民族多様性と経済のつながり—ケニアのさらなる経済発展の可能性について議論

2010.11.16

11月5から6日まで、ケニアのナイバシャでJICA研究所と神戸大学の共同研究「アフリカにおける民族多様性と経済的不安定」の第3回ワークショップ(第1回:神戸大学、第2回:イェール大学)が開催されました。

民族多様性は、従来、政治的・経済的な安定に負の影響をもたらすものと考えられてきました。本研究プロジェクトでは、そもそもこの仮説が真実なのか、民族多様性が経済的な安定・発展にどう影響するのかについて研究を進めています。

3回目となる今回のワークショップでは、現在、ケニアを対象として実施中のケーススタディーを中心に議論が展開されました。2007年の総選挙に端を発した暴動(国際社会の仲裁もあり現在は沈静化)を経験し最近では新憲法の批准がなされた同国は、本研究テーマの分析に適切かつ実践的な事例だと考えられたためです。

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研究チームは、政治学、経済学、人類学などの各界の研究者で構成されており、民族多様性と経済の不安定性の間の関係について、それぞれの角度から研究を進めています。今回のワークショップでは、共通のアイデンティティーを有する集団・社会階級の間に生まれる不均衡や不平等性などに着目しながら、ケーススタディーの中間報告が行われました。

また、ワークショップに先駆けて、ケニアのライラ・オディンガ首相主催の朝食会および公開フォーラムが行われました。公開フォーラムでオディンガ首相は「民族多様性の負の要因は、過去の政権の体制が大きく影響している」と発言。状況改善に向けて新たな憲法への期待を述べました。またJICA研究所からは、恒川惠市所長が朝食会冒頭にスピーチを行ったほか、本研究プロジェクトの主査でありオディンガ首相のアドバイザーを務める日野博之・JICA専門家も参加しました。

ワークショップでは、歴史学者であるロンズデール教授がオディンガ首相の発言を引用しながら、植民地支配中や独立後の政権が民族を政治問題化してきた経緯を指摘。その事実を踏まえ「民族間の対立はケニアに根付いたものではなく、権力構造による副産物である。国家の安定を揺るがす要因は、社会的な不平等の存在を強調する権力闘争だ」といった議論がなされました。

2日間の議論を通じて、参加者たちは「経済成長はケニアにとって最重要課題」という見解で一致。ケーススタディーの結果に基づき、「性質を同じくする民族間で国境を越えて経済活動が行われることで規模の経済の原理が働く」との指摘や、「異なる経済行動をとる複数の民族が市場に存在することで、より安定的な経済が実現する可能性がある」との指摘、「将来的に、ケニア人のアイデンティティーは、民族ではなく、社会的(収入)階級に立ち替わっていくのではないか」という見解などが述べられました。

さらに暴動の要因についての議論では、特に紛争による強制退去を伴う場合の民族構成とその居住地域の関係性が要因として働くのではないかと指摘されました。また、教育(特に女子教育)がもたらす影響を分析したケーススタディーでは、教育を受けた者ほど、政府に対して異議・不安を唱える傾向にあり、政治的動機に基づく暴動を許容する傾向があるという示唆が得られたとの報告がありました。

来年には、イギリスのオックスフォードで第4回ワークショップが開催され、本研究プロジェクトの集大成として政策提言が行われる予定です。すべての研究成果は、最終的に書籍として出版されることになっています。

これまでのワーキングペーパーは、JICA研究所のウェブサイトで閲覧できます。

JICA研究所の研究プロジェクト「アフリカにおける民族多様性と経済的不安定」では、民族多様性と経済の関係性について分析し、経済的不安定化につながる要因を軽減すべく、政策提言を行っていきます。このプロジェクトは、JICA研究所の研究領域「成長と貧困削減」の一環として行われています。

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開催情報

開催日時:2010年11月5日(金)~2010年11月6日(土)
開催場所:ケニア ナイバシャ

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