JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.102 Human Security in Practice in Thailand

本稿は、タイにおける人間の安全保障の実践について、概念と実務における運用の二つの観点から検証するものである。特に、なぜ、そしてどのように、タイの政策立案者が人間の安全保障の概念を同国の政治機構に導入し受容したか、また、彼らが人間の安全保障の問題に関してその価値と課題をどのように認識しているか、という点に焦点を当てる。文献レビューおよび政府・非政府・学術界の各セクター計9人の主要関係者に対するインタビューを通して、タイという国の人間の安全保障に対する姿勢には二面性があることが明らかとなる。タイは、海外においては人間の安全保障に関する言説を推進し、国内においては人間の安全保障省を設立することによって、人間の安全保障の問題を主流化しているように見えるが、こうしたプロセスには裏の面が存在する。人間の安全保障を脆弱な人々のための社会保障としてのみ捉える還元主義的な見方とは別に、「人間の安全保障」という概念は常に「国家」(政治的実体としての、或いは国民の共同体としての)の安全保障に対して二次的なものと位置付けられている。その結果、タイ型の人間の安全保障では、同概念が元々有していた本質的内容は曖昧化し、依然として国家安全保障の暗い影の中に埋もれている。最後に本稿は、タイにおける人間の安全保障の理想と実践の間にある乖離は、同概念が政策関係者の目から見て曖昧であること、政策立案者と政策実施者の間のギャップの存在、そして同概念の脱・政治化に起因することを明らかにする。

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