JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.98 Human Security in Practice: The Philippine Experience(s) from the Perspective of Different Stakeholders

本稿は、人間の安全保障がフィリピンにおいてどのように認識されているかについて考察するものである。本研究では、同国の主要なステークホルダー——すなわち研究者、政府職員および関連機関、市民社会組織、地元コミュニティ——が有する人間の安全保障についての見方・解釈を集め、整理している。研究方法としては、学術文献・関連する政策文書・ポジションペーパー等のレビュー、様々なステークホルダーとの対面あるいはオンラインでのインタビュー、そしていくつかの地元コミュニティとのフォーカスグループ・ディスカッションを行った。主な論点は次のとおりである。第一に、主要なステークホルダーおよび関連機関が人間の安全保障を概念としてどのように理解しているか?第二に、フィリピンおよび東アジア地域における人間の安全保障上の脅威およびリスクにはどのようなものがあるか?そのような脅威やリスクにはどのように対処すべきか、或いはすでに対処されているとすればどのような対処がなされているか?誰がそのようなリスクや脅威に対処できるのか?第三に、人間の安全保障の概念は政府および社会において主流化されているか?フィリピンで人間の安全保障に係る実践を推進していくことについて、将来的な見通しはどうか?
 本研究から、フィリピンの異なるセクターの間には人間の安全保障について多様な理解があるものの、同国において様々な集団が直面している多種多様な脅威や脆弱性に対応する上で、人間の安全保障の概念が重要であると認識されていることが確認された。しかしながら、より多くの人々に理解され使われるためには、概念の一層の明確化と現地の状況に合わせた文脈付けが必要である。現在、人間の安全保障の概念を使っているのは限られた関係者に止まっており、そのほとんどは研究者で、そのほか若干の市民社会組織関係者が使用している程度である。同概念を一層明確化するための努力がなされるべきであると同時に、より多くの人々、とりわけ安全保障上の脅威やリスクに脆弱な人々に理解しやすいものとしていく努力が求められる。

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