【千葉県】「“One for all, all for one”の精神で」(日系サポーター受入先ご担当の紹介)
2025.08.15
NPO法人多文化フリースクールちばでは、過去4年間にわたり、南米の日系社会から「日系サポーター」を受け入れてきました。その立ち上げから、サポーターの研修や生活支援、活動先との調整を一手に担ってきたのが理事の仲江千鶴さんです。
今回は、仲江さんのこれまでの歩みと、日系サポーター事業への想いを伺いました。
仲江さんは福岡県出身。父親の転勤により、小学校を5回、中学校を2回も転校しました。「いろんな環境や価値観に出会い、人を受け入れる力が自然と身につきました」と微笑みます。
中でも心に残っているのが、“One for all, all for one”(1人はみんなのために、みんなは1人のために)という言葉。ある中学校で、遅刻常習の生徒たちが全員そろうまで授業を始めない先生に疑問を投げかけたところ、「1人でも取り残してはいけない」と諭されたのだそうです。
荒れていたクラスの子たちとも、徐々に心を通わせる中で、彼らの背景には貧富の差や偏見などの厳しい現実があることを知りました。「先入観や偏見で判断してはいけない」。その姿勢は今も彼女の支えとなっています。
大学で英語を学び教員免許を取得。商社勤務を経て、その後夫の赴任先・ペルーへ。1996年、現地で起きた「在ペルー日本大使公邸人質事件」に巻き込まれます。
大使公邸の祝賀会に参加していたところへ迷彩服の武装集団が会場に乱入し、仲江さん夫妻も多くの招待客や館員と共に人質に。銃撃戦や催涙弾が使用される場面もありましたが、幸いにも仲江さんは無事。女性や高齢者の人質はその夜に解放されましたが、夫は4か月もの間、公邸に留め置かれました。
「夫たち人質は若い少年兵に勉強を教えたり、トランプ遊びに誘ったりしていたそうです。山岳地帯など地方から連れてこられた子どもたちはいろいろなことに興味を持ち、そこから信頼関係を築いたようです。」
救出作戦の際、銃を構えて部屋に入ってきた少年兵が、銃撃戦を避けて部屋で身を縮めていた夫たちと顔を合わせても、銃撃することなく立ち去ったという、奇跡とも言えるエピソードも。
「『教育や信頼が命を守ることもある』、と、強く確信するようになりました。それ以降、同年齢の子供を教えるたび子どもと信頼関係が築けているか、そして学ぶ楽しさを伝えられているか常に自分に問いかけてきました。」
稀有の出来事への遭遇から得られた教訓。仲江さんの言葉の重みは計り知れません。
ペルー在住時代の様子
帰国後、千葉県船橋市で日系人の子どもたちの日本語指導を始めました。最初は学校だけでなく、銀行や病院への付き添いなど生活支援も多かったといいます。
2015年には、元教員たちとともにNPO法人多文化フリースクールちばを設立。母国で義務教育を修了していても、日本の高校進学が困難な外国にルーツを持つ子どもたちを支援する場としてスタートしました。
「最初は講師も子どもも少なくて、本当に寺子屋みたいでした。でも、理念に共感してくれた元教員たちが徐々に集まってきてくれたんです」
これまでに25の国・地域から216人の子どもたちが卒業していきました。
2021年、JICAの「日系サポーター」制度の公募を知り、フリースクールでも受け入れるべくプログラムの提案を決意。自身の経験をもとに、フリースクールでの指導や語学学校での日本語教師養成講座、大学での研修、日系人が多い公立小・中学校での子どもたちへの学習指導支援などを盛り込んだ内容で応募しました。
「ただ日本語を教えるだけでなく、現場を横断して多角的な学びを得られるように設計しました」と語る仲江さん。
提案表は採択。翌年、初代日系サポーターが来日し、以後毎年南米から若者を受け入れています。
2025年度日系サポーターと共に
日系サポーターは、学校でスペイン語やポルトガル語で声をかけることで、子どもたちの緊張をやわらげ、良き相談相手にもなっています。活動先からは「ぜひ来年も」と高い評価を受けています。
一方で、「子どもたちは自分の意思ではなく、親に連れられて日本に来ていることが多いです。最初はだまされたように感じている子もいます。」と課題も語ります。
ペルーから参加した初代サポーターが、帰国後大学での研究活動を通じ「安易に子どもを日本に連れて行くのではなく、子どもの将来も考えなければならない」と警鐘を鳴らしていることを最近知りました。「問題の根本的な解決に繋がる小さな成果ですが、それが波紋のように広がるなら嬉しい」と仲江さんは語ります。
外国にルーツを持つ子どもたちの支援に関わって、今年で25年。
「子どもたちにとって、『日本に来てよかった』と思える環境を整えることが私たち大人の責任です」
“子どもと信頼関係を築くことが教育の第一歩”。
そんな信念を胸に、仲江さんの挑戦は続いています。
■仲江千鶴(なかえ・ちづる)
NPO法人フリースクールちば 理事
・福岡県生まれ
・座右の銘:「実るほど頭を垂れる稲穂かな」(祖母の教え)
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