ブルンジとルワンダの土地紛争、武内上席研究員が現地調査

2012.03.14

武内進一上席研究員は1月31日~2月20日、JICA研究所の研究プロジェクト「紛争後の土地・不動産問題—国家建設と経済発展の視点から」の調査の一環として、研究対象国であるブルンジとルワンダを訪問しました。

ブルンジ、土地問題がエスニック紛争として解釈される危険も

ブルンジでは、研究プロジェクトの一環として、今年度マカンバ、ブルリ、ギテガの3州で土地問題に関する世帯調査(270世帯)を実施しています。今回の訪問では、調査実施機関の担当者と調査票の内容を確認するとともに、データ入力作業を監督しました。この調査は、ブルンジの土地紛争の実態とその地域差について概要を把握することを目的としたものです。

この調査結果を暫定的に整理したところ、判明したのは下記の事実です。

1)「強制移動」の経験は、同じブルンジ国内でも地域差があること。
マカンバ州全域とブルリ州(とくにルモンゲ・コミューン)では、強制移動の経験をもつ人がきわめて多く、彼らの土地紛争は、そのほとんどが強制移動に由来しています。

一方、ギテガ州やルモンゲ・コミューン以外のブルリ州では、強制移動の経験をもつ人は相対的に少ないことがわかりました。これは、土地紛争の性格の違いに直結しています。

2)土地紛争のタイプに地域差があること。
マカンバ州では「帰還難民がらみの紛争」が半分を超えるのに対し、ギテガ州では「家族内の相続をめぐる紛争」が約3分の2を占めていました。

ブルリ県では「相続をめぐる家庭内の紛争」が全体の約3分の1と最も多い半面、「隣人との境界争い」や「帰還難民がらみの紛争」も少なくありません。このほか、難民として避難している間に、政府によって所有地をオイルパーム・プランテーションなどに変えられてしまったケースも目立ちました。

武内上席研究員は「土地紛争のタイプは、ブルンジの土地紛争の主因である武力紛争の歴史を考慮すると理解しやすい。ブルンジで大量の難民・国内避難民を生んだ事件として、1972年と1993年の紛争が重要な意味をもつ」と指摘します。

72年に起こったのは、ツチ中心の軍がフツの一般人を大量に虐殺したジェノサイドでした。とりわけ、事件の発端となったニャンザ・ラック・コミューンをはじめとするマカンバ州全域や、タンガニーカ湖沿いにニャンザ・ラック・コミューンと接するブルリ州のルモンゲ・コミューンでは多くの人が被害を受け、恐怖から難民化した経緯があります。

一方、93年には、民主的な選挙で選出されたフツのンダダエ大統領の暗殺事件をきっかけに内戦に突入。この過程でツチが農村部で襲撃され、国内避難民化しました。これは全土を巻き込みました。

3)難民として避難している間に所有地が隣人に占拠されたケースで、その占拠者の多くは、難民(もともとの所有者)とは異なる民族であること。

難民を出したのは1972年の事件のほうが圧倒的に多く、このとき難民となったのは、主としてフツの人たちでした。つまり、フツの土地を占拠した人の多くはツチだということを意味します。この事実は、ブルンジの土地紛争が、容易にエスニックな紛争として解釈される危険性を示唆しています。

4)土地紛争が起こったとき住民がまず頼るのは、伝統的な紛争解決制度であること。

今回の調査で、土地紛争の解決のために住民がまずアクセスするのはローカルな紛争解決機関と末端地方行政の長、すなわち「バシンガンタヘ」とコリン長であることがわかりました。「バシンガンタヘ」とは、ブルンジ社会の伝統的な制度で、いわば村の賢人会議。コミュニティで尊敬を集める人たちがそのメンバーとなり、もめごとを解決します。コリンとはブルンジの最末端地方行政組織です。

その上位の地方行政機構であるコミューンや州の担当者、あるいは裁判所(第一審)やCNTB(「土地その他財産に関する国家委員会」。土地紛争の裁定を目的として設立された機関)に訴えるのは、この後のことです。

武内上席研究員は「バシンガンタヘもコリン長も、裁定に際してカネを要求することが多い。そのため、不利な裁定を下されたり、裁判で負けた方は、紛争相手が賄賂をよりたくさん払ったために自分が負けたのだと信じる傾向にある」と述べています。一般の人々が頼る紛争解決機関は、必ずしもうまく機能しているとは言えません。

ブルンジでは、ルワンダの経験にならって、土地権利証書の発行を支援するドナー(スイスなど)の動きがあります。しかし武内上席研究員は「土地権利証書を発行しても土地紛争は解決しない。土地紛争の仲裁を先行、または並行して実施し、紛争を可能な限り抑制しておく必要がある」と指摘します。

成功者にツチが多いルワンダ、社会にどんな影響を与えるか

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調査地に電気が通るようになった
(ルワンダ東部)

武内上席研究員は、ルワンダでは東部の農村を集中的に調査し、土地登記の実態と生活環境を調べました。今回の調査のなかで武内上席研究員は「特に印象に残った発見は3点あった」と言います。

第一に、ルワンダで現在急速に進められている土地登記について、紛争があるにもかかわらず、占有者の名義で登記されている事例が数多くあったことです。

ルワンダ政府は、土地登記に際して、紛争がある場合は暫定登記証を発行せず、紛争中の土地として別途記録すると説明しています。そのうえで、登記に際して土地紛争はきわめて少ないというのが公式な説明です。しかし、今回の知見に基づけば、紛争があっても現在の占有者の名義で登記されるので、表面化しない土地紛争が数多くあると推量できます。武内上席研究員は「この情報は、ルワンダの土地登記を評価する際、重要なポイントとなりうる」と話しています。

第二に、調査地の生活状況がかなり改善していたことです。武内上席研究員は99年以来、この場所で調査を続けていますが、「保健セクターの充実(蚊帳や薬の配布、健康保険制度の普及)や教育無償化の好影響、また治安の安定によるポジティブな効果があり、多くの人たちが以前に比べて生活が良くなったと述べていた。これは嬉しい驚きだった」と印象を語っています。

その一方で、単一作物の作付けを強制する動きや「藁葺き屋根追放運動」(藁葺きの小屋を見つけると破壊する政策)のように、政策の履行を強制力に頼る当局のやり方はあまり変わっていません。

武内上席研究員は「生活が底上げされている感覚を人々が共有していることもあり、強制的な措置に強い反発は生じていない。しかし、状況によっては政府への不満をためる要因にもなりかねない」と分析しています。

第三に、生活レベルの底上げがあるとはいえ、エスニックな亀裂は依然として顕著であることです。これは、ツチ(少数派エスニック集団)とフツ(同多数派)があからさまに敵対しているということではありません。一方、内戦以来、政権を事実上独占している「ルワンダ愛国戦線」(RPF)の中心はツチですが、ローカルなレベルでも行政ラインの要職はツチが占め、商売などで成功して大幅に所得を増加させているのもやはりツチが多いのです。

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調査地に最近建てられた中学校
(ルワンダ東部)

武内上席研究員は「フツが政治や社会から明示的に排除されている事実はない。しかし顕著な成功者にツチが多いことは明らか。こうしたエスニックな亀裂が今後どう社会に影響を与えるのか、慎重に観察を続けたい」と話しています。

開催情報

開催日時:2012年1月31日(火)~2012年2月20日(月)
開催場所:ブルンジ、ルワンダ

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