JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.99 Perception on Human Security: Indonesian View

人間の安全保障の概念は、1994年の人間開発報告書で初めて提示されて以来20年、政策立案者と市民社会の双方から一定の関心を集めてきた。一国の内部で或いは複数ヶ国にまたがって個人の安全に重大な脅威を及ぼすようなある種の問題に対し、人間の安全保障の概念がその重要性を高める有用なツールであると歓迎する声がある一方で、同概念はあまりに広範で総花的であり、ある問題を安全保障上の課題として取り上げるためにはその適用についてさらなる明確化が必要だとする意見もある。このため、人間の安全保障に対してこれまでにどのような理解がなされてきたかを確認し、同概念が新たな或いは非伝統的な安全保障の問題に対処する上でどの程度適切で有益だと考えられているかを検証することは、時宜を得た試みである。
 本稿の目的は、インドネシアの様々なステークホルダーが有する人間の安全保障についての認識を明らかにすることにある。具体的には、人間の安全保障の三つの基本的要素——すなわち欠乏からの自由、恐怖からの自由、尊厳をもって生きる自由——との関連における同概念の定義、人間の安全保障上の優先課題、保護とエンパワメント、国境を越えるという同概念の性質、といった側面に係る認識を分析する。また、人間の安全保障に関する課題を扱う際の、国家主権と軍事的手段の関与についても検証する。本研究は、政策立案者(政府高官)、元軍人、研究者、NGO活動家を含む様々なステークホルダーに対する詳細なインタビューに基づいている。
 本稿は3つのセクションから構成される。最初のセクションでは、人間の安全保障の概念、研究手法、そしてインドネシア戦略国際問題研究所(CSIS)が同国社会における人間の安全保障の認識について実施した調査結果の一部について述べる。第2セクションでは、人間の安全保障に関連する要素を含む複数の法律・法令を広く分析する。興味深いことに、多くの法令が欠乏からの自由、恐怖からの自由、尊厳をもって生きる自由を保障するために制定されている一方で、「人間の安全保障」という言葉自体を実際に含んでいるものは皆無である。これは、人間の安全保障の概念が登場した背景にある意図や同概念が向かっている方向性について、政策立案者の間にはある種の認識が存在し、同概念を受け入れ政策ツールとして使うことに一定の躊躇があることを反映しているものと考えられる。第3セクションでは、こうした人間の安全保障に関する認識の違いについて詳述する。これらの分析により、インドネシアで人間の安全保障の概念がどのように認識されているかについて、より詳細な知見が得られるものと期待される。

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