栄養不良対策行動ネットワーク(NAM)は2023年11月より、JICA草の根技術協力事業(以下、「草の根事業」)「西ナイル栄養改善生計向上(NILE)プロジェクト」を開始し、難民・ホストコミュニティ双方に対しての栄養改善・生計向上を支援するプロジェクトを実施しています。

事業地で行われている取り組みはさまざま。女性グループ向け栄養・衛生研修、バランスの良い食事のレシピ紹介・調理実習、生計向上のためのグループ貯金など多岐にわたります。そのなかでプロジェクトの目玉でもある、「女性グループ向け栄養・衛生研修」の様子をご紹介します。

この研修では、ウガンダ国保健省の標準教材に加えてプロジェクトならではのオリジナル補助教材を使っています。では、どのような点が“オリジナル”なのでしょうか?それは、「ほんの少しの意識や行動に変化を起こすだけで実践できる」という点にあります。
プロジェクト開始後、866世帯および1169名の5歳以下の子どものいる世帯を対象にヒアリング調査をおこない、「母子栄養に悪影響を及ぼす文化的・宗教的習慣」を洗い出しました。その結果を基に、正しい習慣や知識を身につけてもらうための144のイラスト・キーメッセージ教材を作成したのです。彼らの生活習慣を基にした教材となっているため、等身大のアドバイスがさらに受け入れやすくなっているのでしょう。

保健省の標準教材:日本でもお馴染みの「食品群」を学ぶための教材です。現地で食べている食材を3分類し、バランスの良い食生活を指導します。

オリジナル補助教材:6か月までの完全母乳育児の妨げになる年長者のアドバイスを聞かないというメッセージ。

ヒアリングをしてみると、次の意識・行動に変化が見られることがわかりました!

まずは母乳育児へのシフト。
【研修前】 生後3、4か月で、母乳から離乳食へ移行していたため、消化不良により下痢や脱水症状を発症する子どもが多かった
 ↓
【研修後】 赤ちゃんの消化器官が発達する生後6か月まで母乳育児を延長する母親が増え、下痢発症率が減少

子どもの食生活にも変化がありました!
【研修前】 卵や肉は子どもには良くないという考えが根強く、栄養バランスに偏りがあった
 ↓
【研修後】 卵や肉を食べても子どもに害がないことが分かり、子どもたちは朝晩バランスの取れたメニューを食べられるようになった

その他、何気ない普段の生活習慣にも変化をもたらしています。
・食品衛生の向上(飲用水の煮沸、調理前に食材を洗う、食材を加熱する)
・環境衛生の向上(簡易手洗い装置Tippy Tapの設置、コミュニティの野外排泄ゼロ)

5層構成で着実に根づくしくみを

そして、この教材を使った研修方法も特徴的です。研修実施者の構成が5層からなっており、上層のスーパーバイザー4名から枝分かれし、最終的に1668名の近隣女性にまで及びます。層ごとに月例会議を設け、まずは自らが学び、それを下層へ研修し、家庭訪問など個別のフォローアップも行います。また理解度を増すために、研修にはすべて母語を用いているのもポイントです。難民居住区とホストコミュニティそれぞれで同じ内容を実施しています。

月例会の様子。この日の教材トピックは「自宅周辺を衛生に保つ(子どもの庭での排泄を注意する等)」でした。

本事業では、「CG(ケアグループ)システム」と呼ばれるしくみを採用しています。

このように複数の層に分かれていることにより、単に研修指導を提供するだけに留まらず、下層の参加率や理解度の分析、知識・行動の変化までを丁寧にモニタリングしています。このモニタリング結果(研修の男女ごとの出席率、研修のなかで交わされた意見、具体的な提案など)を上層が取りまとめます。そして月に1度、難民居住区を管轄する省庁へレポートとして共有します。情報共有することで省庁関係者の理解も深まりますね。このシステムはこのプロジェクト独自の研修方法であり、しくみが事業地に着実に根づきながら機能している様子が確認できました。

月に1度発行しているレポート。出席率、研修で交わされた意見など、詳しく記されています。

草の根事業だからできる難民支援

このプロジェクトの事業期間は残り1年半となりました。難民の滞在は長期化していますが、難民の中には母国に出稼ぎに戻ることもあるため、プロジェクトの「持続性」にはやや難しさがあります。
その反面、今もなお増え続ける難民と受け入れ側のホストコミュニティにとって、「栄養改善」や「生計向上」は喫緊の課題です。草の根事業によるプロジェクトだからこそ、難民やホストコミュニティ双方の抱える課題やニーズをいち早くキャッチし、柔軟に、そして彼らの目線に立った支援ができるのです。まさに即効性があり、彼らが今必要としているサポートです。
難民は母国を追われ、言葉も文化も異なる地で暮らしています。きっと生活や子育てに大きな不安があるでしょう。このプロジェクトは、そんな彼らにとって心強い存在のはずです。草の根事業としても数少ない難民支援の展開に今後も注目していきたいと思います。

◆関連ファイル:NGO 栄養不良対策行動ネットワーク (Network for Action against Malnutrition: NAM)
◆関連リンク:本事業概要

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