「アフリカにおける民族多様性と経済的不安定」をテーマに研究会とシンポジウムを開催

2009.08.03

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研究会で挨拶する恒川所長とラニス名誉教授、
ヴァン・ゲルダー氏(左から)

JICA研究所と神戸大学は、共同研究プロジェクト「アフリカにおける民族多様性と経済的不安定」の第1回研究会を7月13日、14日に、公開シンポジウムを13日に神戸大学で開催しました。JICA研究所からは恒川惠市所長および同プロジェクトで研究調整者を務める大岩隆明上席研究員らが出席しました。

この研究はJICA研究所が重要研究領域に定める「成長と貧困削減」の研究プロジェクトのひとつで、先行研究では充分に説明されていない、民族の多様性と経済的な不安定性の間にある関係を、アフリカに焦点を当てながら包括的に理解し、具体的な政策含意を導き出すことを目指すものです。JICA研究所の日野博之特別研究員(神戸大学特命教授/ケニア共和国首相府経済アドバイザー)と、同大学の高橋基樹教授が研究代表者を務めています。

7月13日、14日に行われた研究会では、「民族多様な社会と市場経済:理論と歴史」をテーマに6つの論文報告と意見交換が行われました。恒川所長、リンダ・ヴァン・ゲルダー氏(世界銀行東アジア太平洋地域貧困削減・経済運営分野セクターマネージャー)らが出席し、同プロジェクト代表者の日野特任研究員をはじめ、グスタフ・ラニス名誉教授(米国イェール大学)、フランシス・スチュワート教授(英国オックスフォード大学)など著名な経済学者のほか、社会心理学や人類学、歴史、政治学といった多様な分野の研究者たちが、それぞれの視点から見解を述べました。

はじめに、世界的経済学者として知られるラニス名誉教授が、民族多様性と、所得分配、貧困、人間開発、そして経済不安定性との関連性について報告し、その中で、天然資源国、沿海国、内陸国は民族多様性と経済的結果との関係が異なりうることを指摘しました。

このほか、アンジャン・ムカージ教授(インド ジャワラル・ネルー大学)とサティシュ・ジェイン氏(同大学)が経済学の観点から、市場経済や民主主義といった制度は、多様な民族を内包する社会においては、理論通りに機能しないことを検証し、政府の担うべき役割について考察。歴史学者のジョン・ロンズデール教授(英国ケンブリッジ大学)は、経済的分業によってゆるやかに結びついていた集団(モラル・エスニシティ)が、市場経済が発達し、土地が相対的に希少になるにつれ、排他的な部族主義に堕していく流れについて、事例を挙げて説明しました。次に、文化人類学者のパーカー・シプトン教授(米国ボストン大学)は、アフリカにおける社会的移住の制限が、土地不足、生態系破壊、窮迫および紛争の問題をいかに悪化させているかについて述べ、先進国が国境管理を緩めるべきとの挑戦的な提案を行いました。

また、グラハム・ブラウン教授(英国バス大学)は、「民族の多様性と不平等性の概念化と計量化」という論題で、民族の多様性を測る独自の指標を提案しました。これに対しては、時間や多言語性の概念を組み入れることの必要性とともに、データの収集や認定の困難さが指摘されました。そして、政治学者のブルース・バーマン教授(カナダ クイーンズ大学)は、「アフリカでは、植民地政府における行政や市場の構築過程でエスニシティが固定化され、エスニシティを基軸にしたパトロン・クライアント関係が国家と市場に密接に組み込まれた」とした上で、「新自由主義的改革により、パトロン・クライアント関係が崩れ、暴力的紛争が増加した。民主化によっても状況は変わっていないが、アフリカの紛争は国家の支配をめぐる争いであり続けているという意味で過去の欧州と同じである」と主張しました。

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フランシス・スチュワート教授

本研究について、ラニス名誉教授は「各分野の専門家の英知が集結したおかげで、最終的に調和のとれた研究プログラムになるだろう。とても有意義な研究会だった」と述べ、スチュワート教授は「本研究では、民族の多様性と経済的不安定性、成長および紛争という重要なトピックをカバーしており、また、さまざまな国のさまざまな研究分野に精通した研究者が参加している。これはとても重要なことだ」と話しました。

今回の研究会を通し、「アフリカの民族の多様性は、排他的なアイデンティティと結びついた場合、経済的および政治的不安定性と密接に関わりあっている」ということが共通の見解として共有され、同プロジェクトにおいて意味のある第一歩となりました。

来年1月(予定)に行われる米国イェール大学での研究会に続き、ケニア(ナイロビ)、英国オックスフォード大学での研究会を経て、最終的なプレゼンテーションの場である2011年の東京での会議へとつながります。同プロジェクトでは、最終的な研究成果をまとめた2冊の本を出版することを予定しています。

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神戸大学に集結した研究プロジェクト・メンバー

7月13日に開催された公開シンポジウムには本研究の関係者や関心の高い学生らが参加し、日野特任研究員と世界銀行のリンダ・ヴァン・ゲルダー氏が基調講演を行いました。
日野特任研究員は、「金融市場の自由化が行き過ぎであったことは確かだが、アフリカ諸国がこれまでの経済自由化改革を全てご破算にして、国家中心のモデルに回帰するのは問題」とした上で、「現在のアフリカは、先進国市場への輸出に基づく東アジア型の高度成長モデルよりも、国内のリソースや国内市場を重視する安定成長モデルを考えるべき」と主張しました。また、ゲルダー氏は、アジアにおける経済危機の広がりについて、楽観視していないことを表明し、中所得国とモンゴルやカンボジアといった後進国への影響のタイミングが異なることを指摘するとともに、世界銀行がさまざまな取り組みを行っていることを強調しました。

パネルディスカッションでは、ラニス名誉教授が、経済刺激策を行う上で憂慮すべき点や保護主義の危険性、途上国のオーナーシップの重要性、またMDGs達成のための支援の必要性について語り、フランシス・スチュワート教授は、経済危機の影響の多様性に関して、中国やインドがいかに経済危機の影響を排除したかという例を挙げながら、アフリカでも経済危機の影響が少ない国があることを説明しました。
また、恒川所長は、「JICAは緒方理事長の就任以来、アフリカへの援助を飛躍的に増やしてきた」と指摘した上で、JICAは経済危機への対応のために事業実施を早めようとしていると述べました。さらに対アフリカ事業を「インフラ整備と農業」、「紛争後の国家建設」の2分野を中心に紹介しました。

■ Agenda & Papers
※青字をクリックすると発表内容(要約)が閲覧できます。

July 13

9:00-9:10
Opening Remarks
 Prof. Ryuzo Miyao, Director of RIEB, Kobe University

9:10-9:30
Introduction
 Prof. Hiroyuki Hino, Kobe University/JICA Research Institute

Session 1

9:30-10:45
"Diversity of Communities and Economic Development: An Overview"
Chair:
 Prof. Hiroyuki Hino, Kobe University/JICA Research Institute
Speaker:
 Prof. Gustav Ranis.pdf , Yale University
Comment:
 Prof. Motoki Takahashi, Kobe University
 Prof. Toru Yanagihara, Takushoku University
Discussion

Session 2

10:45-12:15
"Diversity of Preferences of Individuals, Interdependence
of Individual and Social Choice, and Stability of Market Economy"

Chair:
 Prof. Nobuaki Hamaguchi, Kobe University
Speaker:
 Prof. Anjan Mukherji.pdf , Jawaharlal Nehru University
 Prof. Satish Jain.pdf , Jawaharlal Nehru University
Comment:
 Prof. Ken-Ichi Shimomura, Kobe University
 Prof. Michael Kremer, Harvard University
Discussion

12:15-13:30 Lunch

Session 3

13:30-14:45
"Construction of Ethnic Patriotisms in Africa: The Role of
Integration with Market Economy"

Chair:
 Prof. Motoki Takahashi, Kobe University
Speaker:
 Prof. John Lonsdale.pdf , University of Cambridge
Comment:
 Prof. Edward Oyugi, Kenyatta University
 Prof. Frances Stewart, University of Oxford
Discussion

15:30-17:30
International Symposium "Diversified World and Global Economic
Crisis: Challenges to Developing Countries and Roles of the
International Community"

18:15-20:15 Reception

July 14

Session 4

9:30-10:45
"Ethnicity, Economy, and Mobility: A Preliminary Reflection on
Confinement and Violence -- South of the Sahara"

Chair:
 Prof. Keiichi Tsunekawa, Director of JICA Research Institute
Speaker:
 Prof. Parker Shipton.pdf , Boston University
Comment:
 Prof. Juro Teranishi, Nihon University
 Prof. Jean Ensminger, California Institute of Technology
Discussion

Session 5

10:45-12:00
"Conceptualizing and Measuring Ethnicity"
Chair:
 Prof. Ryuzo Miyao, Director of RIEB, Kobe University
Speaker:
 Prof. Graham Brown.pdf , University of Bath
Comment:
 Prof. Nobuaki Hamaguchi, Kobe University
 Mr. Takahiro Fukunishi, Institute of Developing Economies
Discussion

12:00-13:30 Lunch

Session 6

13:30-14:45
"Ethnicity and Democracy in Africa"
Chair:
 Prof. Motoki Takahashi, Kobe University
Speaker:
 Prof. Bruce Berman.pdf , Queen's University
Comment:
 Prof. Daniel Posner, University of California, Los Angeles
 Prof. Siddharth Chandra, University of Pittsburgh
Discussion

14:45-15:45
Discussion of Future Research
Moderator:
 Prof. Hiroyuki Hino, Kobe University
 Mr. Takaaki Oiwa , JICA Research Institute

15:45-16:00
Summing-up
 Prof. Keiichi Tsunekawa, Director of JICA Research Institute

開催情報

開催日時:2009年7月13日(月)~2009年7月14日(火)
開催場所:神戸大学六甲台キャンパス

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