No.176 Capacity Development in Environmental Management Administration through Raising Public Awareness: A Case Study in Algeria

  • #ワーキングペーパー

アルジェリアでは、1990年代の内戦で環境インフラや環境管理体制の大規模な破壊が発生し、旧式工業設備の無秩序な稼働のもと公害・環境汚染問題が多発していた。2000年以降の国民的和解と復興プロセスのもとで、アルジェリア国土整備環境省(MATE)の設立、「国家環境戦略」や「環境と持続可能な開発のための国家計画」の策定といった国家環境行政面での整備や法制度の確立が、UNDPや世界銀行といったドナーの支援によって進んだ。それは組織制度を近代的な形に整えたが、現実に発生している公害・環境汚染問題への調査対策を実行するまでには到らなかった。すなわち、環境管理体制の実効性の確保、機能化のための包括的な対処能力向上(キャパシティ・ディベロップメント;CD)が必要であった。

このような背景のもとJICAは、2004年以降、中央のモニタリング機関(ONEDD)及び地方(Wilaya)政府環境局(DEW)をカウンターパートとして、環境管理能力向上を目的とした技術協力(CD支援)を行った。個別専門家派遣によるこの技術協力の過程で首都アルジェの河川において産業排水に由来する高濃度の水銀汚染が発見された。MATEとJICAは共同で、この水銀汚染の発見について水俣病の公害経験と共に公開セミナーで公表し、マスメディアが全国報道をした結果、公害対策への世論の急速な高まりと環境に関する公衆意識の深まりを引き起こした(2005年)。これにより、それまでのともすれば形だけにとどめられていた環境管理行政が、行政組織として具体的な対策実施に対する強いモチベーションを有するようになった。その結果、水銀汚染堆積物浚渫・封じ込めの対策工事がなされ、加えて、水銀汚染のみならず広く環境保全や産業公害の予防に関する関心を形成し、様々な環境管理法制度整備と施策が展開されるようになった(2006-2010)。

以上のアルジェリアにおける2000年以降の環境管理行政の発展史は、大局的には、(1)環境管理の組織制度形成期(2000-2004)、(2)世論形成と環境管理の発動期(2005)、(3)環境管理施策の展開期(2006-2010)の3段階に区分することができる。このうち環境管理行政にとっての決定的転換である主体(オーナーシップ)形成は、公衆意識の深化に裏付けられた(2)の段階に認められる。世論の高まりは環境管理行政を後押しし、また政府内での予算配分や人員配置、制度面での改善を促進する要因となった。

アルジェリア事例は、単なる組織制度の構築だけではなく、個別具体的な環境問題の情報公開を通じた環境に係る公衆意識の向上、世論の喚起と社会的圧力が環境管理行政の実効化のトリガーとなりうることを示し、情報公開を組織制度構築や技術協力と適切に同期させることがCD支援アプローチとして有効である、という示唆を与える。情報公開原則(これはODAの原則でもある)にもとづく環境情報の社会的共有は、環境管理行政の機能化、実効化のための要因となりうることを示している。

キーワード: キャパシティ・ディベロップメント,環境管理行政,環境汚染,情報公開,公衆意識

著者
吉田 充夫
発行年月
2018年8月
関連地域
  • #アフリカ
開発課題
  • #環境管理
研究領域
開発協力戦略
研究プロジェクト