No.2 ネパールにおける社会運動・反乱の発生の要因に関する考察

  • #フィールドレポート

ネパールは過去、2 回の大規模な反乱及び 2 回の人民運動を通じて、家産制国家から民主的な体制へと、大きな政治体制の変革を経験した。

本論では、こうしたネパールの大規模な運動・反乱の発生と成功の要因について、認識要因、資源要因、環境要因の 3 つの視点から考察した。また、運動・反乱の歴史的な展開をたどることにより、政治環境や人々の「認識」がいかに変化し、その後の運動や反乱にどのような影響を与えたかについても検討した。その結果、以下のような仮説を導いた。①ネパールにおいては家産制国家から民主的な体制への移行の中で、一般市民の政治社会体制への不満と変革への意識が徐々に醸成されたことが反乱・運動発生の背景にある。②ただし、2 回の反乱については、政治エリートによる「たたかいの政治」の性格を有し、資源要因と環境要因によって反乱の発生と成功の大部分を説明できる。③特に環境要因の構造的な側面としては、(1)政権側の政治的な分裂と抑圧能力の低下、(2)大国に挟まれた小国としての地政学的な特徴の 2 点が指摘できる。ただし、短期的な政治的機会の変化は、主に偶発的要因によって引き起こされた。④逆に、2 回の人民運動は、都市部中産階級の運動への積極的な参加によって特徴づけられており、その都市部一般大衆による集合行動は、環境要因よりも認識要因によって説明できる。⑤ネパールにおける運動・反乱の歴史の中で、武力闘争から徐々に武力を用いない抗議活動に変化している状況がみられる。その背景には、一般市民と反体制政治家の双方の認識の変化があるものと推測される。

キーワード: 社会運動、反乱、集合行動論、合理的行為者理論、資源動員、政治的機会構造

著者
武 徹
発行年月
2014年4月
関連地域
  • #アジア
研究領域
開発協力戦略