JICA緒方研究所

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【JICA-RIフォーカス 第12号】古川 光明 上席研究員に聞く

2011年4月8日

財政支援の意義と限界を探る——JICA研究所 古川 光明 上席研究員にインタビュー

準備フェーズを経て、2011年度から本格的に開始される予定の「開発援助レジームにおける財政支援の意義と限界」(仮称)研究プロジェクトについて、同代表を務めるJICA研究所の古川光明上席研究員に、研究の背景や目的、期待される成果などについて話を聞きました。


研究プロジェクトの概要

財政支援とは何か、またそれが注目されるようになった背景とは?


財政支援とは、開発途上国とドナーが合意した戦略に基づき、途上国政府の予算に直接資金を提供するという援助アプローチの一つで、農業や教育、運輸など特定のセクターを対象とした「セクター財政支援」とセクターを限定しない「一般財政支援」とに大別されています。この財政支援というアプローチは、特定のプロジェクトにはリンクせず、各ドナーの開発資金を一括して途上国の政府予算として管理するため、オーナーシップや行政能力、予測性の向上、取引費用の削減につながるなど、援助効果を向上させる新しい援助モダリティーとして、近年、英国や北欧諸国、世界銀行、EU(欧州連合)などが力を入れています。

そもそも財政支援というアプローチが出てきた背景には、プロジェクト型支援への疑問というものがあります。冷戦の終結や先進国の援助疲れ、構造調整の反省などから、1990年代に入ると国際社会の中で援助の有効性をめぐる議論が盛んに行われるようになりました。その中でもアフリカに対する援助については、個別のプロジェクトで効果が得られたとしても、その持続性あるいは国や開発課題全体への貢献は限定的だということに加え、さまざまなドナーがそれぞれの方法で援助を実施することで、援助を受ける側の途上国政府に大きな行政負担を強いているといった問題が指摘されてきました。 

こうした援助効果を上げるアプローチ面での議論に加え、グローバリゼーションの進展や開発課題の多様化などを受け、援助の戦略面についても活発に議論されてきました。2000年9月に国連で採択されたミレニアム開発目標(MDGs)はその一つの成果であり、現在、国際社会はこの目標を中心に動いていると言っても過言ではありません。

このMDGsを達成するために途上国とドナーが協力しながら作成しているのが貧困削減戦略文書(PRSP)であり、これを具体化するための有効なツールとして位置付けられているのが一般財政支援です。05年3月にパリで開かれたOECD(経済協力開発機構)DAC(開発援助委員会)の援助効果向上ハイレベルフォーラムで採択された「援助効果に関するパリ宣言」には、「援助を実施する際には被援助国の財政制度や調達制度を利用すること」という内容が盛り込まれ、間接的ではあるのですが、PRSPを実施していく際にはプロジェクト型支援ではなく、一般財政支援型の援助へ移行することがより強く求められるようになりました。大まかに言えば、国際社会が一般財政支援という"共通のアプローチ"でMDGsという"共通の目標"に向かって調和化を図り、取り組んでいこうという大きな流れになっているのです。

これまで日本は、貧困削減などを目指した技術協力でも、インフラの整備を目的とした資金協力でも、主にプロジェクト型の協力を行ってきました。その根底にあるのは、プロジェクト終了後は途上国側が予算を確保し、援助依存に陥ることなく開発効果を継続・拡大させていくための"自助努力を引き出す"という、日本の援助理念です。確かに財政が厳しい途上国では、技術協力プロジェクトの効果を面的に拡大させていくための予算や、インフラを維持管理する予算が不足しているという側面があることも事実です。しかし、日本はこれまでアジアを中心とした国々で大きな成果を挙げてきたという経験もあり、多様な背景を持つ途上国に対して一律に財政支援を優先して適用するという英国や北欧諸国との間には、意見の隔たりがあるのです。

さらに、「被援助国の財政制度や調達制度を利用する」ことが求められている財政支援では、日本の財政制度や会計監査などに沿った手続きが担保できないケースも想定されます。また、相手国政府のガバナンスや人材の能力が不足しているために、援助した資金が適正に執行・管理されないのではないかといった懸念もあります。これは、国民への説明責任が求められるODAにとっては大きな問題です。しかし、日本もドナー協調や援助の調和化という財政支援が持つ意義を踏まえ、多様な援助形態を組み合わせていくことで援助効果を高めていくという考えに立ち、01年からタンザニアで試験的に財政支援に参加するなどの取り組みを開始しています。

こうした財政支援をめぐる潮流の中で開始された本研究の目的とは


財政支援をめぐる議論の中で問題なのは、財政支援がMGDsの達成など、本当に途上国の貧困削減に寄与しているのかを検証した研究が十分に行われていないことです。どちらかといえば、過去のプロジェクト型援助の効果が必ずしも上がっていないという反省から消去法的に選択されてきたきらいがあり、重要なのは財政支援が待つ可能性と問題点を丁寧に検討し、日本が持つプロジェクト型支援の有効性と併せて、援助効果の最大化を図っていくための"ベストミックス"を検討していくことだと考えています。 


そこで本研究プロジェクトでは、財政支援の効果と課題を明らかにするために、財政支援をマクロレベルで分析するとともに、ケーススタディーを進めていくことになっています。まずマクロレベルでは、一般財政支援が途上国政府の予算構成に与える影響について分析していきます。特に、貧困削減レジームの中で重要視されている保健支出を取り上げようと考えているのですが、その理由としては、財政支援は貧困削減を目標とするPRSPを具現化すべく投入されているため、社会セクターを重点分野とする場合が多く、特に保健分野はその特徴を捉えやすいと想定されるためです。また、一般財政支援が導入されている国とされていない国とを比較し、一般財政支援と貧困削減との相関関係を把握していくために、途上国の保健支出割合への影響や成果との関係について実証分析を進め、その傾向を明らかにしていきたいと考えています。 

さらに、タンザニアをケーススタディーとして取り上げ、DACの一般財政支援分析枠組みを用いて、財政支援を効果的にするために重要となる地方行政レベルでの開発計画の策定や予算編成・配分の状況、実施体制などの実態を分析します。対象国であるタンザニアは、国際社会にとって財政支援の先駆的かつ成功事例とされています。また日本にとっても、財政支援の枠組みに参加した初めての国です。

こうした研究プロジェクトを進めていくにあたり、昨年9月に約1カ月間、現地で準備調査を実施しました。この準備調査では、タンザニアで一般財政支援が効果的に活用できる制度・体制になっているかといった観点から、基本資料の収集に加え、ドナーからの援助受入を調整する財務経済計画省の対外財政局をはじめ、保健省、公務員庁、中央銀行といった中央政府機関、モロゴロ県やムヘザ県など9つの地方自治体県のほか、英国国際開発省(DFID)や世界銀行などのドナー、そしてJICA関係者などにヒアリングを行いました。 

これまでの成果と今後の計画

準備調査でどのようなことが見えてきたのでしょう


準備調査を行った結果、サービスデリバリーを担う地方自治体の多くが、一般財政支援を効果的に活用するために重要な「計画・予算策定」「実施」「モニタリング」「評価」といったそれぞれのプロセスで、課題を抱えていることが分かってきました。

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           タンザニア現地準備調査でキサラウエ州の地方行政官から
           聞き取りをする古川上席研究員(右から2人目)

すでに財政支援が政府予算の一部となっているタンザニアでは、最大のドナーであるDFIDと世界銀行から今年度分の拠出が滞り、それが足かせとなっているなど、予想以上にドナー側の政策変更や資金送金のタイミングが、開発計画と予算の策定、そして実施プロセスに大きな影響を与えていたのです。また、ドナーからの資金の延滞は、雨季と乾季など、現地の気候風土を考慮した開発事業の進捗に影響を与え、大幅な工期の遅れに直結してしまいます。

こうしたドナー側の要因だけに限らず、タンザニア政府側にも多くの課題があることが確認できました。その最も大きい問題がキャパシティーの不足です。タンザニアでは、着実な計画や予算の策定、実施を円滑に進めていくために必要な能力はもちろん、モニタリングや評価といったプロセスでも、データ収集能力や分析能力を高めていかなければならないのが現状です。また、必要な資機材を調達する際にも、現地業者の数が限られているなどの問題もあるようです。

このように、一般財政支援というメカニズムのみでは、開発に関する「計画・予算策定」「実施」「モニタリング」「評価」といった一連のサイクルを効果的に機能させることは難しく、こうした問題を解決していく上でキャパシティ・ディベロップメント(CD)を柱としたプロジェクト型の支援が重要になってくると考えています。

今後の研究計画についてお聞かせください


今後は準備フェーズで明らかとなった各プロセスの課題や、一般財政支援と開発指標の改善との関係性などについて、さらなるデータ収集や分析を重ね検証していく予定です。また、一般財政支援の有効性を中央政府などの上流部から、いかに効率よく下流部にあたる地方行政にまでつなげていくかといった課題を抱えているのはタンザニアに限ったことではなく、研究成果を広く一般化していくためには、他国との比較も視野に入れていく必要性を感じています。

日本はこれまでの経験を踏まえ、05年のパリ・ハイレベルフォーラムで「援助効果向上に関する日本の行動計画」を発表し、相手国のオーナーシップとパートナーシップを基本に、援助モダリティーの多様性を尊重しつつ、包括的アプローチにより、援助効果の向上を目指していく姿勢を示しています。

本研究プロジェクトは、ポスト・パリ宣言に向けた援助効果向上に関する国際社会の議論に貢献するだけでなく、日本のODAのあり方や戦略にとっても重要です。さらに、援助効果向上を目指し、財政支援を含めさまざまなアプローチを組み合わせて検討していく際には、技術協力、無償資金協力、有償資金協力と、3スキームを一元的に実施しているJICAの優位性が発揮できるものと考えています。

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