【コロナ関連コラム】COVID-19によるヤンゴンの家計への大きな影響~ヤンゴン市南ダゴン区における調査からさらなる支援への一考察~

2020.11.02

JICA緒方貞子平和開発研究所には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるミャンマーの家計への影響について、村岡啓道上席研究員が以下のコラムを執筆しました。

著者:村岡啓道 上席研究員
JICA緒方貞子平和開発研究所

COVID-19は家計や雇用に大きな影響を与えている。感染者数が多くなくとも、ロックダウン、物流や経済悪化による需要の減少などにより影響を受けている。

ミャンマーでは、2020年4月に水かけ祭り時の移動制限、ヤンゴンで部分的なロックダウンや工場閉鎖が行われ、感染者数は限定的であったが、8月下旬より感染数が増加し、現時点での感染者数累計11,631人(WHO 2020年9月26日)となっている。

COVID-19のミャンマーへの影響について、4月末~5月上旬に行われたAsia Foundation調査(Myanmar Business Environment Index COVID-19 Impact on Businesses: A Survey June 2020)では、企業のうち29%が閉鎖、全体の16%の雇用が失われたとし、世界銀行(Myanmar Economic Monitor June 2020)は小売り、観光業および関連する輸送、食料サービス、建設、衣料製造などがCOVID-19の影響を受けやすく、影響は中期的に続くとし、また、都市部の家計はより、こうした影響を受けやすいセクターに従事しているとしている。

今次、ヤンゴン東部に位置する南ダゴン区(人口約32.6万人、6万世帯(General Administration Dpt. 2019))の1,200世帯(労働人口約2,400人)において、給水に係る調査の中でCOVID-19の影響にかかる情報収集を2020年7月後半に行い、家計レベルでの影響を見た。

南ダゴン区はヤンゴンが拡大するにあたり、ヤンゴン東部に1989年にヤンゴン市の新たな区(Township)として設立され、周辺には工業団地含め工場が設立されているエリアである。

今次、調査における労働者のセクター別分布は表1であり、卸・小売り業が約29%、製造業が約24%、建設業・輸送業がそれぞれ14%であった。失職したと回答する労働者は見られなかった一方、全体として仕事が減少した労働者職率は58%であり、卸・小売りが約58%、製造業が約57%、建設業・輸送業がそれぞれ71%であった。

また、ホテル・レストランが同58%など、幅広いセクターでCOVID-19による経済活動への影響を受けていることが明確となった。4月からの移動制限、ロックダウンなどの影響を大きく受けるとともに回復がいまだ十分となっていないと考えられる。なお、労働者の所得レベル別(年平均月収)における影響については表2の通りであり、所得レベルの大小にかかわらず影響を受けている。

家計所得においても、COVID-19後において50%程度以下に減少した家計は60%にも上っている(表3)。こちらも所得別での影響は月15万チャット以上の家計では大きな違いは見られない(表4)が、より所得の低い家計は同じ50%への減少としても生活に対する影響度は大きいと考えられる点、留意が必要であろう。

収入が減少している状況下において、十分な栄養が維持できるかとの質問に対し、約30%の家計が困難・いくらか困難とする一方で、食費の減少を選択する家計が約50%を占めた。まず食費で対応すると推測されるが、家賃・就学について、家賃支払いについては約80%(表5)、就学について70%強(表6)が、困難、いくらか困難と回答しており、就学の機会確保や安心した居住に寄与する支援を行うことは住民のニーズに対応するものと思われる。これらの課題へは適時適切に対応しないと長期的にネガティブな影響につながる可能性があり、重要であると考えられる。

COVID-19第2波の到来については、40%が「分からない」としつつ、40%は「来ない」と認識しているとともに(表7)、家計所得の回復は約70%が半年以内としていた。一方で、現在ミャンマーでは感染者が増加しており、一部ロックダウンも再度実施されているところ、対策の検討に当たってはCOVID-19からの回復にはより長い時間が必要である可能性も考慮する必要があると思われる。

まとめ

家計レベルで大きな影響を受けていることが調査でも判明した。

現在、ミャンマーにおいてCOVID-19が増えつつある状況である。2020年9月10日よりヤンゴンの28区は再度セミロックダウン(外出自粛措置)を行っている。これによりさらに経済的な影響が続くと考えられる。また、7月に再開した高等学校も閉鎖となり、小中高の再開は未定である。

COVID-19の影響として、ドロップアウトの増加や進学をあきらめる、住居から離れるといったことが発生する可能性があり、これは長期的にネガティブな影響を与える。

これまでの支援に加え、COVID-19の影響がより長引くことも想定しつつ、ミャンマー政府は必要な対策を検討・実施していくことが有用であろう。

その際には、より脆弱な家計への支援を広げることや、就学・居住含め、より広い範囲でデータを踏まえ、迅速かつ適切な支援につなげていくことが重要となりえる。データを収集するに当たっては、学校やコミュニティーなど家計とつながりが強いシステムの活用が一つの方法として考えうる。

※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方貞子平和開発研究所の見解を示すものではない。

【参考文献】
The Asia Foundation, DaNa Facility, UKAID, Myanmar Business Environment Index COVID19 Impact on Businesses: A Survey June 2020 (June 2020)

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