Protecting Our Human World Order: A Human Security Compass for a New Sustainability Decade

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、人々の命と生計を守る緊急支援の提供から個人の自由の制限、国内および国際社会の結束に至るまで、人間生活のほぼ全ての側面に影響を与えました。パンデミックを抑え込むための対策も、医療体制、経済、そして政治に至るまで、人間社会のあらゆる面に対して、重大かつ長期にわたる影響を与えるでしょう。

このようなグローバルな危機的状況の下、今後パンデミック対策を構築する上で、さらにポストコロナの世界を構想していく上でも、「人間の安全保障」の概念を中心に据えていくことが重要です。この認識のもと、本研究では、これまでどちらかというと環境問題に焦点が当たりがちだった「持続可能性」という概念を、「人間の安全保障」概念に対する正確な理解に基づき再定義する必要があるとしています。

このため本ペーパーでは、一連の『人間開発報告書』で示されてきた「人間の安全保障」と「持続可能性」という二つの概念がどのように重複し相補しあってきたかという歴史的経緯を振り返っています。分析を通じて、「持続可能性」という概念は、国連の「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」が示すように、包括的な国際開発枠組み形成につながった一方で、「外的ショックやダウンサイドリスク(脅威によって状況が悪化するリスク)、危機管理に対する懸念を考慮するにおいては必ずしも十分ではなかった」ことが明らかにされました。

これに基づき、本ペーパーでは、人間の安全保障のアプローチは、「緊急対応、復旧、防災、準備といった一連の危機管理のサイクル全体に着目した(持続可能性を理解するための)より良い枠組みを提供できる」とし、「持続可能性概念を再定義しようとするいかなる取り組みも、危機管理サイクル全体を通じて外的ショックやダウンサイドリスクからの保護やこれらに対するレジリエンス(強靭性)、人間の尊厳の維持に着目する人間の安全保障のアプローチを用いない限り、うまくいかないだろう」と結論付けています。

全体論に続いて、本ペーパーでは、感染症、災害、気候変動、紛争、強制移動、技術革新といった個別の外的ショックやダウンサイドリスクについて考察し、これら脅威への対応において人間の安全保障の考え方がどのように役立つかを説明しています。最後に、人間の安全保障概念のさらなる普及に向けて、科学界や開発途上国において人間の安全保障を推進する他のアクターの参画を得ることの重要性も強調しています。

本バックグラウンドペーパーは、2020年12月に発刊された『人間開発報告書2020』のために、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究者らによって執筆されました。花谷厚研究員、牧本小枝主席研究員、武藤亜子上席研究員、JICA企画部国際援助協調企画室の室谷龍太郎室長と久保倉健企画役、国際連合開発計画(UNDP)人間開発報告室のジェイコブ・アッサ氏の協力のもと、ゴメズ・オスカル客員研究員が筆頭著者を務めました(いずれも肩書は当時)。

著者
ゴメズ・オスカル
発行年月
2021年3月
言語
英語
ページ
36ページ
開発課題
  • #人間の安全保障
研究領域
平和構築と人道支援