JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.54 Measurements and Determinants of Multifaceted Poverty:Absolute, Relative, and Subjective Poverty in Indonesia

Post-MDGsの開発議論を睨んで、世界では今、「貧困」の概念議論や、満足度、幸福度等を用いた政策分析•採用に関する議論がたけなわである。「貧困」の概念や捉え方は多様であり、またそれらは固定化されたものではなく時とともに変化するものでもある。異なる社会経済規範を有する諸国においてそれらは異なり、同じ社会や国家に於いても経済や社会の発展に伴い変容する。開発の初期段階において諸国は絶対的貧困と立ち向かうが、1人当たりの所得が高まってくるにつれ、人々は相対的貧困(格差)や主観的貧困(満足度や幸福度の概念を含む)をより考える様になると思われる。本論文は、絶対的貧困(カロリー摂取、消費額基準)と相対的貧困(所得格差)、およびこれら客観的貧困と主観的貧困を計る諸指標とをそれぞれ対比させつつ構築提示し、それら諸指標の間の関係、各指標で計られた「貧困」の決定要因を探っている。インドネシアをケース国としてその2005年の全国社会経済調査(Susenas)を用いて分析した結果、1人当たりの消費額を用いた貧困率(14.5%)と主観的貧困率(42%)の間には28 パーセント近い隔たりがあることがわかった。それは重要な一面ではあるが、客観的•物質的に貧困でないことは、主観的に貧困でない事の十分条件でもなく、また必要条件でもないことも分析結果は示している。
絶対的貧困指標から主観的指標に至る5種類の貧困指標を構築し、インドネシアの各地域の各指標によるランク付けを行うと、それらランキングの間には有為な相関がないことがわかる。貧困の中身•構成は各地域特有なものが多く、貧困削減政策が各地域に合った形でテイラー•メイドされている必要が浮かび上がる。LogitおよびOrdered-Logitモデル推計から得られた結果は、諸指標で計った「貧困」の決定要因としては、教育達成度、家計サイズ(人数)、不動産の所有度(農地や家屋を含む)、外国への出稼ぎ労働者の有無、一時帰休や失職などの経済的ショックの有無、病気等の健康ショックの有無、公共サービスや公共プロジェクトの有無、道路インフラ等へのアクセス等が重要であることを示している。
教育の効果については特に重要な発見がある。教育無しから初等教育完結、初等教育から中等教育完結へと教育達成度が1段階向上する度に、5つの貧困指標のどれにおいても「貧困でない」とされる確立は11パーセントずつ向上するという結果が得られた。更に重要なことが、相対的貧困分析が示す結果から見いだされている。物理的資産や耐久消費財の消費レベルが居住する社会の平均より低いことは(格差が大きいことは)住民の相対的および主観的貧困度を増すことが示されるが、教育達成度については正の外部性(positive externality)が確認される。即ち、人々は教育水準の高い社会に居住することによってより「貧困でない」と感じるのである。教育は正に人造り、国造りの中心にある。
分析結果はまた、絶対的貧困と相対的貧困の双方への働きかけを考えるのであれば、貧困削減プログラム(公共投資やODAによるインフラ整備等も含む)の実施において、対象となる地域や住民とそうでない地域や住民の双方への配慮が重要であるという政策含意も示している。地域をまたがって住民を繋ぐこと、正の開発効果が他地域へ波及しやすくする配慮を怠らないことが肝要であることを分析結果は示している。
本論文が、今後の多様化する「貧困」議論や「開発」議論に一石を投じることとなれば、それは著者にとって望外の喜びである。

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