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“農民主体”──観光地バリ島から始まる、新しいコメの農民組織モデルへの挑戦

2026.04.08

観光で栄えるバリ島。その山あいで、受け継がれてきた伝統とともに、農民が生産から販売まで担う新しいフードバリューチェーンが広がりを見せています。

バリ島ププアン村に広がる美しい稲作の風景

観光地バリ島の課題

インドネシアのバリ島の山あいにあるププアン村。美しい棚田が広がるこの地域で、農家たちが自分たちの力でコメ作りから販売まで行う事業が進められています。
観光産業が発展するバリ島は、もともとインドネシアでも有数のコメの産地として、稲作文化も栄えてきました。バリ島における急速な観光開発の影響も受け、水田地域は減少し続けており、農業に携わる人々の所得向上は依然として重要な課題です。たとえ農産物を生産しても流通から販売につながる仕組みが不十分なため、農業が経済的な発展につながらず、貧困が持続してしまう現状があります。
そんな現状を変えるために、生産から販売までの強化支援が行われています。この挑戦を、農民たちとともに進めているのが学校法人早稲田大学(以下、早稲田大学)です。
今回は、JICA草の根技術協力事業として実施している「参加型フードバリューチェーンの構築を通じた所得向上」について、JICA担当が現場視察した様子をご紹介します。

スバックの精神とともに歩む──農民の新しい挑戦

バリには古くから受け継がれる水利システム「スバック」があります。スバックとは、農民同士が水を公平に分け合うための共同体組織で、祈りや儀式も含んだバリ独特の文化的仕組みです。山が多く棚田が段々と続くバリ島では、どの田んぼにも水が行き渡るようにすることが欠かせません。農民たちは、“助け合いの精神”で水を融通し合い、美しい田園を守ってきました。

事業地であるププアン村のスバックでは、農薬を使わないコメづくりが行われています。無農薬米の収量はまだ低く、販売時には、農薬使用米と同じ価格でしか売れない状況が続いています。また、農民は、販売先を自由に選択できず、仲介業者の言い値で販売せざるを得ません。

「自分たちのコメを適正な価格で販売したい」、そんな思いがププアン村の農民たちにはあります。

早稲田大学の草の根プロジェクトチーム(以下、早大PJチーム)による現地調査では、健康志向のレストランやバリ島在住の外国人居住者などに対し、無農薬米の評価が高いことが分かりました。そこで、従来の仲介業者との関係を維持しつつ、無農薬米の価値をより発揮できる個人向け市場をターゲットに販路拡大を進めています。

ププアン村の農民たちが栽培した無農薬米は、現在、レストランカフェでの常設販売をはじめ、ファーマーズマーケット、オンラインショップ、ケータリングサービスなど、多様な販路が確立されつつあります。

本事業で販売しているコメ。丁寧にパッケージされ、新鮮な状態で提供されています。

農民組織の発足で高まる農民たちの自信

販路拡大にあたり、早大PJチームは農民たちがコメの生産に加え、保管・流通・販売までを担い、主体的にフードバリューチェーンに参加していく仕組みづくりを行っており、販売に特化した農民組織「Timbul Harmoni(ティンブル・ハルモニー)」を立ち上げています。
Timbul Harmoniの組織体制はリーダーをはじめ、営業や財務担当など8部門から構成され、計15名のコアメンバーが中心となって運営されています。早大PJチームは、このコアメンバーに対して役割ごとのOJTを繰り返し行い、組織運営に必要な知識や技術を丁寧に伝えています。こうした支援を通じて、農民たちは自分たちで組織を動かす自信を着実につけています。

現場視察時、販路開拓の営業に早大PJチームとともに同行した農民から、
「自分たちのコメが市場で評価されていることに驚いた」
「購買者の顔を見ることができてうれしかった」などの声が聞かれました。

こうした経験は、農民たちにとって大きな気づきとなり、今後の営業活動や常設販売で自ら販売を行う際の、確かな自信へとつながっていることが感じられました。

農民組織「Timbul Harmoni」のメンバー、事務所兼倉庫前にて。

農民参加型の組織づくり

今後、Timbul Harmoniのメンバーは、コメの共同販売を支える中心的な存在として、同じ村の農民を指導するトレーナーとしての役割も担っていくことが期待されています。これまで農業を中心に生計を立ててきた農民にとって、主体的にビジネスの運営に関わっていくことは、時に難しさも伴うかもしれません。しかし、本事業を通じて学んだ知識や実践を積み重ねる中で、自分たちで組織を動かしていけることを願っています。

バリ島に古くから受け継がれてきたスバックの運営では、農民同士が対等に話し合い、合意を重ねながら物事を進める仕組みが根づいています。この精神は、単なる水利管理の枠を超え、地域の暮らしや価値観を支える文化そのものです。

早大PJチームが大切にしているマネジメント手法も、このスバックの理念と重なる“農民参加型”のアプローチです。農民自身が考え、話し合い、決め、そして実行する――そんな主体性を育むスタイルで組織づくりが進められています。

JICAは引き続き早稲田大学と連携し、参加型フードバリューチェーン構築を支援していきます。

▼関連リンク
・プロジェクト概要:案件概要表
・インスタグラム :
https://www.instagram.com/timbulharmoni_waseda?igsh=MTUyd2dpd3Z6cm0yZA%3D%3D&utm_source=qr

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