【新潟県】佐渡の歴史と伝統から学ぶ~JICA留学生が感じた自然と共にいきるということ~
2025.11.14
JICAは研修員受け入れ事業の一環として全国で多くの長期研修員(以下:JICA留学生)を受け入れています。JICA東京では新潟県を含む1都5県を管轄し、現在約370名のJICA留学生が31の大学で学んでいます。JICA留学生は、日々の勉強に専念する中で、日本の地域社会に触れる機会が限られています。「地域理解プログラム」は、日本の各地で培われてきた地域特有の開発事例を題材とし、地域に根差したより具体的な開発事例を学ぶことで、日本の開発経験について更なる理解を深め、母国の開発に活かしてもらうことを目的としています。
今回の地域理解プログラムは新潟県佐渡市にて2泊3日の日程で実施し、「佐渡の歴史と伝統」に関心がある13カ国18名のJICA留学生が参加しました。
初日には、佐渡市役所農林水産部の五十嵐麻湖さんによる講義により、佐渡の金銀鉱山発展、棚田の整備、トキ保護活動など、地域独自の歴史や自然との共生を目指す「トキと共生する佐渡の里山」づくりの取り組みと課題について学びました。 講義の中では多くの質問が寄せられ、インドネシア出身のリスマヤニさんは「インドネシアでも農村部の開発は進んできているが、佐渡のように自然環境を守りながら進めることが重要だ」と語り、自国の状況と照らし合わせながら佐渡の事例に耳を傾けていました。
続いて、佐渡市民との交流プログラムを実施し、グループに分かれて佐渡の暮らし、環境保護、教育など多彩なテーマについて意見交換が行われました。地元の中高生も参加し、通訳を介さず自分の言葉で留学生と積極的に交流する姿が印象的でした。
五十嵐さんの講義。佐渡の歴史やトキ保護の取組みについて深く理解できました。
地元の中高生との交流では、未来を担う世代と有意義な意見交換ができました。
講義合間の休憩では佐渡の海をバックに素敵な写真撮影。
2日目は昨年世界遺産に登録された佐渡金山を視察しました。1601年の開山から1989年の操業停止まで続いた歴史を持つ金山では、国重要文化財「道遊坑」を実際に歩きながら、JICA留学生たちは日本人の勤勉さや、掘削技術、チームワークに強い関心を寄せていました。「日本人の性格が採掘坑道にも感じられ、勤労の精神は自国でも大切」といった声もきかれ、参加者にとって貴重な学びの機会となりました。
「東洋一の浮遊選鉱場」とも呼ばれる北沢浮遊選鉱場跡では、そのスケールの大きさに圧倒されつつも、人工物と自然が溶け合う光景を目の当たりにし、各々が素敵な記念写真を撮りながら、佐渡の歴史と景観の魅力を肌で感じていました。
その後、齋藤農園代表の齋藤真一郎さんから「朱鷺と暮らす郷づくり」と題した講義を受けました。齋藤さんよりトキとの共生に至った背景、労働負荷の高い環境に配慮した農薬使用の削減と、それに伴う生物多様性に配慮した農業への取り組みに対する農家の反発から受容への変化、国の環境保全型農業政策の動向、環境と経済との両立における葛藤、そして佐渡の未来を担う子どもたちへの想いについて、熱意あるお話をいただきました。留学生からは「農家の皆さんの農業に対する思いや姿勢がとても興味深く感銘を受けた」、「若年層が都市部へと流出するなど母国と共通する課題を感じる」などの感想が寄せられ、齋藤さんのご自身の経験に基づく言葉が特に印象的だったようです。
夕方からは佐渡の伝統芸能である鬼太鼓(おんでこ)を潟上集落「誠心会」の皆さんのご協力のもと体験しました。まずは誠心会の方々による舞の披露があり、太鼓の迫力あるリズムに留学生たちは圧倒されていました。
続いて実際に太鼓を使って全員が体験しました。英語と日本語で、それぞれ片言ではあったものの意思疎通を行い、言葉の壁を越えて互いの文化を分かち合う貴重なひとときとなりました。
金塊掴み体験。重すぎてなかなか片手では持ち上がりません。
道遊坑の中はそのままの形で残されていて、皆さん感銘を受けていました。
齋藤さんの講義。トキと自然と調和して暮らす想いに感動しました。
本物の舞に皆さん興味津々。
全員で「地撥」の練習。
最終日は、廃校となった小学校を酒蔵として再生した「学校蔵」を訪問しました。尾畑酒造学校蔵五代目蔵元の尾畑留美子 さんより、資源循環型の運営方法を中心にご説明いただきました。留学生たちは、地元の素材を活かして作る日本酒やその想いに触れて、佐渡の自然の恵みやそこに暮らす人々との調和を再確認していました。
今回の地域理解プログラムでは、佐渡市の歴史的背景や現在抱える課題、そしてそれに対する地域の取り組みという明確なテーマのもと、各プログラムが有機的に連携し、深い学びの機会を提供する構成となりました。
その結果、留学生の皆さんは各訪問先や活動への理解を深めるとともに、自国の課題や取り組みと照らし合わせて考える貴重な機会を得ることができました。また、言葉の壁を越えた温かな交流は、参加者にとって忘れがたい体験となったことでしょう。
畑さんから日本酒の仕組みについて学ぶ。
どこか懐かしい日本の学校の廊下は、留学生の皆さんにとっては新鮮な体験。
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