長期研修員向け地域理解プログラム「琵琶湖をめぐる開発と保全の教訓」を実施しました。

2020年12月16日

JICA関西は、JICA開発大学院連携構想の下、地域の近現代の発展と開発の経験を伝えるプログラム(地域理解プログラム)として関西の大学院で学ぶ長期研修員(留学生)に、関西の歴史・発展・開発経験事例を紹介しています。本プログラムは、昨年度に引き続き2回目の実施となります。琵琶湖の開発と環境保全に焦点を当て、日本一大きい湖Mother Lake(母なる湖)が地域の開発にどのように関わってきたか、また特徴的な環境保全活動の歴史と効果を理解できるような内容を提供しました。12か国19人の留学生(立命館大学、京都大学、神戸情報大学院大学、関西学院大学、神戸大学)が参加しました。

琵琶湖周遊観光船ミシガンに乗船し琵琶湖を体感

ミシガンに乗船する研修員

記念写真!

琵琶湖を説明する中村講師

11月13日(金)、穏やかな秋空の下、朝10時に大津港を観光船ミシガンで出発しました。研修員は船上で中村正久講師(公益財団法人 国際湖沼環境委員会(ILEC) 副理事長)による琵琶湖の概要(琵琶湖の流域面積・流域人口、面積、貯水量、平均水深、自然環境等)や航路周辺地域の説明を受け、思い思いに写真撮影に興じるなど、琵琶湖を肌で感じながら水上学習を終えました。

琵琶湖の開発と保全の概要

中村講師による講義

講義①:「琵琶湖の開発の歴史と重要性の認識」
中村正久講師(公益財団法人 国際湖沼環境委員会副理事長)
琵琶湖へ流れ込む河川は多いですが、そこから流出する河川は瀬田川だけです。瀬田川から流れ出た湖水は、淀川水系(宇治川、淀川)を経て最後には大阪湾に流れつきますが、下流部には京都・大阪・兵庫の大都市が位置しています。琵琶湖はこれら京阪神に住む1,400万人の飲料水等の水源として重要な役目を果たしています。
近代に入り、京都は琵琶湖からの水路開発による都市機能の再生(運輸、交通、灌漑、飲料水確保)を目的とし、2本の人口水路(琵琶湖疎水)を建設しました。
日本の高度経済成長期である1950年代から1970年代にかけて産業の重化学工業化により大阪南部沿岸地域では水需要が増大し、地下水の利用が一気に増えました。高度経済成長期後半に入ると、更に水需要が増大し、国、滋賀県、下流府県が琵琶湖総合開発事業計画に着手しました。国家事業として琵琶湖総合開発は1972年に開始し、25年間という長期間を経て1997年に終了しました。代表的な事業例は、①治水:琵琶湖周囲の堤防を建設(湖岸道路)による琵琶湖の水位調節、②利水:下流域への安定的な水供給、③保全:滋賀県内での下水道、し尿処理施設の整備による琵琶湖の水質保全です。
琵琶湖を健全な姿で次の世代に継承するため、2050年の琵琶湖のあるべき姿を掲げて「琵琶湖総合保全整備計画」が進められています。
ブータンのMr. Sonam Pelgen(立命館大学)は、京都の飲料水が琵琶湖を水源とし、琵琶湖疎水を経て供給されていることを初めて知りました。また、ジンバブエのMs. Sandra Ngwerume(神戸情報大学院大学)は、「開発に対する視野が広がった。正しい戦略の下、適切な人が集まれば開発をするのは可能という事を改めて再認識できた。」と感想を寄せました。

井手講師よる講義

講義②:「琵琶湖保全に向けた住民運動」
井手慎司講師(滋賀県立大学環境科学部 教授)
高度経済成長期の滋賀県は工業化により企業誘致が進み大規模な工場が建設され、人口が増大しました。その結果、大量の産業廃水や生活廃水が琵琶湖に流れ込み、1960年代に琵琶湖の水質汚染が深刻化しました。1970年代には淡水赤潮が発生し、養殖魚の大量死や琵琶湖を水源とする関西圏の水道水からの悪臭等の影響が報告されました。 窒素やリンが湖へ流入することによる富栄養化が原因と見られ、当時使われていた合成洗剤に含まれているリンが原因の一つであることが報告されました。これを機に行政や、住民、企業が立ち上がり環境再生への取り組みが始まりました。この取り組みで最も有名なのが「石けん運動」です。1978年に“多少の不便があっても粉石けんを使おう”というスローガンの下、主婦層を中心に「びわ湖を守る粉石けん使用推進県民運動」県連絡会議が結成されました。そして行政に対策の実施を求めた結果、滋賀県は1979年にリンを含有した合成洗剤の使用、販売、贈答を禁止する条例を制定しました。滋賀県の住民運動がもたらした法整備の事例は、イタイイタイ病や水俣病等の公害病に直面している他の地域の住民運動の先駆的試みとして全国に広がりを見せました。
キルギスのMr. Ramazan Ibraimovは、琵琶湖の保全の為に立ち上がった県民による「石けん運動」が、後に地方の環境問題改善に向けた住民運動にも大きな影響を与えた点に興味を持ちました。多くの参加研修員がこの「石けん運動」の原動力になった主婦層のエンパワメントに感銘を受けました。

琵琶湖博物館見学

専門学芸員による展示説明

専門学芸員による展示説明

琵琶湖博物館は10月10日にリニューアルオープンしたばかりで、展示には見学者を惹き付ける仕掛けが多く採用されています。展示は幅広く、琵琶湖の自然と生い立ち、琵琶湖を取り巻く自然と暮らしの歴史、琵琶湖に生息する多様な動植物(琵琶湖の固有種)について知ることができます。また、琵琶湖や世界の淡水魚の水族展示があるのも興味深いです。研修員は専門学芸員による展示説明を聞きながら見学しましたが、専門学芸員の話は研修員の興味を大いに掻き立て、かつ質問にも即座に回答してくれたことで理解が進み、とても学びの多い見学となりました。

振返り

振返り風景

プログラムの最後に研修員は2グループに分かれ講師2名が各グループのファシリテータとなり、講義、見学内容からの学びの確認、整理を行って本プログラムを締めくくりました。


今後もJICA関西は、研修員の日本・関西の理解促進のための企画を実施していきます。