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JICA海外協力隊がつなぐ、環境教育のバトン――首都から地方へ広がる学びの輪

2025.07.03

JICA海外協力隊がつなぐ、環境教育のバトン――首都から地方へ広がる学びの輪
~コミュニティ開発× 環境教育隊員でコラボ~

2023-7次隊 コミュニティ開発 山内 ゆりか

 2023年8月に東ティモールの首都ディリに着任してからこれまで、現地の人とともに現地の文化に合わせて新規のイベントや活動を生み出す「ゼロ→1」に挑戦し、キャリアを含めた人生の選択肢を広げるきっかけの一助になるような活動に取り組んできました。(一例として、七夕イベント クリスマスマーケット を開催しました)
 今回は初めての試みとして、同地で環境教育隊員として活動しているJICA海外協力隊の仲間とともに、お互いがそれぞれの活動中で築いてきた経験や知識を掛け合わせた「ゼロ→1」に挑戦しました。

 2025年4月、實亜里紗さん(2023年度3次隊 環境教育)が企画した、首都のゴミが集まるゴミ処理場を見学するスタディツアーに私も参加しました。街中にはゴミ集積所やゴミ箱が設置されており、家庭から出たゴミはそこに捨てられた後、パッカー車やコンテナ車両で処理場まで運ばれます。
このような集積・運搬の仕組みは、日本のシステムと似ている部分もありますが、大きく異なるのがゴミの分別方法とその管理体制です。東ティモールでは、2012年に「環境基本法」、2017年に「廃棄物管理に関する政令」が制定されましたが※1、2025年時点でも、分別の制度や文化は市民の間に十分浸透していません。実際にはほとんどのゴミが分別されないまま処理場へと運ばれ、“オープンダンピング”と呼ばれる方法で、そのまま投棄されています。※2

ごみ処理場

 処理場では、廃棄物の中から売れるものを拾い、生計を立てている人々の姿も見られました。多くは処理場周辺に住む住民で、その地域では呼吸器疾患や下痢などの健康被害が深刻です。特に急性呼吸器感染症の治療件数は、東ティモール全国平均の10倍以上にのぼるとの報告もあります。※3
 首都ディリのゴミ収集率は約63%で(日本は約99.2%)、毎日100トン以上のゴミが収集しきれず、未回収のゴミは海に流れたり道路の側溝に溜まっているのが日常です。ポイ捨ては躊躇なく行われ、それを取り締まる法律もほとんど機能していない状況です。
 実際の様子からも、データ上の数字からも、東ティモールのゴミ問題は、例え明日から日本と同じようなゴミ処理システムが導入されたとしても解決の兆しは薄いと率直に感じ、現地の人の意識もともに変える必要性を感じました。
 東ティモールのゴミ事情については、伊藤 前JICA東ティモール事務所長のコラム をぜひご覧ください。

 東ティモールのゴミ問題について現実を目の当たりにし、現地の人々のゴミに対する意識の低さを感じた今、何か行動に移せないかと考えた結果、協力隊の醍醐味である「現地の人と同じ目線に立って、寄り添いながら活動する」方法で東ティモールのゴミ問題の実情を現地の人に伝え、少しでも考えるきっかけを作りたい、と思いました。そこで實さんに相談をし、私がコミュニティ開発隊員として活動している美容サロンの運営組織で勉強会を開催することになりました。

 この組織は、美容サロンのほかに、レストラン、カフェ、ホテルなどの事業を展開しており、それぞれの分野でトレーニングスクールも運営しています。スクールでは、現地の青少年に対して、無料で学ぶ機会を提供しています。組織の設立目的は、東ティモールで家庭内暴力や貧困に苦しむ女性を支援し、自立を促すことにあります。そのため、スクールの受講生は主に女性で、特に生活に困難を抱える人々を優先的に受け入れています。
 勉強会当日は、16-25歳の層をメインとした約40名が集まり、私の活動パートナーである美容師や美容コースの受講生、そして起業を目指す受講生が参加しました。
 勉強会では、實さんから東ティモールのゴミ問題について、日本の4大公害病を含めた過去事例を用いて説明いただき、そして、彼女が現地語であるテトゥン語で作成した環境教育に使える絵本の読み聞かせを行いました。

環境教育隊員 實さんからの説明を聞く参加者たち

 読み聞かせは、美容師と美容コースの受講生が担当してくれました。勉強会当日まで何度も練習をおこなっていたかいもあり、参加者が彼女達の読み聞かせにくぎ付けだったのはとても嬉しく、そして誇らしかったです。

絵本の読み聞かせを行う美容師と美容学生

 その後、グループに分かれて「今日学んだこと、これから自分がどう行動するか」などを議論し、その決意を発表する時間をつくりました。東ティモールでは学校や家庭で環境教育について学ぶ機会があまり無いため、参加者たちは初めて知る情報が多く驚いていたことが印象的でした。
 そして、この勉強会の中でとても嬉しく感慨深いことがありました。それは、全体を通して美容師たちが積極的に勉強会をリードしてくれたことです。勉強会の総括時に、美容師の一人が”みんなに話したいことがある”と言い、マイクを握りこう伝えました。

“ティモールのゴミを少なくして街を綺麗にするには私たち1人1人の行動が鍵になる。例えば、敷地内でゴミが落ちていた時に自分が捨てたものじゃないからと言ってと知らんぷりするのは違う。自分のじゃなくてもゴミを拾ってキレイにする。そういう行動から街がキレイになっていく。”

思いを伝える美容師

 このメッセージは、彼女が自分自身で考えて言葉にしたものです。私も實さんも彼女に対して「こういうことを言って欲しい」というリクエストは一切していません。
 私たちの想いが確実に届いていると確信した瞬間でした。

 JICA海外協力隊の任期は基本的に2年間と決まっています。私も實さんも2年間の任期が終わったら日本に帰国するため、ティモールに住み続けることはできません。だからこそ、現地に住む彼女たちがこの問題を “自分事化” して、積極的に行動を起こしていくことがとても大切なのです。
 この勉強会1回で参加者全員の意識が変わることは難しいでしょう。しかし、少なくとも活動パートナーは私たちの意を汲んで、そして東ティモールの環境に問題意識をしっかりと持って、今後もリーダーシップを持ちながらみんなを巻き込んで行動してくれることでしょう。そこに疑う余地はありません。

勉強会後にみんなでパシャリ(後方右手が實さん、手前右手が筆者)

 勉強会から数週間後、活動先から素敵な写真をいただきました。
 私の活動先は、地方コミュニティへ不定期に訪問し、住民にネイルやヘアアレンジなどの美容体験や食育を含めたさまざまなアクティビティを提供しています。その一環として、實さんが作成した絵本の読み聞かせを実施してくれたのです。

“首都には多くの支援が集まっていてとても助かっているが、地方に行くとまだまだ。道も舗装されていないし、モノ、情報、機会など、地方住民が得られることはすごく限られるの。だから私たちが彼らに届けるのよ!”
とディレクターは力強く伝えてくれました。

地方コミュニティでの絵本の読み聞かせの様子

 JICAを含めた海外からの支援をきっかけに、現地の人たちによって現地の文化に合わせた支援の輪が広がっていくのを、自分の関わったプロジェクトで見ることができ、私自身こみ上げるものがありました。

 この記事が上がった数週間後には私は任期を満了し日本に帰国していることでしょう。
最後の最後にこの光景を見ることができ、自分の活動の軌跡と隊員仲間の活動の軌跡を合わせたコラボレーションを組むことができた今、胸を張って「東ティモールでの活動をやり切った!」と言えます。
 日本に帰国しても活動先との関係性は変わらないので、彼女たちが自分の可能性を高め、そして人生の選択肢を広げるために、私にお手伝いできることを精一杯していきたいと思います。

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