地域の取り組みからよりよい金融の仕組みを学ぶ!

課題別研修「NIS諸国における中小企業金融を含む金融制度支援策」では中央アジア諸国の研修員を対象に中小企業を支える金融制度について学ぶ研修を実施しています。

2022年3月31日

金融制度について学ぶ研修をオンラインで

 課題別研修「NIS諸国における中小企業金融を含む金融制度支援策」ではアゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタンの研修員を対象とした、国の経済発展のために非常に重要な「中小企業を支える金融制度」について学ぶ研修です。
 昨年(2021年)の2月に第一部として、理論や制度をオンライン形式で学び、今回の第二部は、今年来日して現場見学や討論を中心に行う予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で来日が出来なくなったため、オンライン方式のみで、研修目標である「研修員が中小企業振興に資する金融政策の立案、または所属機関の業務改善提案」を達成できるプログラムを作ることになりました。
 コースリーダーの小門裕幸シニアアドバイザーを中心とした研修受託先の公益財団法人国際金融情報センターの関係者や、帝京大学のカン・ビクトリヤ准教授に協力いただき、受講者が受け身になりがちと言われるオンライン方式のみであっても、研修員が主体的に参加したくなるよう、「毎授業で新しい気づきを得られる研修」にするため、第二部では中小企業やその関係者の、出来る限りの「生の声」を紹介し、研修員と講師の意見交換の時間も多く設けることにしました。
 何回もの事前検討を経て、光を当てることにしたのは、日本各地で行われている、多様な地域経済を支える仕組み(地域経営、過疎地域の試み、PPP・PFIの事例、商工会議所の共創)、そして、新興国におけるリープフロッグ(飛躍的発展)の事例です。JICA東京が担当する草の根技術プロジェクトや民間連携プロジェクトでお世話になっている地域を含め、国内とアフリカから、4事例、6人の方に講義頂きました。

地域経済を支える様々な取組みと資金の流れ 

各講義の内容を、日程順にご紹介します。


●牧野光朗さん(愛知学院大学特任教授、前長野県飯田市長)
「地域からみた日本の中小企業金融を含む金融の仕組みー長野県飯田市の取組を事例としてー」というテーマで、地方都市経営のための地域経営についてお話頂きました。
 牧野さんは、飯田市長として、地域をただ支援するのではなく、「地域の元々持っている財を活用し、住民の創意を生かしつつ、他地域との共生的な交易を行い地域を発展させる」というジェイン・ジェイコブズの著書『発展する地域 衰退する地域』に書かれている理論を実践されました。  
 具体的事例として、地域に資金が流れるように、地元企業に開発を行い実施した「LED防犯灯開発プロジェクト」や、ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点を通して住民が自ら使う電力を自ら作る「エネルギー自治」の実現とともに、事業の収益を子育て世代の定着のために利用し、地区の存続にもつなげた「上村プロジェクト」等を紹介いただきました。

●藤田諭さん(島根県隠岐郡海士町、海士町役場財政課長)
「地域起業家による地方創生—離島・過疎の地域づくり—」をテーマに、人口減少や高齢化といった地域の課題を解決するために、海士町役場が「資源を生かした仕事づくり」「移住を促進する町づくり」「教育魅力化による人づくり」を中心に財源を投入し、地域経済の好循環、若者層の増加に繋げた経験を共有いただきました。とくに、今回の研修員に向けて、海士町で行っている地元企業の支援や、産業の創出事例を紹介いただきました。
 研修員からは、「出生率の低下について海士町ではどのような施策をとっているのか?」や「既存の事業と、新しく政府が支援した事業が対立することはないのか?」などの質問が挙がり、地域の課題に対して政府や金融機関がどのように問題解決が出来るのかということに対しての関心の高さが伺えました。
 海士町の方々には、JICA東京が実施する研修コース「観光振興とマーケティング」へも協力いただいています。

●中川恵一郎さん(新潟県三条市、三条商工会議所産業振興課課長)
「地場産業(金属加工業)の進化・発展を探る」というテーマで三条市の地場産業である金属加工業が発展してきた歴史、そしてそれを商工会議所がどのようにして支えているか、について講義頂きました。
 三条商工会議所は、会員になっている企業からの国や県の補助金への申請手続きの支援や、申込窓口としての役割を果たしていますが、さらに、商工会議所独自の支援も実施しています。その内容は、国の補助金の不採択者への支援や雇用促進のための企業PR動画作成への補助金交付、小規模事業者向けの原価計算指導、首都圏での展示会への出展支援や燕三条トレードショウの実施等、実に幅広く展開しています。
 江戸時代から続く地場産業を支える三条商工会議所の取組みについて、研修員も非常に興味をもち、商工会議所という仕組みそのものについてから、地方に根差した産業支援の具体的な方法についてまで、多くの質問が挙がりました。
三条商工会議所にはこれまでJICAの草の根技術協力事業や中小企業海外展開支援事業にも協力いただいており、企業の海外進出支援にもつながっています。

●加藤文男さん(千葉県南房総市、株式会社ちば南房総副社長)
「過疎地域の『希望の星』道の駅—命がけで飛躍し、閾値を超える—」というテーマで地域PPP/PFIプロジェクトとしての道の駅の概要、そして加藤さんが初代所長を務められた「道の駅 とみうら枇杷倶楽部」の始まりや、他の道の駅とも一線を画した事業展開についてお話頂きました。
「情報で引いて、お客さんを呼び、地元の商品を売る」という枇杷倶楽部の機能のもと、地元情報のホームページでの積極的な発信、地元の観光資源と観光会社の結び付け、特産品であるびわの加工事業の推進、地域の文化保護等地域振興に結び付く多くの取組みを紹介頂きました。
加藤さんはJICA草の根事業にも長年携わられており、ベトナムやインドネシアで道の駅のノウハウを現地の人々に広めています。加藤さんのインタビュー記事がJICA東京ホームページに公開されていますので、ぜひご覧ください。

●品田諭志さん・山脇遼介さん(ケニア・ナイジェリア、ケップルアフリカベンチャーズ)
 「新ユニコーン市場アフリカーベンチャー投資の仕組みと運用方法ー」というテーマで、アフリカのスタートアップ市場や、アフリカ発のスタートアップに投資するVC(ベンチャーキャピタル)の現状についてお話頂きました。
 また、VC投資における官民協業の在り方について、チュニジアでのスタートアップに関する法律の制定、国によるFund of Funds(Fundに投資するFund)の設立の事例や、ルワンダで政府が規制を緩和することによって、スタートアップを支援した事例等を紹介頂きました。
 質疑応答の時間には、法律策定を含めVCを支援する施策について、いつ授業が終わるか心配になるほど質問が続き、VC投資に対する研修員の関心が非常に高いことが伺えました。品田さんはナイジェリアから、山脇さんにはケニアからオンライン参加頂きましたが、アフリカの早朝にも拘わらず、丁寧に対応頂きました。

よりよい金融の仕組みづくりを目指して

今回の第二部では、具体的な実践経験持つ、情熱的な講師陣に恵まれ、地域経済振興・産業育成に取り組む現場から生の声を伺うことが出来ました。中小企業側からみた制度への要望や地域での産業振興の具体的な取組みを知ることで、よりよい仕組みを作るための情報を多数得ることができました。
第一部での、国の側からみた制度や事例と、この第二部とを合わせることで、研修員の皆さんは、より総合的な視点で、今後の活動を進めて行けると思います。
研修員の皆さんからも、「日本の地域の産業を支える工夫について自分たちの国の課題解決にも非常に参考になった」や、「日本の事例を学び自国のリープフロッグを図りたい」といった多くのポジティブな感想が出ました。
これからも、各国と日本が、よりよい金融の仕組みをつくっていけるよう、協力を続けます。