【草の根技術協力事業】コロナ禍を経てセルビアから2人の研修員が来日しました!

2022年7月8日

紙漉き活動(いこま福祉会)

新型コロナウイルス対策に伴う入国制限が今春から緩和され、セルビア共和国で草の根技術協力事業を実施している社会福祉法人いこま福祉会(奈良県生駒市)が、この度、現地の事業関係者を日本に招き、研修を実施しました。

いこま福祉会は、同国首都ベオグラードにある障がい者支援協会「Naša Kuća(ナーシャ・クチャ:私たちの家の意)」において、スタッフに対する障がい特性に応じた支援技術の向上を図ることにより、障がい者の自立を支援し、セルビアの社会的包摂の取組に資するための活動を展開しています。
ナーシャ・クチャは、精神に障がいのある人々とその保護者により設立された団体で、障がい者の就業のために、たばこの空箱等を紙漉きに利用した古紙再生活動や、高齢者への給食サービス等を行っています。
いこま福祉会でも、牛乳パックを再利用した紙漉き作業による就労継続支援を行っており、双方の経験を活かしながら、障がい者の自立を支援しています。

たばこの空箱から紙漉き材料を作る(ナーシャ・クチャ)

今回、研修員として来日したのは、ナーシャ・クチャの代表であるアニーシャさんと、同協会のコンサルタントであるミリアナさんのお二人。
5月下旬から約2週間、いこま福祉会の福祉サービス、生活介護と就労継続支援等の事業の見学、また、いこま福祉会を長年支えてきた親の会や地域の方との交流を通じて、日本の障がい者福祉の制度や福祉施設の運営など、障がい特性に応じた支援に必要な知識を学びました。
いこま福祉会の皆さんは、2年ぶりの再会に喜びを感じ、研修初日、満面の笑みでお二人を迎え入れました。

事業の進捗状況を小紫市長に報告

手作りの紙を通じた障がい者支援について語らう

 研修中の6月3日、生駒市役所を表敬訪問した研修員といこま福祉会は、小紫市長と会談し、事業の進捗状況を報告しました。
この中で、アニーシャさんは自身の40歳になる息子の話に触れ、「紙漉きを通じて、障がい者がモチベーションを維持しながら作業をしている。障がい者がやりがいをもって働ける場所を作り、セルビアの他の地域でも活動が広がるようにしていきたい。」と話しました。
小紫市長はこれに対し「小さい活動かもしれないが、いこま福祉会との関係を大切にしながら活動が発展していくことを期待している。」と述べられました。
会談の後、たばこの空箱を再利用した手作りの紙が小紫市長に手渡され、手仕事ならではの風合いを確かめ、あたたかみのある手漉き紙の良さについて語られていました。

水に溶かした原料の濃度を一定に保つには水の高さが大事

表敬訪問の後、いこま福祉会が運営している生活支援センターかざぐるま(知的障がいのある方を対象とした相談支援機関)を見学し、午後はいこま福祉会が手漉き紙の指導を受けている紙好き交流センター(大阪府交野市)へ移動し、紙好きを実践しながら技術指導を受けました。
生活支援センターは生駒駅の近くにあり、専門の相談員が年間400件を超える相談に対応しています。
相談内容も多岐に渡り、件数も年々増加し、「8050問題と言われるように、障がい者支援においても80代の親と50代のこどもに関する生活支援が特に課題となっている。」とご家族からの相談事例が紹介されました。
この課題に関して、こどもが今後の生活を考えるきっかけとなるように1人暮らしを体験できる場所を提供していることを知り、研修員のお二人は強い関心を示されていました。
障がいのある方とその家族の想いを第一に、本人が自分らしい生活を送ることができる方法を考える相談員の皆さんのお話から、一緒に考えようと真摯に向き合う姿勢が大切であることを学びました。
紙好き交流センターでは、「紙の厚さを一定に保つには、溶かした紙の濃度が変わらないように漉き舟(原料の紙を溶かす水を入れる水槽)の水の高さを一定にすることが大事」「紙の縁をきれいに仕上げるには、簀桁(スケタ:紙漉き用の道具)で漉くった後、しっかりと水切りをすることがポイント」と、二人の質問にも丁寧に説明をしていただきました。

研修を終え、本事業のプロジェクトマネージャーである前田さんは「新型コロナウイルス感染症の影響により、1年半の中断後に再開したプロジェクトですが、元々の計画を変更した中で迎えた来日研修でした。
来日のためのビザ申請、練りに練った研修プログラム、日本文化の体験など、関係者の努力により大きな成果を得られました。
研修員からも充実感たっぷりの感謝のメールが届き、事業目標の達成に向けて双方のベクトルはしっかりと一致したと感じました。」と話していました。

セルビアでは、SNSやメディア等でナーシャ・クチャの活動が取り上げられたことがきっかけとなり、古紙再生活動の原料となるたばこの空箱の回収に協力してくれる方が増えているそうです。
アニーシャさんの話では「障がい者の収入は本当に限られていて、困窮されている方も多くいますが、これまで1日1時間程しかなかった作業時間が増え、工賃の向上にもつながっている。」とのことです。
障がい者の活動が理解されるように草の根レベルで支援を広げることで、障がいの有無にかかわらず、一人ひとりが社会の一員として働き、支え合える社会を目指して、ナーシャ・クチャといこま福祉会は活動を続けています。