「アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定」研究プロジェクトでワークショップ開催

2011.08.17

JICA研究所は7月15日~16日、英国のオックスフォード大学で、研究プロジェクト「アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定」の第4回ワークショップを開催しました。出席者は、日本や英国、ベルギー、香港、タンザニアなどから、アフリカ援助の研究者・実務者ら38人でした。JICA研究所からは、恒川惠市シニア・リサーチ・アドバイザー、山田浩司参事役、吉田耕平リサーチ・アソシエイトらが参加しました。

シリーズ最終回となる今回のワークショップでは、研究者と実務者による計9本の論文ドラフト発表と出席者によるピアレビューが行われ、さらに過去3回のワークショップにおける発見を再び振り返り、アフリカでの政策・制度的含意を導き出す議論が行われました。

マサチューセッツ工科大学のダニエル・ポスナー教授は、ケニアの人口保健調査のパネルデータを用いて、民族グループごとの平均学校就学年数を調べた結果、特定の民族グループに属する児童の方が長く就学している実態を明らかにしました。これは、中央集権的な政治制度の下では、民族的贔屓により公共サービスの配分に歪みがもたらされる可能性があるということを示しています。

また、ベルギー・ルーヴェン大学のアルニム・ランガー教授とオックスフォード大学のフランシス・スチュワート教授の共同研究では、多民族環境下で水平的不平等解消を目的に導入される政策について、直接的政策と間接的政策の有効性とリスクを比較検討し、「どの政策が適切かは各国の状況により異なる。所属民族グループに基づく差別撤廃措置には、民族意識をより強化するリスクを伴う」と強調しました。

神戸大学の高橋基樹教授は、水平的不平等の原因に直接働きかける政策がかかる不平等の緩和には効果的であるとし、ケニアの土地所有制度を取り上げて、ケニアの民族間暴力の原因に土地所有権の変遷があったと指摘しました。「21世紀に入り、アフリカでは急速な人口増加が進み、土地の希少性がより高まってくることから、これまで以上に土地が原因となる暴力が発生する可能性が高い。ケニアの轍を踏まないためには、土地の私的所有権を規定する制度改革が求められる」と述べました。

香港大学のヤッシュ・ガイ教授は、民族多様性を前提としたケニア新憲法の草案作成の経験を踏まえ、行財政・立法機能の分権化とマイノリティグループを保護する差別撤廃装置の条項が必要と指摘しました。

本研究プロジェクトでは、アフリカにおける民族の多様性と経済成長の間に見られる負の相関関係について、そのメカニズムを学際的手法を用いて包括的に研究し、多様な民族を抱えた社会における経済成長実現のための方策を探ってきました。

研究代表者の日野博之JICA研究所特別研究員(ケニア首相府経済アドバイザー)は、ワークショップを締めくくるにあたり、本研究プロジェクトから導き出されうる政策的含意として、①政治的リーダーが自らの政治目的達成のために民族間の敵対心を煽るような行為を制御する分権化を目指した制度作り、②民族多様性を機会ととらえて民族の相違によらない社会を目指した国家建設への投資、③民族間の水平的不平等をもたらす原因に直接働きかけるような土地政策、天然資源管理政策、流入する外国資金の適切な管理、などが挙げられると総括しました。

JICA研究所では、このプロジェクトの成果について、ワーキングペーパーでの公開をはじめ、来年年明けの英文書籍の出版、東京での公開シンポジウム開催などを通じて議論を深め、またその普及を図っていく予定です。

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関連研究領域:成長と貧困削減

関連研究プロジェクト:アフリカにおける民族多様性と経済的不安定

開催情報

開催日時:2011年7月15日(金)~2011年7月16日(土)
開催場所:英国、オックスフォード大学

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