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【開催報告】世界遺産が育む未来の農業と島づくり

2026.07.16

9カ国18名のJICA留学生が佐渡島で学んだ「持続可能な地域開発」の未来

 JICA東京では、開発途上国から来日している長期研修員(以下:JICA留学生)を対象に、日本の地方自治体や地域社会における先進的な課題解決の取り組みを学ぶ「地域理解プログラム」を定期的に実施しています。
 2026年5月29日(金)から31日(日)までの3日間、新潟県佐渡市において、世界各国の未来を担う9カ国18名のJICA東京所管のJICA留学生たちが参加するプログラムを開催しました。
 テーマは「世界遺産が育む未来の農業と島づくり」。佐渡が誇る金銀山の開発史、世界農業遺産(GIAHS)にも認定された棚田、そして地域に息づく伝統芸能「鬼太鼓(おんでこ)」など、佐渡ならではの資源を活かした統合的な地域開発の歴史と現状を学ぶことが目的です。さらに、深刻化する人口減少に対する行政の国内移住政策や、現場で奮闘する移住者たちの実践例を視察し、環境保全と経済活動を両立させる「持続可能な地域開発」の具体的事例を体感しました。

行政のビジョンを学ぶ~環境保全型農業と攻めの国内移住政策~

 佐渡島に到着したJICA留学生たちは、まずプログラムのオリエンテーションに臨みました。ここでは、本プログラムの諏旨や全体行程の解説が行われるとともに、それぞれの自己紹介を実施。プログラムに対する目的意識を明確にしました。異なる国から集まったJICA留学生同士が活発に意見を交わすための、強固な土台が作られた時間となりました。

オリエンテーションに参加するJICA留学生たち

 最初の講義として、佐渡市移住交流推進課の仲川公二郎氏より「国内移住促進等の取組み」についての講義が行われました。多くの地方自治体と同様に、佐渡市も人口減少という大きな課題に直面しています。この現状を打破するため、行政が進める主に2つの柱が紹介されました。ひとつはビジネスコンテスト等を開催し、交付金支援などを通じて島内での新しい仕事の創設を後押しする新産業の創出と支援。もうひとつは企業誘致やコミュニティ作りを推進し、転入者数から転出者数を引いた「社会減」ゼロを目指すことです。
 さらに、関係人口の拡大を狙ったユニークな施策として、親子で1~2週間滞在しながら地元の保育園に通う「保育園留学」の事例も紹介されました。近年ではオーストラリアや香港といった海外からの参加者もみられるとのことで、基本は国内向けでありつつも、海外からも関心の高さが示されているようでした。若者の都市部流出は開発途上国でも共通の深刻な課題です。JICA留学生からは「ビジネスコンテストの選考基準はどのように設定しているのか」といった実務的な質問のほか、「自国でも同様の課題があり、非常に参考になる」といった共感の声が寄せられました。

深刻な人口減少の現状について説明する仲川氏

 続いて、佐渡市農業政策課の池田厚志氏より「次世代へ繋げる佐渡の農業」と題したお話を伺いました。日本産トキの絶滅を契機に、佐渡市では生物多様性保全型農業を強力に推進してきました。画一的な作物生産に頼るのではなく、各地域の特性に合わせたレジリエント(しなやかで強靭)な農業を目指す「世界農業遺産」の取り組みや、トキをはじめとする生き物を育む環境配慮型の農法について、詳細な説明がなされました。
「トキが人間を警戒する様子がなく、人間がトキを珍しがることもないような状態にすること。それこそが、私たちの目指す真の共生の姿です」
 池田氏のこの言葉は、環境保全の本質を突くものとしてJICA留学生たちの心に深く刺さりました。ちょうどプログラム最終日の5月31日には、トキの生息域拡大を目指した初めての島外放鳥(石川県)が実施されるというタイムリーな時期でもあり、佐渡の取り組みが新たな局面を迎えていることが示されました。JICA留学生からは、「トキ認証米の海外ビジネス展開の可能性は?」といった、自身の専門領域やビジネス視点に基づいた活発な質問が相次ぎました。

歴史・文化の体感と、地域主導の棚田保全活動

 2日目は、「佐渡金山」の視察から始まりました。まずはガイダンス施設「きらりうむ佐渡」を訪れ、映像を通じて金山開発の歴史や、それに伴って醸成された独自の文化について深い知識を得て、その学びを踏まえた上で、2つの代表的な坑道を巡りました。江戸時代の驚異的な手掘りの技術を伝える「宗太夫坑(そうだゆうこう)」、そして明治時代に開削され、近代化の手法で金山の発展に大きく貢献した国重要文化財・国史跡の「道遊坑(どうゆうこう)」の両方を視察したJICA留学生たちは、時代ごとの技術の変遷に目を輝かせていました。
 熱心に写真を撮影しながら巡る中で、あるJICA留学生からは「採掘坑道の細部から、日本人の極めて真面目な性格が伝わってくる。この『勤労の精神』は、私たちの国が発展していく上でも見習うべき大切なものだ」という、文化・精神面に着目した深い洞察が聞かれました。

佐渡金山の名所「道遊の割戸」で記念撮影

 午後からは、新潟大学佐渡自然共生科学センター(里山領域)の豊田光世氏による「佐渡における地域主導の棚田保全活動」の講義と現地視察が行われました。佐渡の棚田の形成には、実は午前中に見学した金山の歴史が深く関わっています。視察直後だったこともあり、JICA留学生は歴史的背景と現在の環境保全がどのようにつながっているのかを深く理解することができました。ここでは、国や行政の補助金に依存するのではなく、地域住民が主体となって自然の仕組みを利用した持続可能な棚田保全を実践している様子を学びました。

豊田氏による取り組みについての説明

 視察後の昼食では、地元の市民団体「UKUU」の皆さまが、籾殻を燃料にして炊き上げた熱々の「ぬか釜ご飯」を全員で試食しました。地域住民の方々とテーブルを囲み、笑顔で棚田米を味わう中で、コミュニティ主導による草の根の活動の重要性を体感しました。

UKUUのメンバーと意見交換・交流会

鬼の面を付けて本番!

 2日目の締めくくりは、潟上集落開発センターにて、地元保存会「誠心会」の皆さまのご協力のもと、佐渡の伝統芸能である「鬼太鼓(おんでこ)」の体験セッションが催されました。JICA留学生たちは、鬼太鼓の基本打法である「地撥(じばち)」「寄せ撥」「くれ撥」「車撥」についてレクチャーを受け、まずは練習用のタイヤを使って地撥の練習を開始。最初は慣れないバチさばきに苦戦していたものの、熱心な指導のもと、次第に力強い音が響き始めました。最後は本物の太鼓を使い、数人の有志が練習の成果を披露。誠心会の皆さまは英語で、JICA留学生は日本語を交え、片言ながらも心を通わせながら互いの文化を共有し、会場は大いに盛り上がりました。地域の伝統を守り継ぐ人々の想いに直接触れる、地域理解プログラムの本質を象徴する意義深い機会となりました。

誠心会の皆さまとの記念写真

未来を切り拓く移住者たちと、山・川・海を結ぶ生命の循環

 最終日は、初日の講義で学んだ「移住促進策」が、実際の現場でどのように進行しているのか、2人の移住者(U・Iターン起業家)の事業視察を行いました。
一人目の実践者は、一般社団法人ミライサトの伊藤毅氏です。千葉県出身の伊藤氏は香港で8年間仕事をした後、佐渡へと移住しました。伊藤氏は、都市部と農村部における価値観の違いに着目し、農業体験や田舎暮らし体験を通じて「参加者のこれまでの価値観を揺さぶるような経験」を提供する農家民泊事業を展開しています。さらに、地域の課題である空き家問題を解決するため、クラウドファンディングで資金を募り、空き家を改築して「里山シェアハウス」を新たに立ち上げるという取り組みも紹介されました。途上国のコミュニティ開発においても資金調達や遊休資産の活用は共通のテーマです。JICA留学生からは「クラウドファンディングによる資金集めで最も苦労した点は何か」「日本の木造空き家改築における最大の課題である、シロアリ対策はどうしているのか」といった、実務的かつ具体的な質問が飛び交い、積極的な意見交換が行われました。

伊藤氏による起業についての説明

佐渡の絶景を背景に記念撮影

 二人目の実践者は、株式会社佐渡活の本間金五氏です。佐渡生まれの本間氏は、大学進学を機に神奈川県へ移り、首都圏での勤務を経てUターンで島へ戻ってきました。本間氏が直面したのは、佐渡特有の「季節による雇用の不安定さ」でした。春から秋にかけては植木業を営むものの、冬は雪の影響で仕事が激減してしまいます。この課題を克服するため、本間氏は冬の事業として「牡蠣の養殖業」を導入。植木と牡蠣という二つの事業を組み合わせた「二刀流」を実践することで、季節性の課題がある地域では課題となる「年間を通じた社員の安定雇用」を実現させました。
 また、本間氏は「牡蠣の養殖は自然環境の影響をダイレクトに受ける。だからこそ、佐渡の森林や川、そして海の環境を一体として守ることが不可欠だ」と語りました。2024年に発生した能登半島地震の際には、加茂湖の海底の土が巻き上がってクロダイの主食である海藻が激減し、飢えたクロダイが牡蠣の稚貝を食べてしまうという記録的不漁に見舞われたエピソードも共有され、JICA留学生たちは自然と産業の関係性に強い関心を寄せていました。講義の後、JICA留学生たちは実際に牡蠣の稚貝をロープに取り付ける来年の収穫に向けた準備作業を体験。従業員の方々の丁寧な指導のもと、全員が初めての作業に挑戦しました。
 海に面したモザンビーク出身のJICA留学生は、この体験に強いインスピレーションを受け、「私の母国にも豊かな海がある。この手法を取り入れれば、母国でも持続可能な牡蠣の養殖ビジネスができるかもしれない」と、帰国後の実践を見据えて熱心に質問を重ねていました。

本間氏による事業説明

従業員の方による牡蠣の稚貝付け体験

佐渡全体を循環する「自然・事業・人」の知恵を世界へ

 今回の3日間のプログラムは、「世界遺産が育む未来の農業と島づくり」という一貫したテーマのもと、行政による政策のグランドデザインから、それを受けた現場(棚田保全、移住起業家)の実践へと、点と点がつながり、重なり合う構成となりました。この連動性があったからこそ、JICA留学生にとって各取り組みの成果と課題が明確になり、自国の課題に引きつけて主体的に考える機会となりました。
 特に大きな学びとなったのは、「山から海へとつながる生態系の循環」です。初日に学んだ「トキの保護を目的とした持続可能な農業」が地上の土壌を豊かにし、その豊富な栄養分が川を通じて海へと流れ込むことで、加茂湖の牡蠣が通常2〜3年かかるところを、わずか1年で出荷できるまでに育つ。この自然の恩恵が、移住者の通年雇用のビジネスを支えているという一連のストーリーを五感で学んだことは、JICA留学生にとって「統合的地域開発」の好事例となりました。
 佐渡島の人々が紡いできた、自然を畏敬し、自然と共に生きる持続可能な知恵。それは、気候変動や急速な都市化に直面する開発途上国の地域開発に対して、進むべき未来の羅針盤を示してくれたと言えます。
 JICA東京は、これからも日本の地域社会の皆さまと手を取り合い、日本の知見を世界へ、そして世界の活力を日本の地域へとつなぐ架け橋としての活動を続けてまいります。

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