JICA緒方研究所

ニュース&コラム

【高原明生研究所長インタビュー】あらゆる研究の力で船を前に進めていく

2022年4月11日

2022年度を迎え、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の高原明生研究所長(東京大学教授)に、JICA緒方研究所企画課の大村萌菜美職員がインタビュー。専門である中国研究の視点から見つめた開発協力、そして研究所長としての取り組みや新年度の抱負について聞きました。

政治学者の視点から考える開発協力

世界を巡り、開発の仕事をしたいと考えた若かりし頃の高原研究所長

大村:まず、高原研究所長の研究分野と、それを研究することになった経緯について、改めて教えてください。

高原:私の主な研究分野は、現代中国の政治と外交です。ただ、最初から研究者になるつもりだったわけではありません。大学では政治学を勉強していたのですが、方向性を見失い、大学3年生のときに青い鳥を探してバックパッカーとしてユーラシア大陸を旅しました。それをきっかけに開発に携わる仕事をしたいと考え、国際公務員を志望して英国の開発問題研究所の修士課程に留学しました。実はそれまでの人生では勉強をおもしろいと思ったことはなかったのですが、そこで自分で論文を書くようになって初めてそのおもしろさに目覚めました。加えて、子どものころから『三国志』が大好きだった影響で中国にはもともと関心があったのですが、大学院での担任の教授がたまたま中国政治の専門家でした。さまざまな偶然が重なって、博士課程に進み、大学で教鞭をとるようになり、研究者になって、今日に至っています。

大村:中国の政治と外交の専門家として、今、一番関心があることは?

高原:大きな問題としては、中国がこれからどうなるのか。中国の政治体制や対外的な関係が今後どうなっていくのか、中国人にも分からないと思いますが、世界に大きな影響を及ぼす問題だと思います。もう少し具体的には、日中関係、中国と開発途上国の関係、そしてそこに日本がどのように関係していけるかに関心を寄せています。

大村:中国による途上国への支援あるいは投資は、今後どうなっていくと考えますか?

高原:中国の場合、ODAとビジネスの境目があまりはっきりしていません。例えば「一帯一路」という概念のもとでいろいろなプロジェクトが行われていますが、ほとんどがODAではなく、ビジネスとしての投資です。それはおそらく今後も増えていくだろうと思いますが、これまでのような速いペースではなくなるでしょう。それは中国に以前ほど経済的な余裕がないと思われるからです。しかし、中国国内のインフラのマーケットはすでに飽和状態なので、当然中国企業はマーケットを求めてこれからも海外に目を向けていくと思います。

大村:国内のインフラ需要が飽和しているのは日本も同じだと思います。自国の需要が飽和したら外へ、ということを繰り返すと、いつか終わりがあるのでは?

中国研究の視点から見た開発協力を語るJICA緒方研究所の高原明生研究所長

高原:今はまだ、世界各地の途上国に大きなインフラ需要があり、それに供給が追いついていないのが実情です。なぜ需給ギャップが大きいかというと、私の理解では、そもそもインフラプロジェクトは国造りにとって重要ですが、あまり儲かりません。さらに、途上国におけるインフラプロジェクトは、その不安定な社会経済条件から受注企業が多くの困難に直面する可能性が高いため、なかなか供給が増えないということではないかと思います。その中で、中国の企業は国有の金融機関と組んでリスクをとって多くのインフラプロジェクトをやってきました。経済が右肩上がりのころは、少々ローンが返ってこなくても耐えられたのかもしれませんが、これからは経済的な効率性を一層重視して、より慎重に事業を選択していくと思います。

大村:今後、日本と中国が途上国支援や投資で協力するとすれば、どのようなことが可能ですか?

高原:2018年の秋に安倍晋三首相(当時)が訪中した際には、52の協力覚書(Memorandum of Understanding: MOU)が取り交わされています。振り返ると、日中で何か一緒にできないかという話は以前からあり、2008年に胡錦濤主席が来日して福田康夫首相(いずれも当時)と会談した際も、対外援助の分野における協力のために協議していこうという合意がすでに結ばれています。しかし、具体的に何ができるかというとなかなか難しい。中国は日本の開発協力の経験には注目していますし、JICAにも強い関心があると思います。中国の援助関係者と話すと、「日本が何をやってきたか、もっと教えてほしい」と言われたりもします。ただ、その時々の政権の意向によって窓が開いたり閉じたりしてしまうこともあり、まだ模索の段階にあると言わざるを得ません。民間企業には、長い付き合いで築かれた信頼関係を基礎として、お互いの強みを生かす共同事業を構想してほしいですね。

応援団長として研究奨励と発信の旗を振る

大村:二国間援助機関で研究所を持つ組織は珍しいですが、JICAに研究所がある意義をどう考えますか?

高原:開発協力の実施機関であるJICAの研究所なので、現場で得られたデータは豊富にあるわけです。それに基づいて、JICAが狙いどおりの事業ができているか、もし狙いどおりでない部分があったとしたらそれはなぜなのか、どう改善していったらいいのか、そういった事業の検証と改善につながる研究をするのが、JICA緒方研究所の大きな役割だと思います。それに加えて、JICAの新しい事業につながるような革新的な研究もできればいいと思います。そうする上でも、JICA緒方研究所には海外との研究交流の窓口としての役割もあると考えています。

大村:現場が大事、ということも常々強調されていますね。

高原:JICAは“現場を見てなんぼ”ですよね。よく話題にすることなのですが、私がバックパッカーで旅をした1979年、ウズベキスタンから入ったアフガニスタンは内戦中で、私が日本に帰国してまもなくソ連の本格的な侵攻が始まりました。NHKの「日曜討論」を見ていたら、ある著名な学者が「もうアフガニスタンはソ連のものになったと考えたほうがいい。ベトナムと違ってジャングルがないから、ゲリラは絶対に勝てない」と発言したのです。私は「〇〇先生、そんなことはないですよ!」と心の中で叫びました。なぜなら、私が見たアフガニスタンでは、政府軍よりゲリラのほうが優勢だったからです。ジャングルはなくても、岩山にも隠れるところはいっぱいある。現場を知るというのは、本当に大事だと思います。コロナ禍で私自身もまだ現場に行けていないのは非常に残念ですが、研究員のみなさんも、ぜひ事業の現場に頻繁に行って現場感覚を養ってもらえればと思います。危険なところはやめてほしいですが。

大村:研究所長として取り組んでいることを教えてください。

高原:研究員のみなさんの研究を奨励すること、どうすれば研究所のメンバーがよりよく研究できるか考えるのが所長の一つの仕事です。応援団の団長ですね。モットーは、“Learn well, think hard, talk a lot, and enjoy what you do.”です。研究そのもののほかに、研究成果をどうやってより多くの人に知ってもらうかも大事です。JICAを超えて、日本社会あるいは国際社会におけるJICA緒方研究所の知名度をどうやって上げていき、世の中に貢献していくのか。そのためには、適切なテーマを選び、がんがん研究してどしどし発信していくしかありません。研究を支えるアドミニストレーションの貢献も大変重要です。どうすればよりよい研究とその発信ができるか、みんなで考えましょうと旗を振ること、それが私の役割だと思います。

さまざまな質問を投げかけたJICA緒方研究所企画課の大村萌菜美職員

大村:新年度に注力していく活動について教えてください。

高原:今後も、オンラインを活用して内外に向けた発信と交流をしていきたいですね。まじめにおとなしく研究するのもいいのですが、もう少し“暴れて”存在感を示し、自己顕現することを考えてもいいのではないかと思っています。JICA緒方研究所の存在をもっと世の中に知ってもらえるように、果敢に発信していく。これは、引き続き取り組んでいくべき課題だと思っています。また、地域研究はJICAにとって非常に重要ですので、力を入れていきたいと考えています。

大村:改めて、地域研究のおもしろさや重要性とは?

高原:自国と全く違う国や社会には、驚かされることがたくさんありますよね。開発協力を現地で実施する上でも、違う社会に飛び込み、現地の人々に受け入れられて仕事を成し遂げるには、自分のやり方をそのまま持ち込んでもうまくいかないでしょう。その土地の文化、風俗はもちろんのこと、歴史、政治、経済、社会の在り方をよく理解しないと、効果的な事業の設計とその遂行はできないでしょう。したがって、地域研究はわれわれにとって絶対必要だと思います。

大村:特に注目している研究プロジェクトも教えてください。

高原:JICA緒方研究所が行っている全ての研究が重要だと思いますが、今年度は「政治・ガバナンス領域」という新しい研究領域が誕生し、新年度には、インド太平洋地域の小国と中国との関係に注目して、関係形成の要因を分析する国際政治経済研究が本格的に始まります。また、現在準備中の「普遍的価値」についての研究プロジェクトも、新年度に注目すべき研究プロジェクトになると思います。もちろん、JICA緒方研究所の他の研究領域が行っている研究プロジェクトも間違いなく全て重要です。2022年3月に創刊したJICA緒方研究所レポート『今日の人間の安全保障』の作成は、JICA緒方研究所の発展にとって画期的な事業となりました。あらゆる分野の研究が「人間の安全保障」という帆柱に張られる帆となって、JICA緒方研究所という船を前に進めていく、そんなイメージを持っています。

大村:ありがとうございました。

関連動画

JICA Chair Special Lecture ‘Japan after World War II and Japan-China Relations in the Modern Era’

ページの先頭へ