アフリカの産業振興・雇用創出にむけてー若者・ジェンダーの視点からー

#2 飢餓をゼロに
SDGs
#8 働きがいも経済成長も
SDGs
#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs

2024.06.05

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経済開発部 部長 下川 貴生

1.スティグリッツ教授の視点-アフリカの産業振興と雇用創出-

 JICA緒方研究所では、2024年3月11日にアメリカの経済学者であるジョセフ・E・スティグリッツ教授講演「変わりゆく世界経済の中での雇用の未来」を開催しました。議論の中心はアフリカにおいて現時点で平均年齢が約18歳と、世界平均の約30歳よりも大幅に若く、2100年には世界人口の約4割の40億人を占めると予測される中、同大陸でいかにディーセント・ワーク を創出するかという点で、考える機会となりました。スティグリッツ教授は、従来から「技術革新等により製造業の雇用吸収力は低下傾向にあり、アフリカの人口増スピードに対し製造業だけでは雇用創出は不十分」と指摘 しています。そうした点を踏まえ講演では、アフリカの産業振興と雇用創出の戦略には(1)農業やサービス業等も含むマルチセクターで考え、(2)市場、国家、地域間の多面的アプローチの下、(3)学習、産業、技術振興 (LIT(Learning, Industrial, Technology) 政策を推進することが必要、と指摘されていました。また、(4)人口増・食料安全保障の観点からも、農業セクターと非農業セクターが共に成長していく必要があるとの主張も印象に残りました。

 もちろん、アフリカでの製造業振興は全く見込みがないということでは決してないと思います。例えば、大塚啓二郎教授の『「革新と発展」の開発経済学』の第10章では、エチオピアの製靴業、ガーナの金属加工業、タンザニアのアパレル産業等の実証研究を通じ、アフリカでも多くの産業集積の萌芽があること、そしてその質的向上と競争力強化のために外資を含む技術移転やJICAが進めるカイゼン による技術経営研修が有効であること等を指摘されています。一方で、地政学の変化に伴いグローバリゼーションの在り方も変わる中、アジアで成功した安価で豊富な労働力の農村部からの移転を伴う輸出製造業の誘致・育成による産業振興と雇用創出は、今後のアフリカでは一段と困難かも知れないと感じます。現に、サブサハラ・アフリカの経済成長は既にサービス業が主導している状況です(図1:世銀Africa’s Pulse, April 2024)。

図1:サブサハラ・アフリカ経済成長予測

 スティグリッツ教授が指摘する「マルチセクターで市場、国家、地域間の多面的アプローチ」によるアフリカの産業振興と雇用創出は、言い換えれば(1)農業、製造業、サービス業の各セクターにおいて人材育成や産業投資・誘致、技術革新に繋がる政策検討がなされ、(2)その各セクター政策がマルチセクトラルな開発戦略として調整され、(3)国内市場や国家単位を超え、地域経済の視点で開発戦略を練ることと解釈出来ます。それは決して簡単なことではなく、JICAを含むドナーも、セクターの縦割りや国単位の援助アプローチを大きく乗越えていく必要があるでしょう。その点で、JICAも支援してきたアフリカ各地域の回廊構想は、まさにスティグリッツ教授の指摘に沿うものと考えます。今後も、デジタルトランスフォーメーション (DX)やグリーンテクノロジ―を積極的に取り入れつつ、ハード・インフラ支援のみならず、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)推進に資するソフト支援や、マルチセクトラルな産業振興の観点から回廊各国を繋ぐ産業バリューチェーンとして構築支援すべき、と考えます。

 他セクターへのインパクトと言う点では、アフリカではグリーンテクノロジーに注目した電力アクセス向上が雇用創出に効果がある、との視点もあります。2024年世銀IMF春季総会に合わせた4月3日のサイドイベントで、アジェイ・バンガ世銀総裁は、アフリカで今後10年に雇用創出をリードする5セクターとして①エネルギー・インフラ、②運輸インフラ、③ヘルスケア、④観光、⑤アグリビジネス、を挙げています。中でもアフリカでは依然6億人の電力アクセスが無い現状に鑑み、他セクターに波及効果の高い支援取組みとして、2030年までに3億人の電力アクセスを目指す新たなイニシアチブをアフリカ開銀と立上げています。

 また、2023年12月のドバイでのCOP28では、ケニアのルト大統領主導により、エネルギー・インフラ分野を中心にグリーンテクノロジーを活用した産業振興をアフリカで目指すイニシアチブが立上げられました。スティグリッツ教授も上記JICA緒方研究所講演で、広大なアフリカにおいては、エネルギー開発等において分散型が特徴のグリーンテクノロジーのポテンシャルに期待を寄せています。「農業セクターと非農業セクターが共に成長」するには、グリーンテクノロジーを有効に活用し、農業生産性と気候変動対策へのレジリエンスを向上させ、アグリビジネスや観光等の雇用吸収能力の高い産業振興を模索してはどうだろう、と感じます。JICAも農業・農村開発グローバルアジェンダの下で、推進する農業(SHEPCARD)と、民間セクター開発(カイゼン・NINJA(スタートアップ支援) )の連携・相乗効果を狙った支援取組みを更に具体化していきたい、と考えています。

2.ジェンダーと雇用-アフリカの課題とチャンス-

 アフリカの産業振興と雇用創出において、女性の役割や課題はどのように考えていけばよいでしょうか。IMFは2024年4月にサブサハラ・アフリカの経済開発とジェンダーに係る報告書を発表しています。これを見ると、サブサハラ・アフリカの15歳以上の女性の労働参加率は60~65%と、中東・中央アジアを除く他の開発途上地域が45~55%であるのに対し際立って高く、伝統的に経済活動において女性が重要な役割を担っていることが分かります(図2:IMF, April 2024)。

  図2:15歳以上女性の労働参加率

 その一方で、サブサハラ・アフリカのジェンダー不平等指標は、他の開発途上地域に比べて抜きん出て悪い状況です(図3:IMF同上)。

 図3:女性の不平等指数(0~1)

 これは、同地域における女性が就業する(非正規)雇用の質が低いこと、金融アクセスや外的ショックに対するセーフティネットが低いことを示唆しているように思います。AUのジェンダー平等戦略では、女性の教育・就業等の機会創出の最大化や女性への暴力防止を含むジェンダー推進の法制化等を柱とし、現在その実施計画等を準備中である。元々労働参加率の高いサブサハラ・アフリカの女性のエンパワーメントが進めば、アフリカの産業振興や雇用創出の視点からも大きなチャンスになるのではないでしょうか。

 また、部門別就業割合で見ると、サブサハラ・アフリカは女性の農業分野の就業率が高く(図4:IMF同上)、農業分野の女性の雇用の質向上と能力強化が課題であることが分かります。

図4:各地域のセクター別男女就業率

 JICAでは、例えばタンザニアの「キリマンジャロ農業技術者訓練センター フェーズ2」では、稲作技術指導において農業に従事する男女双方の理解と参加を促し課題解決に取り組むジェンダー視点を取り入れました。同事業で専門家を務めた相川国際協力専門員は、その後SHEPアプローチを開発し、ジェンダー・家計研修を通じ農家の男女が営農パートナーとして協力し農作業・経営にあたるジェンダー主流化が同プログラムの重要なステップとして組み込まれています。民間セクター開発においても、昨年プロジェクト研究「ジェンダースマートビジネス振興に係る調査 」を実施し、ジェンダー視点をもってビジネス活動を行うジェンダースマートビジネスの振興推進を定義しており、今後のアフリカにおけるカイゼンやNINJAに積極的にこうした視点を積極的に取り入れていきたいと思います。

以上

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