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桶谷式母乳育児のバングラデシュでの普及にむけて

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs

2025.10.06

日本発の“桶谷式”母乳マッサージが、バングラデシュの助産師たちの手によって広がり、赤ちゃんとお母さんの笑顔をつなげています。

赤ちゃんの命を繋ぐ母乳育児

街中の車のクラクションが聞こえる首都ダッカの病院に、赤ちゃんを抱えたお母さんがやってきます。彼女たちの多くが抱える悩みは「母乳がうまく出ない」「赤ちゃんが飲んでくれない」といったもの。バングラデシュでは、5歳未満児の半数が慢性的な栄養不良に陥っており、特に低出生体重児の割合が高いことが課題です。さらに、洪水の頻発による生活用水の汚染も深刻で、水を使う粉ミルクの使用が嘔吐や下痢などの感染症を引き起こすリスクを高めてしまいます。こうした状況の中、母乳育児は赤ちゃんの命を守るために欠かせない手段です。

そのようなバングラデシュで、“桶谷式”乳房マッサージが現地助産師の手によって少しずつ広がり、希望の光となっています。

この技術は、高価な機械や薬を使うことなく、助産師の手技だけで母乳の分泌を促すものです。「乳房マッサージは痛い」という印象を持つ方もいますが、桶谷式は母親に苦痛を与えない手技を特徴としており、日本では長年、多くの母親に支持されてきました。

日本では多くの助産院等で乳房マッサージを受けることができますが、世界的には広く提供されているものではありません。バングラデシュでは、公益財団法人桶谷式母乳育児推進協会によって30年以上、現地助産師たちへ技術指導が行われており、2014年からはJICA草の根技術協力事業としてさらに本格的な活動がスタートしました。現在実施中の「桶谷式母乳技術強化プロジェクト」をJICA担当者が現場視察しましたので、その様子をレポートします。

◆関連リンク:案件概要表

現地関係者からの高いニーズ

バングラデシュでは過去30年間にわたり、首都ダッカを中心に「母乳育児に関する相談ができる場所」や「授乳ができる場所」が整備され、現在では1,000か所以上に広がっています。その中には、助産師が常駐する「母乳外来(Lactation Management Center:LMC)」も含まれており、桶谷式母乳マッサージを取り入れた支援が徐々に浸透しつつあります。

現地でこの活動を推進する、国立母子保健研究所(ICMH)やバングラデシュ母乳育児財団(BBF)との協議を通じて、技術に対する理解と必要性が現地関係者に深く浸透していることが確認されました。小児科医からも「赤ちゃんの栄養を確保するために、出生率が高いバングラデシュで広く普及させていきたい」という声が聞かれました。

特別な器具や薬剤を必要とせず、湯桶・やかん・タオルがあれば、首都ダッカのみならず地方での実施も可能であるこの技術には、全国から期待の声が寄せられています。

助産師自身の励みにも

現在行っているプロジェクトでは、桶谷式の乳房マッサージと母乳育児方法についての技術指導を助産師に対して行うことができる指導者の育成をしています。
育成研修に参加する助産師自身はすでに技術を習得し、普段は勤務先の病院等で母乳トラブルを抱えるお母さん達に対応しています。1日に15人以上に乳房マッサージを行うという彼女たちに話を聞くと、「自らの手技で母乳が出るようになった時にやりがいを感じます」と語ってくれ、技術習得は、母子の支援にとどまらず、助産師自身の自信につながっている様子が伺えました。

「この技術は、バングラデシュの未来のために必要」と力強く語り、彼女たちの目には、自信と誇りが宿っていたことが印象的でした。

乳房マッサージの実技指導を行う様子

国境超えて育まれる母と子への想い

訪問した国立母子保健研究所の産科病棟では、産後間もない赤ちゃんと母親たちが入院していました。産後2日間で退院することが一般的なバングラデシュでは、そこにいるのは昨日か今日に出産したばかりの母親たちです。その顔には、命を授かった喜びと、これから始まる育児への不安が入り混じっていて、どこか日本の母親たちと重なって見えました。

赤ちゃんの命を守るだけでなく、そんな母親たちの気持ちに寄り添い、そっと支える営みが、遠く離れた日本からバングラデシュへと届き、現地の人々の手によって育まれていることは、心が温かくなるような光景でした。

技術習得は一朝一夕でできるものではありません。研修の実施にも参加にも、多くの関係者の理解と協力が必要です。現在、バングラデシュでの自立的な研修体制の構築や、政府の自己予算による持続的な支援体制の整備にむけて、現地の関係者達が奔走されています。
JICAは引き続き桶谷式母乳育児推進協会と連携しながら、バングラデシュのお母さん達が健康に安心して育児に取り組めるよう支援していきます。

ICMHの助産師・医師との集合写真

◆実施団体WEBサイト:公益社団法人桶谷式母乳育児推進協会

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