JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.95 Human Security in Cambodia: Far From Over

人間の安全保障の概念は、国連開発計画(UNDP)による1994年人間開発報告書で提示された「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」という基本原則に基づいている。同概念が論じるのは、国家中心の安全保障から個々の人間に焦点を当てる安全保障への視点の転換である。人間の安全保障とは、個人の保護とエンパワメントである。それは、国家自体が時としてその市民にとっての脅威となることを認識しつつ、人間存在に対する脅威に立ち向かいそれらの脅威を克服する方策を見つけようとするものである。
本稿の目的は、人間の安全保障という国際的に新たに形成された概念について、カンボジアの人々がどのように認識・解釈し、人間の安全保障への脅威を軽減するために何が必要と考えているのかを理解することにある。本研究では、政府、研究者、市民社会、都市および地方のコミュニティ、メディア、学生、仏教僧を含む多様なセクターの人々に対し、インタビューおよびフォーカスグループ・ディスカッションを行った。そこから明らかとなったのは、カンボジアにおける安全保障についての言説を人間の安全保障の概念によって置き換えることにより、人権および人間開発について理解し対応していくための新たな議論の道が開けるということである。人間の安全保障を広くとらえ、「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」「尊厳をもって生きる自由」という3つの自由を相互矛盾も含め互いに関連し合うものと認識することによって、カンボジアに存在する安全の問題が相互に結び付き多次元的であることが明らかとなる。現在、安全保障の対象をめぐる議論の多くは、保護かエンパワメントか、という二者択一的な論争に集中しすぎる傾向にある。しかし、本研究で得られた人々の声から提起されるのは、安全は政府とコミュニティの間におけるコミュニケーションと対話から生まれるものであり、「協調的リーダーシップ」が重要だということである。

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