No.129 Empowerment through Enhancing Agency: Bridging Practice and Theory through Crystallizing Wisdom of a Third-Country Expert

  • #ワーキングペーパー

1980年代以降の開発援助政策と実践においては、「人々の主体性(Agency)を尊重し、その働きを支援する」という「当事者主体」の試みが広くなされてきた。しかし主体性醸成(Agency Development)のメカニズムや過程の詳細は、未だにブラックボックスの中にある。本稿では、事例と理論をつなぎ合わせることで、主体性醸成がどのような構造やメカニズムで行われているのかにいて、第三国専門家が主導するニカラグアでの事業を事例研究として明らかにしていく。
まず、エンパワメントと主体性の醸成をめぐる主要議論を俯瞰し、両者の議論の接合点および相違点を洗い出した。次に、理論上の主体性醸成のプロセスモデルを抽出作成するとともに、そのブラックボックスを明らかにし、研究における課題を整理した。そして主体性の醸成のメカニズムを、先行研究レビューのみではなく、事例を通じて理解するためには、1)「受益者」の主体性醸成のメカニズムそのものだけでなく、2)文脈的な要因および、3)「支援者」となる主体性醸成に関わる人々のプロセスと変容も研究の射程に組み込む必要があることを指摘した。続いて、ニカラグアにおけるMMOといわれる主体性醸成研修の展開(開発・実施・普及)課程を、関連文書および現地調査よりその発案・開発・実施・普及の段階ごとにプロセスを描いた。
一事例研究という限られた研究対象ではあるが、本研究を通じて、以下の3点が明らかになった。まず主体性醸成には、肯定的に影響する文脈的な要因があり、それが全ての過程に影響していることである。具体的には、発案者の経験や人柄など属人的要素、さらには、地域の経済状況や文化社会的な特性(社会主義およびボランティア活動の定着度合い、宗教的価値観、外部支援資金の有無など)が考えられる。次に、「支援する側(研修作成者およびコミュニティレベルのリーダー)」の主体性醸成のプロセスがあり、その現象は自己決定理論および経営学や意識化などのソーシャル・コミュニケーションにかかる説明枠組みより分析できることである。最後に「支援される側」である「受益者」の主体性醸成プロセスは、3段階[①自らの内なる力の醸成(Power within)、②他者と働くことによる主体性の醸成(Power with)、③環境に働きかけ権力構造を変える力の発見・肯定・強化(Power to/Power over)]でなされていることである。

著者
佐藤 峰
発行年月
2016年6月
関連地域
  • #中南米
開発課題
  • #市民参加
研究領域
開発協力戦略
研究プロジェクト