JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.122 Does the Concept of Human Security Generate Additional Value? An Analysis of Japanese Stakeholder Perceptions

人間の安全保障概念をめぐる議論がなされて20年以上たつ。しかし、人間の安全保障概念の導入によって、人間の厚生や安全をとらえる枠組み、あるいはそれらを向上させるための手法において、何らかの価値を生み出したのかについては必ずしも明らかではない。この問題を解明するうえでの初期的な試みとして、本研究は、対外政策として人間の安全保障の概念を唱道してきた日本を事例に、分析を行った。研究手法としては、日本の政府、学界、市民社会、民間において人間の安全保障に関連した分野で活動する中心的なステークホルダーを選定し聴き取り調査を行うことで、その人間の安全保障に関する認識を明らかにした。
インタビュイー(聴き取り対象者)は、少なくとも何らかの形で人間の安全保障概念の有用性を見出しただけでなく、主として、次の点において同概念がもたらしうる重要な可能性を指摘した。すなわち、①人間の安全保障は支援の現場と人々に直結したニーズに目を向けさせる概念として意味を持ちうる。②今日では、人々の安全が危機にさらされるが、そこには複合的で多様な要因が絡んでいる状況が生じている。そこで、人間の安全保障は、包括的なアプローチを動員することで、従来にはなかったような有効な対応をとることができる。③「尊厳をもって生きる自由」という側面を今後は視野に入れることにより、人々の安全にかかわる支援プロジェクトにおいて、より重要な影響をもたらすことができる。④そして、インタビュイーの多くが、人間の安全保障概念が、日本国内の問題を理解するうえでも、重要であると強調した。
最後に、本研究では日本のステークホルダー認識の分析をもとに、今後の人間の安全保障研究(うち政策志向の研究)に対する示唆を提示した。研究の問として、例えば次があげられるだろう。①部門横断的・省庁横断的なアプローチが、人間の安全保障支援プロジェクトにどのような効果をもたらすのか。②国際支援の受け入れに対して当該国政府が慎重である場合に、どのような説得が可能なのか。③関連して、国家主権が問題となり当該国政府が支援受け入れに慎重な時に、トランスナショナルな主体はどのように人間の安全保障の改善に関与できるのか。④そして、人間の安全保障の政策や研究において、「尊厳をもって生きる自由」をどのように展開していくのか。

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