難民問題の今日的課題 第2回グローバル難民フォーラムに参加して

#10 人や国の不平等をなくそう
SDGs
#16 平和と公正をすべての人に
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.02.06

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企画部 次長 室谷 龍太郎

1.難民・避難民の急増と長期化

 2023年はウクライナへのロシアの侵攻は2年目となり、イスラエル・パレスチナでの大規模な武力衝突など、世界各地で人道危機が一層深刻になりました。人道危機の結果として増加しているのが難民・避難民です。近年では気候変動、自然災害、経済危機等、様々な危機が生じるのと同時に、以前からの危機が終わらず、紛争が長期化し、難民の避難も長期化しています。世界の難民・避難民は1.14億人(2023年9月末時点)を超え、過去10年間で約2.5倍に急増しています。
 こうした難民・避難民の多くは近隣の国・地域に避難しています。6,250万人は国境を越えない国内避難民(IDPs)で、国境を越えた難民の69%は隣国に避難しており、難民の75%を受入れているのは低・中所得国です。難民の66%(ウクライナ難民を除くと80%)は5年以上の長期化した状況にあり、こうした地域では、避難と受入れが常態化しているのです。

2.人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)

 2023年12月13日から15日にジュネーブで第2回グローバル難民フォーラム(GRF)が開かれました。日本はこの国際会議の共同議長国のひとつとして、難民問題への対応の強化を呼びかけました。GRFで日本が強く主張したのは、人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)の重要性でした。難民・避難民への対応は、これまで緊急的な人道支援が中心でしたが、長期化した状況が常態化する中では、中長期的な開発協力の視点が必要とされています。

第2回グローバル難民フォーラムのハイレベルイベント。田中明彦JICA理事長も登壇した。

JICAは緒方貞子理事長の時代から、UNHCRとJICAの連携、人道と開発の連携、人間の安全保障に取り組んできました。UNHCRから難民の権利や保護について助言を受けながら、開発協力の強みを活かす取組みを進めてきました。では、難民危機に対して開発協力には具体的にどんな特徴があるのか、ここでは3点を示したいと思います。

 1つ目は、教育や研修といった能力開発を通じて人が持っている多様な可能性を開き、自立を促進し、尊厳を守るということです。ウガンダでは、JICAが長年ウガンダ人と難民の双方に対して稲作研修を実施し、南スーダンからの難民のウガンダでの生計向上につながっています。また、JICAは2017年からシリア人難民を留学生として日本に受け入れるプログラムを実施しており、難民の将来の可能性を開くものとして注目されています。

 2つ目は、開発協力で受入国政府と協力して、難民・避難民と受入れ地域の住民の生活を改善する新たな仕組みを作ることが出来るということです。ウガンダやザンビアにJICAは難民政策アドバイザーを派遣し、政府の難民対応の政策への助言や、人道支援と開発協力の連携の促進に協力しています。ウガンダでは、人道支援と開発協力を統合して効率的に難民と受入れ社会に届ける仕組みづくりに協力しています。世界銀行等を通じて難民受入国の制度改善やインフラ整備を促進するグローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)にも、JICAは資金協力しています。

ウガンダの難民居住区

 3点目に、開発という行為を通じて、相互理解、社会的な結束を深められるということです。コロンビアでJICAは、内戦による影響を受けた地域で生計向上のためのコミュニティの活動に協力しています。国内避難民やその帰還民、隣国の政情不安から避難してきた移民・難民と地域住民が混在する地域で共同活動を通じて相互理解や結束が進んでいます。平和的な共存の促進は、難民が帰還できるような平和な社会づくりにもつながります。

 こうした開発協力の特徴を活かすために、HDPネクサスを推進する難民受入国の政府の役割が重要です。開発協力が、人道支援や、紛争調停や和解促進といった平和のための取組みと、相互補完的な相乗効果を発揮するためには、難民受入国政府が地域住民と難民の共存する形を考えて政策を作る必要があります。相互補完的な協調が進めば、危機にある人々の命を守り、難民を含むすべての人が開発の担い手(agent)として能力を開花し、様々な脅威に対してレジリエントで紛争が起こらない社会を作る、という、人間の安全保障を実現できるはずです。

3.求められる協力の広がり

 HDPネクサス推進のもうひとつの鍵は、参加者の広がりです。人道機関に加えて、開発や平和に関わる人・組織が協力を始め、社会全体(Whole of society)での取り組みが求められています。開発や平和への貢献は、公的機関だけのものではなく、民間企業や民間団体にも大きな可能性があります。GRFの開会セッションでは日本のファーストリテイリング社が、難民に衣料を届ける協力に加えて、難民への職業訓練や難民の雇用といったビジネスを通じての協力に取り組むことを表明し、強い賛同を呼びました。
 GRFへの日本からの参加者も多様化しており、日本政府・JICAだけでなく、日本国内に住む難民や難民の雇用を進める民間企業・NGOも参加しました。日本での難民への支援と、ウガンダなど他の国でのJICAの難民への協力について、情報交換することで、新たな協力策の共創につながることが期待されます。
 グランディ国連難民高等弁務官も難民への協力について「誰もがそれぞれの方法で協力できる(Everyone can contribute in their own way.)」と述べています。1億人を超える全ての難民・避難民に最適な協力を見つけることは容易ではありませんが、それぞれの状況に合わせた協力ならば可能なはずです。社会全体で、それぞれができる難民・避難民との協力のあり方を探すことが求められています。

以上

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