JICA緒方研究所

出版物

ワーキングペーパー

No.94 Embracing Human Security: New Directions of Japan's ODA for the 21st Century

今日の世界では、内戦、テロ、自然災害、感染症、経済不況、気候変動、飢饉など、個人やコミュニティが様々な脅威にさらされている。これらの中には従来から存在した問題と近年新たに生じてきた問題の双方が含まれるが、いずれも全人類が直面する脅威であり、人間の安全保障の概念およびアプローチはこうした脅威から生じる差し迫ったニーズと道徳的責務への対応を目的として発展してきた。人間の安全保障が求めるのは、3つの根源的自由——恐怖からの自由、欠乏からの自由、尊厳をもって生きる自由——を上からの保護と下からのエンパワメントを組み合わせて保障することである。1990年代半ばに同概念が登場して以降、その重要性は次第に認識されつつある一方で、それを現場でどのように実践するかについてはいまだ議論が多く、残された課題となっている。日本は人間の安全保障の推進に政府が全面的なコミットをしてきた唯一の国であり、2003年以来ODAがその主な手段として掲げられてきたが、こうした事実にも拘らず、人間の安全保障の実践をめぐるこれまでの議論において、日本のODAにはほとんど注意が向けられてこなかった。そこで本稿では、今後の実践で参考としうる知見の抽出を目的として、人間の安全保障に関わる日本のODA事業の歴史を振り返り、同概念を実践化していくための方策について考察を行った。初めに、政策レベルにおける日本のODAと人間の安全保障との関わりを概観し、その上で、自然災害、気候変動、感染症、暴力的紛争の4つを人間の安全保障を脅かす象徴的な課題として取り上げ、日本のODAにおける各課題への実践的取り組み、とりわけJICAによる二国間ベースの事業に主な焦点を当てて、その展開を辿った。同分析から、当該4課題に対する日本のODAの実践は、概ね人間の安全保障の概念に沿う方向へ変遷・発展してきていることが確認された。一方で、こうした傾向を確固たるものとし、人間の安全保障の実践をより一層推進していくためには、いまだ残された課題も多い。今後、人間の安全保障のさらなる実践化に向けては、予防を重視すること、切れ目なく(シームレス)包括的な支援を実現すること、そして最も脆弱な立場にある人々をケアするという3つの方向性を推進していくことが特に重要である。

ページの先頭へ