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安心して学べる居場所の大切さ —日系社会研修”日系サポーター”*

2026.03.06

*JICA日系社会研修“日系サポーター”とは、国内の自治体・学校・NPOなどからの提案を受け、中南米から来日した研修員が日本で実践的に学ぶプログラムです。

海外にルーツを持つ子どもたちは、日本の学校や社会のなかで、言葉・学習・文化のギャップという見えにくい壁に日々向き合っています。
本記事では、日系サポーターとして現場に飛び込み、子どもたちと関わりながら日本語指導の実践を深めた二人の4か月、そして帰国後の挑戦を紹介します。

研修期間:2025年10月〜2026年2月
研修先:特定非営利活動法人青少年自立支援センター YSC グローバルスクール (以下、YSC
研修場所:東京都福生市

■ 勝也(かつや)さん[キューバ/日本語教師]
本名:CORO RODRIGUEZ Victor Manuel(コロ ロドリゲス ビクトル マニュエル) 

ハバナ芸術大学の公開コースで日本語を教えるかたわら、日本文化を広めるための様々な活動を行う。漫画やアニメをきっかけに日本語を学び始め、過去2回の来日経験あり。「勝利」を意味するVictorという自身の名前から、「勝也(かつや)」と名乗る。

研修への参加理由:「キューバの日系社会には、戦中・戦後の影響から日本語や日本文化の継承が難しく、学ぶ機会が限られています。キューバでこれから日本語を学びたいと思う子どもたちに日本語を教えることができるよう、YSCから学びたいと考えました。」

■シャニアさん[アルゼンチン/日亜学院 日本語教員]
本名:Lin Shania Kiara(リン シャニア キアラ)

台湾にルーツを持つ。ブエノスアイレス日亜学院(幼稚園、初等部、中高等部。日系社会が経営し日・西・英の3か国語で教育を行う)卒業後、同院の子どもたちに日本語を教えながら、ブエノスアイレス大学で法律を学ぶ。

研修への参加理由:「高校卒業後すぐに教壇に立ったため、体系的な教授法を学ぶ機会が限られていました。また、YSCの子どもたちと日亜学院の子どもたちの置かれた状況がよく似ていると感じ、指導法を吸収したいと考えました。」

研修を通じて学んだこと

YSCでは、小学1年生から高校進学を目指す若者、および生活者(大人)を対象に、初級レベルの日本語クラスから教科学習や就労支援まで幅広い授業を対面・オンラインの両方で行っています。二人は授業見学と教材研究、模擬授業等を通じてYSCでの指導方法を学んだ後、早速実践で子どもたちへの指導を開始しました。
「これまでスペイン語で日本語を教えていたため、日本語で日本語を教えることが最初はとても難しかったです。」(シャニアさん)
子どもへの指導経験がなかったため、慣れるまでは大変でした。」(勝也さん)

そんな二人も、最終報告会では他の先生方から別れを惜しむ声が多数聞かれるほど、「先生」としての力をどんどんつけて行き、子どもたちとの距離も近くなっていきました。二人が工夫したことは、「楽しみながら学ぶ」こと。日本に来たばかりの子どもたちへの授業では、ジェスチャーを多く使うことでコミュニケーションが取れることを学びました。また、ゲームを通じて楽しみながら新しい言葉を習得することで、子どもたちの学習意欲が引き出せることも体験しました。

授業中の様子

授業の終わりにクイズで覚えた平仮名を復習

シャニアさんは、漢字学習が難しいと感じる子どもたちには、漢字のペアを探す“漢字探しゲーム”を実施するなどして、遊びながら学習に繋げていきました。

授業中にあやとりをする様子

漢字探しゲーム

授業中の一コマ

「大切なことは、信頼関係を築くこと。そのためには、子どもたちの名前をまず覚え、そして彼らの言葉と文化を知ることです。YSCで沢山の外国ルーツの子どもたちに出会い、様々な文化を知ることができたのは大きな財産です。」とシャニアさんは話します。

授業の一環として行った文化ワークショップでは、それぞれの得意なことを活かし、勝也さんは「書道」、シャニアさんは「太鼓・エイサー」を企画しました。書道では、一人ひとりの名前を当て字にして手渡す導入が効果的でした。筆づかいを確認したあと、自由に書く時間を置くと、気づけば練習用紙はあっという間に使い切るほど文字を書くことに集中していました。最後は大きな紙に子どもたちそれぞれが選んだ言葉を一生懸命書きました。
太鼓・エイサーでは、太鼓の持ち方、叩き方、注意事項等を伝えた後、パート毎に区切って一つ一つの動作の見本を見せ、実践に移し、前のパートと繋げていくという流れで教えていきました。音楽に合わせて太鼓を叩きながら体を動かす動作に、最初は「難しい…」と戸惑っていた子どもたちも、練習を重ねるほどリズムが揃い、最後は達成感と全員の笑顔が溢れました。

書道ワークショップの様子

太鼓・エイサーのワークショップの様子

YSCの日系サポーター研修 受入責任者・田中宝紀さんは、次のように話します。
「二人はYSCの指導方法を吸収しながら、先生として現場で即戦力の働きを見せてくれました。日本の学校にこれから通う子どもたちにとって、さまざまな大人と出会うことはとても大切です。二人は子どもたちと年齢が近いこともあり、自然と近い距離で関わってくれていました。」

学びはYSCの外にも広がりました。福生市立福生第二小学校での特別授業では、キューバとアルゼンチンを紹介し子どもたちと交流。2025年11月には大阪で行われたシンポジウム「~多文化多言語の若者の「働く」を考える~」に参加し、多文化・多言語の子どもを支える現場や当事者の声に触れました。
とくに民族学級(公立小学校内の少数言語・文化を尊重する学級)の視察では、母語/継承語を大切にする姿勢に強く心を動かされました。

福生市立福生第二小学校での授業の様子

「研修を通じて、日本語指導法や教科の教え方だけでなく、子どもたちが安心して学べる環境の大切さも学びました。YSCでは、その居場所作りに貢献できたと思っています」と二人は語ります。

帰国後の挑戦

勝也さん:キューバの首都、ハバナだけでなく、他の地域でも日本文化や日本語を学びたい子どもが楽しく勉強できるよう、オンラインコースや対面コース、ワークショップの実施等を行っていきたいです。また、来日中に参加した沢山のイベント(地域のお祭りや餅つき大会等)を通じて、イベントのやり方を新たに学ぶことができたので、今後の日本文化イベント開催に活かしていきたいです。

参加した福生でのお祭り

餅つき大会でお餅をつく勝也さん

シャニアさん:
言葉の壁により、学校での授業への理解、ノート取り、復習等が上手に行えず、学習が定着せずに自信を無くし悪循環に陥ってしまう子どもたちのために、保護者が家庭での学びを支えることができるよう、授業内容をスペイン語・英語で解説する“学習ガイド”を作成しています。完成したら、日亜学院でもYSCでも使えるようにしたいと考えています。

4か月の研修で得た学びを力に、二人の挑戦はこれからも続いていきます。

YSCでの最終報告会にて先生、関係者らとともに

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